有森裕子さん

コロナ以降、体の不調を訴える女性が増え、「コロナ太り」という言葉も定着しつつある昨今。

 

マラソン日本代表として2度メダルに輝いた有森裕子さんは、この状況下でどのように過ごしているのでしょうか。体力づくりに励む毎日かと思いきや…意外にも「家にいるのが大好き」なのだそう。今もスレンダーなスタイルを保ち、健やかに暮らす秘訣とは?

「目的のない運動」はストレスになりかねない

── 有森さんご自身はコロナ以降、なかなか外へ出られず運動したい!という衝動に駆られたりしませんでしたか?

 

有森さん:

それはなかったです(笑)。私、目的がないと運動しないタイプなので。ウォーキングくらいはしますが、仕事でなければ走ったりはしないです。むしろずっと家にいても平気なんです。

 

高橋尚子さんや増野明美さんのように「走るのが好き!」という人であれば、体を動かしたくてうずうずすることもあるのかな。私の場合は仕事でなければ走らないですね(笑)。

 

── それは意外でした(笑)! コロナ以降、どのように過ごされていましたか?

 

有森さん:

コーヒーが大好きなので、おいしいコーヒーを飲むために喫茶店まで散歩しています。まず検索するところから始めて、素敵なお店が見つかったら、片道3時間かけてでも歩いて向かいます。

 

── 片道3時間ということは、往復6時間も…? それはいい運動になりますね!

 

有森さん:

ちょっときついことを気晴らしにやってみようかな、という気分で歩いています。「おいしいコーヒーが飲みたい!」と思ったら、歩くのも苦にならないんです。逆に言うと、目的があるから歩くことも厭わないけれど、目的も何もない状態では難しい。「運動をしなきゃ!」と思いながらする運動はまず続かないです。

 

── 確かにもともと運動する習慣がない人が、目的もなく気合だけで運動を続けることは厳しいかもしれません。私も続かないタイプです…。

 

有森さん:

単に運動しようというだけでは辛いですよね?「今日はどれくらいやろうかな…」とか「運動するから着替えなきゃ…」とか、考えること自体がおっくうになってきて、目的を持って運動するより持続性は一気に落ちます。

 

でも「おいしいコーヒーが飲みたい」という目的があれば、喫茶店まで歩くことだってそれほど苦じゃない。帰りは疲れたからバスに乗って帰ってもいいんだし。無理して帰りも歩いて帰る必要はありませんからね。

 

自分の中でガチガチに決まりに縛られないことが、運動を長く継続しておこなう秘訣だと思います。メンタルを追い込まない程度に、心地よく、自分の心を満たす…それくらいがちょうどいいんです。

 

ちなみに私のスマホには、喫茶店リストが100件以上登録されているんですよ(笑)。

 

── 100件以上!? 趣味を極めていらっしゃいますね!

 

有森さん:

私はカフェというより、レトロな喫茶店が好きなんですが、最近はどんどん減ってしまっていて…。ですから、見つけたときはすごくハッピーな気分になりますね。

 

── 喫茶店ではどのように過ごされているのですか?

 

有森さん:

マスターと「お店を開いてから何年くらいですか?」と会話をしたり、売っていたらコーヒー豆を買って帰ったりして、ゆったりとその時間を楽しみます。

家で体を動かすなら「ラジオ体操」が圧倒的におすすめ

── 目的なしに運動するのは苦手とのことですが、ご自宅では体を動かしていますか?

 

有森さん:

毎朝ラジオ体操をしています。あのメロディーを自分で口ずさみながら(笑)。ラジオやテレビが流れる時間帯に合わせようとすると起きる時間が決まってしまうので、自分の予定に合わせて起きたら毎朝セルフでやっています。

有森裕子さん

── 運動に対する有森さんのマインドは「ルールに縛られない」「マイペース」がポイントなんですね。運動が苦手な私からするとホッとします(笑)。

 

有森さん:

必要以上に自分に負荷をかけても仕方ないですからね。こういう状況になって大事なのは、毎日継続でき、自分にとって心地いいことをわかっていることだと思います。

 

ずっと家の中に閉じこもっているだけでもストレスなのに、さらにガチガチに決めたルールに従って運動していたら、余計にストレスが溜まりますよ。やりたいことをやればいいんです。

 

運動と言ったって、ちょっと体を動かせればいいんじゃない?それくらいのスタンスがちょうどいい。私も仕事のときは極限までプレッシャーをかけますが、それ以外ではのんびりとマイペースに過ごしています。 

体の不調や体型の変化に敏感になることが大事

── コロナ禍における運動の大切さってなんでしょうか?

 

有森さん:

運動というよりも自分の体について知っておくことは大切です。朝起きて全身鏡の前に立ち、自分の体の歪みなどをチェックします。

 

── 見た目って毎日変わるものですか?

 

有森さん:

肩が凝っているなど何か不調を感じるときは肩のラインが片方だけ落ちていたり、不調があると全身の姿も変わって見えます。普段から自分の全身の姿を知っておくと、自分のコンディションがわかるようになります。それが大きく体調を崩さない大事な目安にもなりますよ。

 

あと、体を締めつけない程度にフィットするルームウェアがあるといいですね。太ってきた!など、体の変化に気づきやすいですから。自分を意識することは大事です。意識が物事を変え、動かしていく原動力になるんです。

 

意識しなければ急速にだらけていき、崩れていってしまいます。

 

── 有森さんはずっとスレンダーですよね。やはり体型を意識していらっしゃるからでしょうか?

 

有森さん:

そうだと思います。あとは、写真に撮られることもいい機会になっています。コロナ以降、人前に出る機会も少なくなりました。会議さえもオンラインで済みますし、最近は加工技術が上がっていてPC上だと顔がほっそりしたように見せることもできちゃうじゃないですか。それに自分も騙されてしまう(笑)。

 

その後、久しぶりにいざ人前に出て写真を撮られたときにびっくりするんですよ。「私こんなに顔が丸かった?」と(笑)。体型の変化は写真に顕著に表れますから、たまには人前に立って緊張することも大事なこと。「今の体型はまずいな。少し体を整えるか」という気持ちになりますね。

 

ですから、姿見は持っていた方がいいですね。それはコロナ以前から、ランナーの皆さんにも言っていることです。運動するだけでは体調は整えられませんから、日常的に意識することが大事。自分の体調を知るという意味でも、姿見はおすすめの道具のひとつです!

 

 

運動不足に陥りやすい時期とはいえ、「運動しなければ」と思い込むのは逆効果。楽しみとセットで向き合うとうまく乗りきれそうです!

 

次回は、コロナ禍で家にこもりがちな子どもとの関わり方について、有森さんと一緒に考えます。

 

Profile 有森裕子さん

1966年岡山県生まれ。バルセロナオリンピック、アトランタオリンピックの女子マラソンでは銀メダル、銅メダルを獲得。現役引退後は、認定NPO法人ハート・オブ・ゴールド代表理事、スペシャルオリンピックス日本理事長、日本陸上競技連盟副会長、大学スポーツ協会(UNIVAS)副会長等の要職を務める。2010年、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞。

 

基礎体力特集 バナー画像
撮影/古水 良 取材・文/望月琴海