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栄養面を考えた「グリコ」や「ビスコ」など子ども向けのお菓子でおなじみの江崎グリコ株式会社。子どもが生まれたばかりの家庭のために、1か月の有給休暇が取得できる独自の制度「Co育てMonth」で社員の育児に変化を生み出しています。

 

もともと2019年から子育ての課題を解決する「Co育てPROJECT」を展開していますが、なぜ「Co育てMonth」が始まったのか、どんなふうに1か月の休暇を実現しているのか、「Co育てPROJECT」リーダーの宮崎友恵さんにお聞きしました。

 

Profile 宮崎友恵さん

江崎グリコ・宮崎さん
大学卒業後、食品メーカーなどを経て、2013年江崎グリコ入社。栄養食品や「ビスコ」などのマーケティングを担当した後、コーポレートコミュニケーション部で「Co育てPROJECT」のリーダーを務める。プライベートでは2児の母。「子どもの健やかな成長」を公私ともに応援していきたいと、日々仕事と家庭に全力投球。

仕事の連絡禁止。1か月間、夫婦で育児を乗りきる休暇

── 「Co育てMonth」はどんな制度なのでしょうか。

 

宮崎さん(江崎グリコ):

子どもの出生後6か月以内の社員を対象に、1か月の有給休暇を取得することを必須化した制度です。休暇中は原則として会社の携帯電話やパソコンも使用禁止で、仕事関連の連絡はいっさいしてはいけないルールになっています。

 

── 「Co育てMonth」が生まれた背景を教えてください。

 

宮崎さん(江崎グリコ):

江崎グリコは、創業以来、「子どものココロとカラダの健やかな成長に寄与」し、“事業を通じて社会に貢献する”をテーマに事業を推進してきました。20194月からは、妊娠期から2歳までの1000日間を子どもの基礎をつくる大切な時期と捉え、その時期の子育ての課題解決を目指す「Co育てPROJECT」を行っています。

 

プロジェクト名の「Co」は、Communication(和気あいあいと)・Cooperation(上手に協力しながら)・Coparenting(一緒に子どもを育てる)の3つの“Co”を取った造語で、家族のコミュニケーションや育児協同を促し、良好な関係づくりを促進する取り組みとして展開しています。

 

活動の柱は、ベビー・育児商品の強化Co育て支援サービスの提供、産・官・学との連携の3つ。また社内では、人事制度を中心に行っていて、「Co育てMonth」はそのひとつです。

江崎グリコ本社社屋

── 「Co育てMonth」が生まれる前に、土台として「Co育てPROJECT」があるのですね。

 

宮崎さん(江崎グリコ):

そうなんです。「Co育てPROJECT」の検討が始まったのは2017年でしたが、当時、世の中にはワンオペ育児やパタニティハラスメントなど、決して良い育児環境とは言えない話題が多く、江崎グリコについても男性育休取得率はわずか4%でした。

 

Co育てPROJECT」では社会に向けた事業とともに、社内でも人事部、労政部、マーケティング部など各部署との連携で、制度の見直しなどを行いました。

 

そこで、法定の産前産後休暇・育児休暇の期間以外にも、妊活のための休暇や、子どもだけでなく孫の看護や検診、学校行事への参加のための休暇を取得できる「Co育て休暇」制度を作りました。内縁関係にある人から結婚している人、子どものいる人、孫のいる人が幅広く対象者となります。

 

── 結婚や家族という枠にとらわれない、自由度の高い休暇制度なのですね。「Co育て休暇」制度ではどんな効果が生まれましたか?

 

宮崎さん(江崎グリコ):

この休暇では、メニューのひとつとして20194月から5日間の男性育休を必須としたのですが、2017年には4%だった取得率が制度導入後は38%まで改善しました。

業務を引き継ぐ社員の「評価」を細かく仕組み化

── 男性育休の取得率が数年で4%から38%まで改善したとは、大きな変化ですね。そこからなぜ、「Co育てMonth」が生まれることになったのでしょうか。

 

宮崎さん(江崎グリコ):

数字自体は向上したのですが、男性の育休取得者にヒアリングしてみると本来の目的が達成できていないことがわかったんです。

 

5日間の男性育休は、夫婦が一緒に子育てすることで子どもにいい影響を与えるという研究結果を踏まえての取り組みだったのですが、取得した社員に聞くと、「通常の有給休暇とあまり変わらない」「子どもと向き合う時間は取れたけれど、本格的な育児参画にはほど遠い」などの声が多数ありました。

 

もっと育児に積極的に参画できる環境づくりを進めるために、20201月、新制度「Co育てMonth」を始めました。

 

── 育児がスタートしたばかりの生後半年までの間に、男女とも安心して育児に専念できるための制度なのですね。いっぽう、1か月の間、業務を引き継ぐまわりの社員がスムーズに仕事ができることも大切だと思います。何か工夫はされていますか?

 

宮崎さん(江崎グリコ):

はい。普段から仕事やプロセスの可視化や共有、チームで仕事をするなど職場全体で取り組むことが重要だと考えています。また、休暇前は上長とのコミュニケーション、業務引継ぎをルール化しています。たとえば、社用のパソコンやスマホは使用禁止になります。

 

業務をサポートした社員に対しても、「行動評価」として評価をしています。さらに引き継いだ業務で成果が出た場合は、「成果評価」としてより高く評価されるようにしています。そのほか、「Co育てMonth」の対象者、上司向けに休暇取得のためのガイドブック、復帰後の両立支援のガイドブックも作成し、活用しています。

育児の分担について夫婦で話し合うきっかけに

── 「Co育てMonth」はどんな効果を生んでいるのでしょうか。

 

宮崎さん(江崎グリコ):

取得した社員や、その同僚、部下、上司からはこんな声があがっています。

 

「育児が過酷だといえるほど大変ということがよくわかった」 「『Co育てMonthを取ります』と言いやすくなった」 「属人化している業務を標準化できた」

 

また、「妻は今育休中でいずれ仕事に復帰するけれど、復帰後どんなふうに妻の負担を減らし分担するか、妻と話し合った」という声もありました。「Co育てMonth」は、夫と妻が一緒に育児について考えるきっかけにもなっているようです。

 

Co育てMonth」の取得率は100%。2020年には厚生労働省の「イクメン企業アワード2020」で理解促進賞を受賞しました。

江崎グリコ_Co育てMonth取得社員
「Co育てMonth」を取得した社員の様子。上の子の遊び相手をしたり、子どもたちとかけがえのない時間を過ごす

── 制度を通して、まさに夫婦で一緒に育児をすることが浸透しているのですね。いっぽうで、何か課題に感じていることはありますか?

 

宮崎さん(江崎グリコ):

課題はこまかく挙げればたくさんあります。例えば、業務の引き継ぎや分担の見直し、社内理解の促進など。これらの課題を全社で解決できるように取り組みをしていますし、今後も続けていきたいです。

 

また、江崎グリコでは、会社として「社員が自らライフデザインを行い、多様な人財が活躍できる企業風土」、また「従業員とその家族がCo育てを行い、従業員の子どもの健やかな成長に寄与できていること」を目指し取り組んでいます。

 

それらが実現できているかを忘れずに推進していくことが重要だと考えています。今後も「会社でのCo育て」「家庭でのCo育て」両方を支援しつつ、Glicoは事業を通じて社会に貢献していきたいです。

 

 

社内でも、社会に対しても「一緒に子育てをする」をメッセージに取り組みを進めている江崎グリコ。1か月間、社員が育児に専念できる「Co育てMonth」も、地道に輪を広げる中で少しずつ実現を可能にしたといえるでしょう。今後も独自の制度を通して、夫婦ふたりで、また周囲と協力しながら子育てすることが当たり前の社会づくりを実現していくに違いありません。

 

【会社概要】
社名: 江崎グリコ株式会社
創業年月日:1922年(大正11年)2月11日 設立年月:1929年(昭和4年)2月
業種: 食品
事業内容: 菓子、冷菓、食品、牛乳・乳製品の製造および販売

取材・文/高梨真紀