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部下と上司が定期的に面談を行う1on1ミーティングを導入する企業は外資系を中心に増えています。

 

今回取り上げる大手損保会社、損害保険ジャパン(損保ジャパン)も2020年から全部署で1on1ミーティングを導入しました。損保ジャパンの1on1ミーティングの目的は「メンバーの成長と組織パフォーマンスの向上」に向けた「メンバーを主人公とした対話」だそう。その効果は意外にも育児中の男性社員にも出ているそうで。

男性社員からも「娘が熱を出したので休ませてください」の声

「今日、娘が熱を出したのですみませんが、僕、休ませてください」。

 

テレワーク中の熊中礼さん(企業営業第四部第三課課長代理)は専業主婦の妻がいますが、2歳の娘の発熱時、育児を妻だけに押しつけないようにしようと、課長に休みを申し出ました。

 

上司の中野英男さん(同課リーダー)は「いいよ」と気軽に受け止め、休みを推奨。

 

女性社員だけではなく、男性社員も家庭の事情を気軽に相談できる風土ができてきたと言います。理由は同社流の1on1ミーティングです。

1on1ミーティングで話す中野さん(右)と熊中さん(左)

 

部長や課長などの上司が部下に対して約2週間に1度、30分程度の面談を行っています。

 

特徴は、質問項目に「人生と仕事で大切にしたいことは何か」が盛り込まれていること。上司は基本的に傾聴することになっており、7割は部下が話すことになっています。

 

女性社員だけでなく、男性社員にも雑談も交えながら育児についても話してもらい、育児や介護での悩みを相談しやすくしているそう。

 

中野さん自身、ヨーロッパ赴任中には子育てをしながら働いた経験が。そのため、男性社員も勤務時間内に集中して仕事を終え、育児や介護などに十分に時間をあててほしいと願っています。

 

中野さんは自分が2人目の子供が生まれたことを、なかなか上司に言えなかった経験があります。「当時は男性が家庭の話をするのは憚られる風潮が少なからずあったのではないかと思います。仕事か家庭かの優先順位をつけるわけではないが、熊中さんには2歳の子供がいます。父となったら、父としてもやるべきことがあると職場のメンバーにも話しています」と言います。

 

もともと男性社員の育児参加を促すための取り組みではありませんが、1on1ミーティングで頻繁に話を傾聴するなか、男性社員も育児への向き合い方に悩んでいるケースがあるとわかり、フォローするようになったと言います。

 

熊中さんが初めて1on1ミーティングを受けたのは昨年の4月のこと。

 

「こういった制度があるのはコロナに関係なくありがたかったです。当時、転勤してきて環境が変わったばかりでした。周りの人間関係もわからない。家庭での役割や仕事への想いを含め、自分の置かれている立場を話すことができました」と熊中さんは振り返ります。

 

中野さんは1on1ミーティングの他にも、メンバーが今月頑張ったこと、目標を発表する場も設けたそう。熊中さんの今月の目標は「子供をディズニーランドに連れて行くこと」。それを聞くと、課のメンバーも熊中さんの育児を応援しようという雰囲気になると言います。

1on1をする上司のフォロー体制も

広報部広報グループ課長代理の及川美沙子さんによると、1on1ミーティングを導入する前も、仕事の評価や進捗確認のミーティングはありました。

 

しかし、経営環境の変化が激しい現代において、組織として高いパフォーマンスを発揮するためには、社員ひとり一人が強みを活かしていけるようにする必要があると判断。上司との対話を通して、強みを発揮できる環境作りを支援していくことが必要と考え、対話支援型のマネジメントの一環として、1on1に取り組み始めたそうです。

 

評価のためのミーティング以外に、部下がどんなキャリアを築きたいのか、プライベートも含めてどんなスタンスで働きたいのかを雑談を交えながら上司と話したりする場を定期的に設けているそう。

 

特に今はテレワークが中心となっているので、定期的な1on1ミーティングによりコミュニケーション不足が補えているようです。

 

ただ、定期的なミーティングを実施しても、どれだけ意味が見出せるかは上司の手腕にもかかっています。そのため、上司はグループ会社の派遣講師から1on1スキルについて学んだ上で部下との面談を行っています。また部下との1on1実施中に上司が感じた部下へのアプローチの課題を講師に相談できるように、フォロー体制も組んでいます。

ダイバーシティーサークル活動も展開

最近では、ダイバーシティ(多様性)に関する社内サークル活動が自然発生的に生まれ、直属の上司以外との1on1ミーティングも行われるようになっているそう。オンラインを介し、地方に住む別部署の若手が相談を依頼する機会も生まれ、社内でコミュニケーションの場が広がりを見せていると言います。

 

育児を含めた家庭と仕事のコントロールは対処法が画一的ではありません。だからこそ、1対1で話すことにより、その人なりの答えが出やすいと中野さんは分析します。

 

「あくまで本人が答えに気づくように、上司は傾聴していくだけですが、本人の葛藤を減らす効果はあると思います」。

 

 

次の記事は育休者が復帰前に上司と受ける育休者フォーラムについて伺った『復職者の不安取り除く 損保ジャパンが14年続ける育休者フォーラム』です。

取材・文/天野佳代子 写真提供/損保ジャパン