休息だけでなく、心身の発達や成長のために大切な役割を果たす睡眠。

 

前回の『

子どもの睡眠不足の怖さ「心の発達・学力・肥満」に影響

』の記事では、子どもが慢性的な睡眠不足に陥ると、成長の遅れを招くことがあることがわかりました。

 

今回は、眠りの「質」に大きく関係する睡眠中の呼吸について、太田総合病院記念研究所太田睡眠科学センター所長であり、日本睡眠学会理事を務める千葉伸太郎先生に教えてもらいます。

よく眠れていない子どもが増えている

子どもが寝ているとき、大きないびきやひどい寝汗をかいたり、息苦しそうな様子で心配になったりする保護者もいるのではないでしょうか。

 

近年、呼吸が原因で”よく眠れていない子ども”は増えていると千葉先生は指摘します。

鼻呼吸をしにくくするアレルギー疾患

「子どもの鼻炎の発症率が高くなり、どんどん低年齢化が進んでいることもひとつの要因です。アレルギー疾患を持つ子どもが、非常に増えている状況も大きく関係しているといえるでしょう。

 

アトピー性皮膚炎のかゆみ、気管支喘息の咳、花粉症などのアレルギー性鼻炎の鼻づまりなどアレルギーの症状は、夜間に悪化します。

 

子どもは、鼻がつまると呼吸がうまくできなくなってしまうため、口で呼吸をするようになります。ですが、本来鼻呼吸には、口呼吸にない様々な(例えば脳の冷却)機能があるのです。

 

特に夢を見るレム睡眠の間は、脳の活動が活発になり温度が上昇しています。

 

すると睡眠を維持するために脳の温度を調節する必要がありますが、睡眠時に口呼吸になっていると、温度調整がうまくいかず、結果的に、睡眠の質が低下する恐れがあります」

哺乳類の自然な呼吸は「鼻呼吸」

「乳幼児の子どもにとって鼻づまりは死活問題。なぜなら、大人は、鼻でも口でも呼吸をすることができますが、生後まもない赤ちゃんは、鼻呼吸しかできないからです。

 

そのうえ、赤ちゃんは鼻腔が狭く、生理的な分泌物も多いため、鼻がつまりやすい。鼻づまりになると呼吸がしづらく、機嫌が悪くなってしまうという悪循環も起こります。

 

人間以外の哺乳類は、基本的に鼻呼吸で酸素を取り入れます。ですが、近年、お口がぽかんと開いたままの子どもたちが非常に増えています」

さまざまな弊害をもたらす口呼吸の怖さ

口呼吸は顔の骨格の発達に影響します。本来であれば、口は物を食べたり声を出したりするとき以外は、閉じている状態が自然な状態です。

 

「口が開いていることが常態化すると、下顎が下がり、舌の位置も下がります。そうすると、遺伝ではなく、後天的に下顎が小さくなってしまいます。

いわゆる小顔の子どもは審美的にはよいとされていますが、気道が狭いことが多く、呼吸をするうえでは不利に働きます。

 

そして、大人になったとき、少し肥満気味になった途端に、重度の無呼吸症が発症してしまう可能性も少なくありません。

 

実際に、最近では成人女性の睡眠時無呼吸症候群も増加しています。その最たる理由は、顎が小さくなっていることが大きく、今後、日本女性の睡眠時無呼吸は増加していく可能性があります。

 

また、幼い頃の呼吸習慣がよくないと、適切に下顎が発達せず、歯並びも悪くなる。歯並びが呼吸に関わることは以前から知られていますが、最近では、それが睡眠に影響を及ぼすこともわかってきました」

 

口呼吸は、顎の成長や歯並び以外にも、虫歯や感染症にかかりやすくなるリスクが増えるどころか、いつもイライラしてたり、食欲があまりなかったり、無気力になったり。心身に大きな影響を及ぼします。

 

さらに口呼吸がクセになってしまうと、顎から下がもっさりしてたるんだアデノイド顔貌になってしまう恐れもあるそう。

 

「人間にとって口呼吸は、睡眠の質を低下させるだけでなく、子どもにも大人にも何ひとついいことがありません」

大人と違って気づきにくい!子どもの睡眠時無呼吸症候群

睡眠中に呼吸が止まる状態を”睡眠時無呼吸症候群”と名付けたのは、スタンフォード大学睡眠医学センターのギルミノー博士。

 

睡眠時の呼吸力の低下は、眠りの質を低下させ、日中のパフォーマンスにまで影響があるということを明らかにしました。

 

睡眠時無呼吸症候群のほとんどは、のどや気道がふさがってしまうことから無呼吸症が起こる”閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)”に該当します。

 

同じOSAでも、大人と子どもでは、病態も形態も診断基準も異なります。

 

「大人の場合は、大きないびきをかいて、一時的に呼吸が止まるなどの症状があり、気付きやすい。

 

一方、子どもの無呼吸症状は、息がピタッと止まるようなことがあまりなく、非常に浅い低呼吸で気づきにくい特徴があります。

肥満が無呼吸の原因になることもありますが、子どもの場合は、下顎の極端な小ささや、鼻炎による鼻づまりなどが原因になりやすいですね。

 

子どもの無呼吸は、大きないびきをかかない場合や、大人のように呼吸が止まっている様子がみられないこともあるので、注意が必要です」

子どもの不眠サインを見逃さない

できるだけ早期に子どもの不眠に気づくために、日頃から、子どもの寝姿をよく観察しておくことも大切です。

 

無呼吸症候群や不眠の判断ポイントは大きくわけて3つあると千葉先生は言います。

 

「まず1つ目はいびき。鼻づまりや、アデノイド肥大などさまざまな原因がありますが、当院にも実際にいびきで相談にこられるお子さんは多いですね。

 

2つ目は、首を上向きに伸ばし顎をつきだすような姿勢で寝ていること。この寝姿勢は、呼吸を少しでもラクにする気道確保のために、眠りながらも緊張している可能性があります。

 

3つ目は、呼吸のたびに胸とお腹が通常よりも大きく収縮する”陥没呼吸”です。必死に呼吸をしている状態なので、ぐっすり眠れていないといえるでしょう。

 

ほかにも、寝ているときに咳込んだり、日中に機嫌が悪い場合は、眠りの状態がよくない可能性があります。気になる点がある場合は、必要に応じて専門医に相談してください」

 

次回は、睡眠リズムが崩れてしまう「概日リズム睡眠障害」や、病気未満の子どもたちが増えている背景などを教えてもらいます。

 

PROFILE 千葉伸太郎

千葉伸太郎先生プロフィール写真
医学博士 太田総合病院記念研究所・太田睡眠科学センター所長。慈恵医大准教授。日本睡眠学会理事(副理事長)。東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科から、スタンフォード大学医学部睡眠&生体リズム研究所客員講師を経て、長年、睡眠の研究に携わる。著書に『子どもの脳をつくる最高の睡眠 勉強、運動のできる子は、鼻呼吸をしている』(PHP研究所)がある。

取材・文/仲宗根奈緒美