共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
2020年秋、総合人材サービス大手パソナグループが東京にある本社機能の一部を兵庫県・淡路島に移転すると発表し、話題となりました。2024年5月末までに約1800人分の管理部門の業務のうち約1200人分を淡路島に移していくとのこと。
それに関連し、2021年5月末時点では約230人が異動しました。人事担当役員の金澤真理・常務執行役員に聞きました。
コロナ禍で一極集中を避ける狙い
── 本社機能の一部移転の狙いはなんでしょう。
金澤さん:
地方創生事業として、淡路島での雇用創造を2008年から始めていました。若者の人材育成の観点から、農業など 都心ではできない雇用スタイルを作ってきていました。
最近では、コロナ禍において、都心で十分な音楽活動ができない音楽家を淡路島に誘致し、それぞれの音楽スキルを活かしながら、島内各施設等で演奏活動を行う産業を生み出しています。
そんななかコロナがあり、東京一極集中を避ける狙いで本社機能の一部移転を決断しました。災害時などに備える事業継続計画(BCP)策定の観点でも重要との判断です。
── すでに何人が異動しているのでしょうか。
金澤さん:
希望者約230人がすでに異動しています。淡路島に本社機能が一部移転したことで、社員が自然豊かな環境で生活できるようにしようと思っています。また、新しいキャリアに挑戦できるよう意向を聞いて調整しています。
私自身、5歳の子どもがいますが、東京と淡路島の半々生活です。東京では東京の会社の中にある託児所に預けて通勤し、淡路島でも社内の託児所に預けて一緒に動いています。
社員の新たなキャリアステップに
── 当初、社員では移転に驚く反応もあったのではないでしょうか。
金澤さん:
淡路島での施設運営のほか、入社式や様々な研修を淡路島にて実施するなど、淡路島の事業に力を入れていることは理解してくれていたと思います。
東京では営業職だった人が事務、経営管理を担当したいということで淡路島を希望するケースもありました。今までになかった仕事ができる新たなキャリアステップと受け止めていると思います。
── キャリアステップの中で女性の働き方を意識されている面はありますか。
金澤さん:
家庭の主婦の再就職支援を応援したいという思いから当社の事業はスタートしました。雇用をテーマに社会の問題点を解決することを事業を通じて取り組んできました。そして、淡路島ではひとり親の方を採用するなど、女性の働きやすい環境づくりにも取り組んでいます。
── 東京から離れて不便はありませんか。
金澤さん:
東京までトータル約3時間ほどかかるのですが、神戸までは30分ほど。恵まれた地の利があり、不自由もないです。移住した社員からは部屋が広くなった、家賃が安くなって住みやすくなったといった声が聞こえています。
── 改善点として捉えていることはありますか。
金澤さん:
自治体とも協力していますが、通信インフラをもう少し強化していきたいです。また、住居は整えていますが、交通インフラとして車、バスが必要となり、社員が増えていく中で、カーシェアをしたり、循環バスを増やしたりしています。車は携帯で予約し、携帯で鍵を開けられるようにもなっていて、便利になってきています。
── 他社でも地方に本社機能移転が広がるにはどのような工夫が必要だと考えますか。従業員にメリットを理解し、モチベーションを保ってもらうためにはどのような取り組みが必要でしょうか。
金澤さん:
現地視察に行きたいとよく聞かれますが、今はコロナ禍で見合わせています。当社は2008年から10年以上の期間、淡路島にて事業を行い、少しずつインフラ整備を進めてきました。
社員が知らない地方に移住するにはハードルが高いと思われるかもしれません。
まずは、知らない地域から関係のある地域として関わりを持ち、ワーケーション体験などを通じて、社員にその地方の魅力を知ってもらうなど、段階的に進めてみてはいかがでしょうか?
私たちも淡路島に実際住んでみて、カーリースがあった方が良いとか生活に必要なことがわかります。最近では、企業様が淡路島にてワーケーション体験ができる設備を整えているほか、いろいろな施設があるのでコロナが落ち着いたら見ていただいて、広がると良いと思っています。
淡路島移住で得た家族時間
── 淡路島への移転に伴い、今後会社として力を入れている点はどこですか。
金澤さん:
時間・場所・職種などを超えて、複数の業務に従事する「ハイブリッドキャリア」に力を入れています。ハイブリットキャリアを実践することで、時代の変化に柔軟に対応できる人材を広く育成していきたい。淡路島だからできることがあります。東京ではできない仕事の分野があります。それらを広く経験してもらいたいですね。
また、当社は派遣スタッフも多くいますが、次のキャリアステップとして、地方でトライしたい人に淡路島で活躍してもらうことも視野に入れています。
そのほか、音楽・芸術・文化などのプロデューサー人材など多様な人材が淡路島に集まり、淡路島を音楽や芸術・文化があふれる島にしていきたいとも思っています。
── 移住されて1年の実感をお願いします。
金澤さん:
社員が淡路島に移住して、活き活きと働いているという声を多く聞いており、とても嬉しく思います。淡路島にきて、違う発想ができたとか、家族連れの社員は東京では毎日家族で食卓を囲む時間はなかったが、淡路島では家族と過ごしたり、勉強したりする時間ができたという声も聞けて喜んでいます。
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淡路島に本社機能を一部移転したパソナグループ。家族と過ごす時間を大切に東京では体験できなかったキャリアを経験しているようです。次の記事「パソナ、淡路島でのひとり親支援に300人以上が応募」では、パソナグループの淡路島でひとり親支援の取り組みを伺います。
取材・文/天野佳代子 写真提供/パソナグループ