共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
コロナ禍でリモートワークやフレックス勤務を取り入れる会社が増えましたが、一部の職種に限られたり、結局出社中心に戻ったりと、運用については試行錯誤が続いています。
そんな中、株式会社クラウドワークスでは、コロナ前の2019年7月に「フルフレックス・フルリモート勤務制度」を全社導入することを発表しました。
すべての部署で導入に至った背景や具体的な取り組みについて、人事の小野さん、佐々木さん、広報の山森さん、鹿原さんに伺いました。
PROFILE
フルリモ・フルフレを始めたきっかけは社員の声
──2019年7月から「フルフレックス・フルリモート勤務制度」を全社導入されたとのことですが、まずは制度の中身について教えてください。
小野さん:
フルフレックス・フルリモート制度(以降、フルフレ・フルリモ)は、全社員を対象にしたもので、深夜残業時間帯以外であれば、コアタイムなどの縛りなく、個人の裁量で勤務時間を自由に決めることができるフレックス勤務と、就業場所を事前に設定し、オンラインでの勤務も自由に日数制限なしでできるリモートワーク勤務の両方を可能にした制度です。
フレックスは月内で労働時間を調整すればいいので、今日は3時間であがって、ほかの日にその分多めに働くということもできます。もちろん、休みは週末にしっかり取ってもらっています。
──部署や職種によってはリモートやフレックスが難しいというケースもよく耳にする中、全社導入はすごいですよね。導入にいたった経緯について教えてください。
小野さん:
フルフレ・フルリモ導入前は、全社員が当たり前のように10時に出社して19時まで勤務するスタイルでした。
でも以前から、開発エンジニアや子育て世代からは「通勤つらいよね」とか「リモートワークしたい」というような声が結構出ていたんです。ほかにも「そもそも10時〜19時で働くのってなんでだっけ?」みたいな、現状の働き方に疑問を持つ声もありました。
弊社には、メンバーから何か提案があったら「まずはやってみよう」という “まずすぐ” 文化があります。実際にやってみないとわからないし、やってみて修正して、それでもだめならやめるという考え方です。
なので、2016年の早い時期から、まずはエンジニアの部署を中心にリモートワークやフレックスを取り入れてみることにしたのです。
──“まずすぐ”文化、いいですね。実際に取り入れてみていかがでしたか?
小野さん:
最初はフルではなく、週3日くらいリモートワークをするところから始めたのですが、やってみたら普段なら3時間かかっていた業務が2時間で終わったなど、意外と生産性が上がるという声が聞かれました。
生産性が上がった理由は、リモートワークのほうが集中できるからです。オフィスでは、エンジニアたちも周りに他部署のメンバーがいる中で仕事をしています。そのため、営業職が電話をする声が聞こえたりするのですが、エンジニアの場合は方針さえ決まってしまえばあとは各自集中して作業をするだけというケースが多いので、自宅の方がよかったということです。
フレックスについても、あるエンジニアに話を聞いたら、朝6時から仕事をして、いったん11時くらいから休憩をとって、昼に水泳をして、14時にまた仕事に戻るという働き方をしていました。極端な例かもしれませんが、その話を聞いた時、「めちゃめちゃ新しいじゃん!」と思いましたね。
1日8時間勤務すれば途中で休憩を取ったり、仕事に戻ったりすることも基本的にはOKなので、特に自宅で仕事をするときはかなり自由に働けます。おかげで、以前よりも仕事とプライベート、両面楽しくなったという声が多く聞かれるようになりました。
──エンジニアのみなさんにとってはうまくいったということですね。他の部署のみなさんはいかがでしたか?
小野さん:
営業職や経理など、すぐにフルリモートにするには難しい部署もありました。当時、営業職は直接会いに行く営業スタイルが基本でしたし、経理は実際に紙は必要だよねとか、法務も直接会って相談しないと進まないという課題がありました。
そのため、各部署で段階的に整備をして、フルフレ・フルリモができる環境を整えていきました。営業職は直接会いに行くのをどんどん減らしてリモートに切り替えていきました。
弊社の営業先はITベンチャーが多かったこともあり、リモートミーティングに抵抗を示すところは少なかったのですが、なかには直接来てもらわないと…という会社もあり、完全にリモートに移行するまでは時間がかかりました。
経理では、クラウド会計サービスの初期クライアントとして実験的に参加させてもらいながら、会計処理のオンライン化を進めたり、はんこも法的に必要ないものはどんどんなくし、領収書も電子化するなど進めていきました。
各部署の準備が整ったことで2019年7月にフルフレ・フルリモ全社導入ということを対外的にも発表しました。なので、3年くらいかけてシフトしていったという状況です。
リモートワークでチーム崩壊の危機もあった!?
──全社導入まで3年ほどかかったとのことでしたが、問題などは発生しませんでしたか?
小野さん:
リモートで姿が見えないからこそ、仕事をちゃんとしているのか、寝ているんじゃないか、などという不安はありました。
実際、過去には本格的にサボる人が何人かいました。それによって成果が出にくくなることよりも、チームのメンバーが抱える不満の方が大きくなってしまって…。1人のせいでチームが崩壊してしまう危険性が何例かあったので、そこは怖いなと思いました。
やはり信頼と信用でチームは動いているので、そういった信頼関係を築けないとリモートワークやコアタイムなしのフレックス勤務は厳しいです。
──チームが崩壊するのは怖いですね。本格的にサボる人に対しては、どのような対応をとられたのですか?
小野さん:
たとえば、チームごとに決まった時間に定例ミーティングをすることが多いのですが、その時間になっても現れないというようなことが多発したメンバーは、しばらくリモートもフレックスも禁止にして、10時に出社してもらうようにしました。
まずは生活リズムを整えてもらうことを優先してもらったのです。そして、自分のことだけでなく、チームメンバーのことも考えられるようになったらリモートもフレックスも解禁というふうにしました。
よく間違われがちなのですが、フルフレ・フルリモは福利厚生ではなくてあくまで制度のひとつです。生産性を上げることを前提に取り組んでいることなので、フルフレ・フルリモだから仕事がラクということにはなりません。
──確かに、フルフレ・フルリモを導入して成果が下がってしまったら意味がないですよね。実際、エンジニアだけでなく、ほかの部署でも生産性は上がったのでしょうか。
小野さん:
カスタマーサポートであれば、1日の対応件数が10件から15件に増えたとか、営業職も1日の交渉件数が格段に増えて営業成績も上がったなど、生産性が向上したという声は多いですね。実際に社内でとったアンケートでも、約半数が「生産性が向上した」と答えていました。
ただ、何か重要な物事を決めるとか、方針が決めるまでは直接会って、方針が決まったらリモートをするなど、最近はチームによってリモートとリアルを使い分けているというのが現状です。
山森さん:
会社としてはどちらかを強く勧めるのではなく、仕事の内容によっていい方を選択しているということです。
弊社では、現在ポリシーとか全社ルール作りに取り組んでいて、昨年は、社内でどうしたらより良い組織になるのかということを議論しました。そして、リモートワークとリアル出社の使い分けについても定義づけをし、全社で共有する『ソリューションブック』にまとめました。
例えば入社間もない人がいるチームは、新人が孤立してしまわないように、数か月は出社中心にして顔を合わせましょう、というルールにしています。
本日、私と小野と鹿原はオフィスから参加しているのですが、まさに鹿原は新入社員なので、チームみんなで出社して一緒に仕事をしています。
佐々木さん:
私は現在、出社は月に2〜3回くらいで、あとはリモートワークをしています。
子どもが2人いるのですが、ひとりは生まれながらに疾患があって、通院なども必要だったので、いったん会社員を辞めて業務委託で在宅ワークをしていました。そのなかで出会ったのがこの会社だったんです。もし弊社が正社員でリモートワークができない会社だったら、私は今ここにはいませんでした。
私の周りには、同じようにママになったタイミングで仕事が続けられなくなったり、子どもの小学校入学のタイミングで時短勤務が切れるからどうしようかと悩んでいるママがたくさんいます。世の中にフルフレ・フルリモのような働き方が広がれば、そうしたママたちも仕事を続けやすくなると思います。
いろんな人がいて、いろんな働き方ができることを私自身も示していけたらと思っています。
…
フルフレ・フルリモは、すべての人にとって自由な働き方をかなえてくれる制度だと感じました。
特に子どもの病気や学校行事など、子育て中には柔軟に対応せざるを得ない状況がさまざまあります。全社員が同じ条件で利用できるこの制度は、ママたちの時間的負担と、心の負担を軽くしてくれる制度だと感じました。
取材・文/田川志乃 取材協力/株式会社クラウドワークス