ゴミ箱と嫁姑

どうして実家には、こんなに古いものが溢れているのだろう?

 

お金がないわけでも、買い物に行けないわけでもないのに…私は実家に帰省するたびに不思議に思っていました。

 

長いこと住み続けているお宅には、多かれ少なかれこういう、ものすごく古いのになぜか買い替えられないモノがあるんじゃないかと思います。

 

我が家の古いゴミ箱の買い替えをめぐって、モノへの愛着について考えてみました。

不便で古いキッチン用ゴミ箱を買い替えたい!

我が家のキッチンのゴミ箱は、筒状のシンプルなブリキ製でした。

 

蓋もないので臭いもダダ漏れで、また6人家族のキッチン用に使うには容量が小さすぎて、しょっちゅう中身を45Lのゴミ袋に移し替える必要がありました。

 

聞けばこのゴミ箱は、現在50代の夫が子どものころから使っているとのこと。度重なる引っ越しにも負けず、ついに三世代同居を始めたこの家にもついてきた、まさに年代物のゴミ箱です。

 

昔のものだけに造りがよいのか、丈夫で壊れることもなかったよう。

 

しかしここ数年、私は、その使い勝手の悪さがどうにも気になるようになりました。さすがに塗装のペンキも剥げ、そこから錆びも発生しています。

 

私は考えました。どうせ毎日大量のゴミが出るのだから、大きなゴミ袋をそのままセットできる、そして蓋がついていて臭いが漏れないゴミ箱に買い替えよう。キャスターがついているものを選べばゴミを玄関に運ぶのもラクだし、一日何度もゴミを入れ替える必要がなくなる。義母も手間が減って喜んでくれるに違いない、と。

 

ゴミ箱を買い替えようと思っているんですよ、と義母にもちかけると、いいんじゃない?という軽い反応。

 

思い立ったが吉日と、さっそくホームセンターで希望通りのシンプルなゴミ箱を購入し台所に設置しました。これでキッチンもゴミが丸見えにならずにスッキリする!とご満悦の私でしたが、義母はどこか不満そうなのです。

どんなに便利でも「習慣を変えるほうが面倒」

ほどなくして義母は、新しいゴミ箱への不満を漏らすようになりました。

 

「蓋が開けにくい(そうならないようにと思って一番シンプルな開け方のものを選んだのですが…)」 とか、

 

「開けたときの臭いが気になるから消臭剤を買ってきて(今までフルオープンだったのに比べたらずっとマシになったと思うのですが…)」 とか。

 

義母の話を聞いているうちに、なるほどこれは具体的なゴミ箱への不満ではなくて、長年慣れ親しんだ習慣が変わったことに対する戸惑いなのだな、と気づかされました。

 

私としては、今までが不便すぎたと思うのですが、義母にとっては、便利になったという以前に、数十年続いた当たり前の習慣が、突然変わってしまった戸惑いのほうが大きかったのです。

 

そういえば、今まで家にあった古いものを買い替えようとすると、義父母はいつも難色を示していました。たとえ買い替えた結果どんなに便利になるとしても、「今までの習慣が変わる」という一事において、高齢者は特に危機感を覚えがちなのではないでしょうか。

 

私は過去に少しだけ介護職の経験がありますが、その頃によく見聞きした「たとえどんなに日常生活に不自由があっても、ヘルパーに頼ったり、自分の家を離れることを頑なに拒否する高齢者」の存在も、この延長線上にあるのかもしれないな…と思い当たりました。

 

どんなに便利に、ラクになると言われても、慣れ親しんだ習慣が変わることは、高齢者にとっては大きな危機を感じてしまうのではないでしょうか。

「便利だった、すぐ慣れた」のスモールステップ

幸い、義母は新しいゴミ箱にほどなくして慣れ、今では「ゴミの処理がすごくラクになったわね!」と喜んでくれています。

 

若い世代にとってどんなに良い変化に思えたとしても、いきなり大きく環境を変えるのではなく、今回のゴミ箱のように「変えてみたら便利だった、すぐに慣れて大丈夫だった」という実感をしてもらい、変化へのスモールステップを踏んでもらうことがとても大切なのではないでしょうか。

 

そしていくら便利だからといって、義父母世代に馴染みのない機械や道具を無理やり押し付けないことも…。

 

このゴミ箱問題、これからさらに年を重ねていく義父母に対して、私たちはどう接していけばいいのかを考えるとてもいい機会になったな…と思うのでした。

文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ