大手回転寿司チェーン「すし銚子丸」では、長時間労働の改善と、利益を両立するため、業務を効率化してきました。長年の仕事のやり方を抜本的に変えたオンラインの積極活用術について、前回に続き、同社の堀地元・常務取締役にお話をうかがいます。
買い付けをLINEで
── 仕事の効率化によって、生産性が上がっていると聞きました。
堀地さん:業務のオンライン化を進めています。たとえば、遠方の魚の買い付けを一部オンラインでやるようになりました。買い付けは朝5時半くらいから始まるので、四国の港のような遠方だったら、前日までに現地に入っておく必要があります。前日から地元の人とお酒を飲んで、ご飯を食べて、というところから仕事が始まっていたのですが、今は朝オンラインでつながればいいので、かなり負担が減っています。
── 実現にはハードルが高かったのではないですか?
堀地さん:アイデアが浮かんでからはスムーズでした。「オンライン買い付け」といっても、ラインでつながるだけ。新たな投資をしたわけではありません。
港からとったばかりの魚を買うので、鮮度はまず問題ないわけです。買い付け担当の人間はベテランですから、カメラ越しでも魚については分かります。向こうのカメラを魚に向けてもらって、「ちょっと右を映して」「ちょっと魚開いてくれない?」とか言いながら、やっています。
事前にサンプルの魚を送ってもらうこともあります。よかったら注文を出して、翌日サンプルと同じ捕りたての魚を送ってもらうのですが、その時にあらためてオンラインで状態をチェックすることもあります。
相手は最初は「大丈夫?写るかな?」とか言いながらやっていましたが、こちらとしては1回の買い付けには2~3人行くし、時間と交通費などいろんなことを考えると、とてもメリットが大きいんです。魚の配送技術もかなり発達しているので、オンラインで買い付けても悪い魚はまず来ません。
── スマホだけでも、使い方によって、そこまで効率化できるんですね。ほかにオンラインで効率化できた部分はありますか?
堀地さん:毎年、春と秋に役職研修があって、店長など150人くらいが集まりますが、これをオンライン化しました。かなりの効率化になっていると思います。
以前は、遠い人だと八王子から千葉県までくるので、「ちょっとした旅ですね」とパートさんたちに言われるくらい大変でした。
店長会議であれば、交通費、食事費、移動時間中の人件費(他の業務に充てることのできた時間)を加味すると約70万円近いコストがかかりますし、会議を受ける側も講師も1日中拘束されるんです。
それだけ大きなお金を使って、研修室で一人当たりの座る面積は50センチくらいしかない。あるとき、ゲスト講師に冗談で「こんなにぎゅうぎゅうでやっていると虐待ですよ」と言われたこともあります。その頃はピンと来ませんでしたけど(笑)
オンライン化したら、好きなところで研修を受けられるし、私たち講師役も拘束時間が短縮できました。
── 「朝メール」をはじめて業務が効率化されたとも聞きました。
堀地さん:
ひと言で言えば「仕事の見える化」です。その日の予定をオンラインで共有するのですが、それまでは自分の仕事内容や予定は自分しか知らなかったので、はじめは私自身、抵抗がありました。
「自分は裸になれない」という気持ちがあったのですが、それではみんなが付いてこないので、その日の予定を「朝メール」として書き始めることにしたんです。それからは、みんなもやるようになりました。
情報を共有してみると、同じことを何人もやっていたり、同じ人に時間差で会っていたりする。「じゃあ1回でいいじゃん」とか、「一緒に会おうよ」ということも可能になって仕事の効率化に役立っています。
初の男性育休は常務が取得
── 堀地さんは育休も社内で初めて取得したと聞きました。
堀地さん:
もともとは、男性が「育休をとります」と言える雰囲気ではまったくありませんでした。従前から育児休業制度があることすらみんな知らなかったと思います。
でも昨年、第二子が生まれるタイミングで、「自分が育休をとったら、みんなも取りやすくなるよね」と思い、どうすれば支障なく休めるかを考えました。
業務のオンライン化は進めていましたが、緊急時以外にテレワークをすることにはまだ違和感がありました。「朝9時には、みんなが現場にいないといけない」という意識があったのですが、育休を機にその意識を振りきってからはラクになりましたよ。
育休は、何日休んだ、というより、テレワークも活用しながら、午前中だけ休んだり、午後だけ休んだりと、時間単位で取得しました。2人目の出産だったので、上の子のお迎えがあります。なので、午後3時には仕事を終えて、そこからお迎えに行って家事をやるようにしました。
── 育休は他の男性社員さんも続きそうですか?
堀地さん:
出産予定の男性社員に私から「育休とらなきゃね」と声掛けすることもあり、すでに育休を取得した男性社員もいます。まだまだ働き方改革は途上ですが、上が率先してやらなきゃ進まないと実感しています。
── これまでの改革の成果をどのように見ていますか?
堀地さん:
これまで、現場の人間は「この仕事は自分にしかできないから、人には任せられない」という職人気質なところがありましたが、今では「シフト通りに帰るために、パートさんに丁寧に教えるようになり、自然と店舗の力が上がった」という声もあり、現場でもいろいろな相乗効果が出てきていると思います。
── これからの課題はなんでしょうか?
堀地さん:
女性が働きやすい職場環境にしていくことですね。女性店長はまだ1人です。女性目線で見れば、まだまだ働きにくい面があるのだと思います。女性店長が少なくとも10人、20人となるよう、知恵を絞っていきたいと思います。
…
「『社員を幸せにする』と決めてから、いろんなアイデアが浮かぶようになった」という堀地さん。「上が本気でやればここまで進むんですよね」と話していたのが印象的でした。実行に必要なのは、やはり隗から始めよの精神だったようです。
取材・文/木村彩 写真提供/銚子丸さん