ヒソヒソ話をするママ友に苦しむ女性

世の中、誰とでも仲良くできる人ばかりではありません。でも「ママ友」というのは、子どもが同じくらいの年齢であることだけで、ある種の連帯感をまとった人間関係を余儀なくされます。そこに「圧」を感じて疲れてしまう人も多いようです。

出かけようとすると「どこ行くの?」とママ友が

「今だから言えるけど、ママ友との関係は私にとっては地獄でした」

 

サオリさん(42歳・仮名=以下同)はそう言います。もともとあまり人間関係がうまくないと自覚のあった彼女は、上の子が中学生に、下の子が小学生になるタイミングで、学区が違う場所に引越しまでします。

 

「というのも、下の子の幼稚園のママ友関係が悲惨だったので」

 

そもそも子どもが生まれても仕事を続けるのが当然だと思っていたサオリさん。しかし、上の子に先天的な病気があり、手術やリハビリを繰り返したため目が離せない状態で仕事を辞めざるを得なかったそう。子どもが6歳違うのも、第二子をもうける時期が見定められなかったからでした。

 

「上の子のときはママ友とつきあっている余裕もなかったんですが、下の子のときはガッツリつきあわざるを得なくて。誕生会のような子どものイベントならいいんですが、ママ友だけで集まるのが本当に苦手でした。そこでは上の子のことまで聞かれて。『病気がちって、どこが悪いの?』『遺伝?』とか。ひどいですよね。でも、ムッとすると場が険悪になるから、笑って適当にごまかすしかなかった」

 

当時住んでいた中規模マンションには、ママ友も数人いました。出かけようとすると、「どこ行くの?」と声をかけられます。「ちょっとね」と言うと「ちょっとって?」とさらに聞こうとされたとか。普通なら「ちょっと」と言えばそれですむはずなのに、とサオリさんは苦笑しました。

ママ友は自分で選んだ友だちではない

あるとき家族で出かけて帰宅すると、マンションの前でママ友ふたりが話し込んでいました。サオリさんを見ると、「どこ行ってきたの?」と早速、声をかけてきます。

 

「夫は子どもを連れてさっさと行ってしまって。私も適当にきりあげようとしたら、『あなたってすごく秘密主義よね』って。ケンカをふっかけているのかなと思ったけど、私が彼女たちと距離を置きたいのがわかっていたんでしょうね」

 

そもそも、ママ友は自分が選んだ友だちではないとサオリさんは言います。子どもが幼稚園や学校で一緒だからつきあわざるを得ないだけ。あくまで子どもを介した知人として距離をとりたいのが、彼女の本音でした。

 

「でも私が嫌われたからでしょうね、下の子も幼稚園でママ友の子からは無視されるようになったんです。“うちの子とは遊ばないように”と示し合わせたみたい。幼稚園はあと半年程度で卒園でしたから、もう行かせませんでした」

 

ただ、小学校に上がっても同じ状況になるのは避けたかった。と彼女は言います。幼稚園からはみんな同じ小学校に上がるのがわかっていたからです。

関係性に疲れたら、環境を変えるのもあり

「私たちが住んでいたマンションは、夫の会社の借り上げだったんです。もともと家族4人で住むには狭くて困っていました。夫は会社と交渉してくれて、他のマンションに住んでも住宅手当という形で補助が出ることになって。だったら、違う学区に引っ越そう、となりました」

 

同じ市内ですが、最寄り駅も違うところにしました。上の子も下の子も、今は楽しく学校に通っているそうです。

 

「かつてのママ友たちがどんな噂をしているかはわかりませんが、私はあくまでも『夫の仕事の都合で引っ越さなければならなくなった』と言い、どこへ引っ越すかも言いませんでした。私自身が人間関係をうまくやれなかったんだろうと反省もしていますが、今の場所ではママ友縛りはありません。私自身も仕事を始めたし、ようやくあの地獄から抜け出せた。そんな気持ちです」

 

ママ友関係で疲弊しても、なかなか誰かに相談することもできません。環境の違う友人にはわかってもらえないでしょうし、愚痴れば愚痴るほど自分がつらくなっていくものだから。

 

「環境を変えたら、本当にスッキリした気持ちで暮らせるようになりました。ラッキーだったと思っています」

 

あのままムリをしていたら、自分の心身が危うかったとまでサオリさんは言います。問題が生じたときは、さまざまな角度から解決法を考えたほうがよさそうです。

 

ヒソヒソ話をするママ友に苦しむ女性
娘と楽しく歩く女性
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。