共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

株式会社リコーでは、育児や介護をしている社員には、支援はしつつも、ほかの社員と同じように会社で活躍してもらいたいと考え、様々な制度設計を行っています。

 

今回は、育児・介護だけに限定しない時短勤務制度「ショートワーク制度」について、制度の企画から制度策定まで関わった人事の長瀬さん、2017年から働き方変革プロジェクトに関わる鶴井さん、現在子育てしながら働く広報の佐橋さんにお話を伺いました。

 

PROFILE

 (左上)人事サポート室 働き方変革・D&I推進グループ 長瀬琢也さん(右上)コーポレートコミュニケーション推進室 事業広報グループ 佐橋ゆき子さん(下)人事サポート室 働き方変革・D&I推進グループ 鶴井直之さん

育児・介護以外でも時短勤務ができる

──御社には、育児と介護の短時間勤務制度とは別に、「ショートワーク制度」がありますが、これはどのような制度ですか?

 

長瀬さん:

「ショートワーク制度」は育児や介護以外でも勤務時間を短くできる、リコー独自の制度です。

 

2018年4月に導入したのですが、最初はある程度、条件をつけ、実際に運用しながら緩和することも検討するということでスタートしました。

 

現在は申請理由として、自己啓発、ボランティア、セカンドライフ準備、介護、育児、副業の6つをあげています。

 

利用期間は目安6か月で、必要に応じて更新する形です。弊社では6か月単位で自分の目標を決めて、それに対して仕事がアサインされるので、そこに合わせています。

 

勤務時間は、所定労働時間が7時間半なのですが、ショートワークでは6時間または7時間のどちらかを選択できます。つまり30分または1時間半短縮となります。1日の勤務時間は7時間半のままで週4日勤務という働き方も選べます。

 

対象者は、基本的に自分で仕事ができるようになっているという目安として、入社3年以上の社員です。

 

育児や介護をしている人がマネージャーをしているケースもありますが、組織職(管理職)は組織の中でも特に重要なキーパーソンでもあり、勤務時間を短くすると組織運営に影響が大きいので、基本的には除きます。

 

──申請理由に育児があげられていますが、育児短時間制度とショートワーク制度の違いはなんですか?

 

長瀬さん:

通常の育児短時間は法律的には子どもが3歳までですが、弊社では小3まで利用できます。この条件に当てはまらなくなった場合、つまり、小4以降も時短勤務をしたいという場合は、ショートワーク制度を利用することになります。

 

実際、利用者の半数以上は小4以上のママになっています。小4になった時点で時短勤務を終了してフルタイムに戻れる人とそうでない人がいるので、そこは家庭の事情にあわせて必要な人には利用してもらっています。

 

育児以外では、資格取得や大学院に行くための勉強、50代〜シニア世代の中にはセカンドライフの準備をする人もいます。定年後を見据えて、別の仕事をするための準備や地域のボランティア活動などをするために活用しているようです。

 

誰にでもワークとライフはある

──それぞれ家庭の事情や将来に向けて時短が選択できるのはいいですね。そもそもなぜこのような制度を作ったのですか?

 

長瀬さん:

この制度は、ワークとライフの双方の充実を目指した「ワークライフ・マネジメント」という考え方を基に制定しています。ワークライフ・マネジメントというと育児や介護を思い浮かべる人もいると思いますが、それ以外の人たちにも「ワーク」と「ライフ」があります。

 

もちろん、育児・介護は時間的な制約が大きいので、当然支援すべきものではありますが、できる限り「育児や介護だけが特別」という考えはやめて、全社員のワークとライフの相互充実を狙って、短く働くという選択肢を与えてはどうかと考えました。

社員向けの意識啓発イベント「働き方変革フォーラム」を毎年開催している(写真は2018年の様子)

 

──育児・介護をしている人だけが特別というのは、少なからず不公平感を生み、実際に制度を利用する側もちょっとつらいところはありますよね。

 

長瀬さん:

実際、そういう声も聞こえてきていました。

 

弊社では2000年頃から両立支援制度を整えてきたのですが、当初は主に女性がターゲットで、女性が働き続けられるような会社にしていこうと、育児休業や短時間勤務などをしっかり取れるようにしてきたのです。

 

そういう中で、実際に利用している女性社員たちからは、「自分だけだと使いづらい」とか、「自分だけが特別扱いされる」という声が聞こえてきたり、中には「しわ寄せがいった社員から嫌な感じで言われる」といった意見も出てきました。これは本意ではなくて、やはり支援はするけれども、職場の中で同じように活躍してもらいたいと思っていました。

 

一方で、「自分だって育児はないけど事情があってプライベートな時間がほしい」と思っている人もいます。そのため、弊社では原則としてみんなに生活は平等にあるという考えのもと、少なくとも育児・介護という申請理由をつけなくてもいいものはなるべくつけないように制度設計しています。

 

──ショートワーク制度が導入されて、社内の反応はいかがですか?

 

長瀬さん:

この制度ができたタイミングで小4になった子どもがいるお母さんたちからは「非常にありがたい」と好評をいただきました。

 

佐橋さん:

私も下の子が小3なので、今は育児短時間を使っているのですが、来年から状況次第でショートワーク制度も使ってみたいと考えています。子どもは1学年上がったからといって、すぐに手が離れるわけではないので、選択肢があるのはありがたいですね。

 

──以前聞かれたような、ネガティブな反応などはいかがですか?

 

長瀬さん:

だんだんそういう声は減ってきたと感じています。これはショートワーク制度を導入したことだけが要因ではなくて、特に現在はフレックスが使えていますし、今日の取材も全員自宅から参加しているのですが、リモートワークもかなり定着してきているので、だいぶ時間の有効活用ができるようになってきています。

 

フレックスやリモートワークは育児や介護でなくても使えるので、そうした部分でかなり平等になってきているのではないかと思います。フレックスはコアタイムもなくしたので、育児や介護だけでなく、誰でもちょっと抜けて用事を済ませるということもできるようになり、「あなただけずるい」みたいなことはなくなったと感じています。

 

佐橋さん:

私は、今はほぼ100%リモートワークができているので、通勤時間がない分、体も楽ですし、時間にも余裕ができています。来年は子どもが4年生になるのですが、リモートワークをうまく使うことで、フルタイムに戻しても両立できそうだと感じています。

 

──ショートワーク制度だけでなく、ほかの制度との組み合わせによって働きやすくなっているのですね。ちなみにコアタイムがないフレックスとのことですが、育児をしながらキャリアも諦めたくないと考える人は、子どもを寝かしつけてから深夜も働くなどしてしまいそうですが、その点はいかがですか?

 

長瀬さん:

コアタイムがないといっても、フレキシブルタイムは朝7時から20時までと設定しています。深夜とか早朝の勤務を希望する人も中にはいるのですが、やはり健康の維持は重要なことなので、弊社では「勤務間インターバル」という制度も導入しながら、仕事と仕事の間は休息をちゃんと取ってもらうようにしています。

 

勤務間インターバルは次の勤務の開始まで11時間以上は空けてもらうという制度です。つまり、20時で終業したらちょうど11時間で翌朝7時になるように設定されています。育児をしている人からは、朝や夕方が忙しいから子どもが寝てから仕事したいという声もありますが、体を壊してしまったら元も子もありません。仕事を思いっきりやりたいという気持ちもわかりますが、頑張りすぎて力尽きてしまったら、それは本人にとっても会社にとっても損失なので、そこは長い目でみてほしいと考えています。

 

特に女性社員については、女性活躍の取り組みもしているので、一旦キャリアがなだらかになっても長期的に考えていきましょうというメッセージにしています。逆に男性社員にも積極的に育児参加するよう、会社からも働きかけを行っています。

 

結局、バリバリ働ける人だけが上にあがっていくようだと風土は変わらないので、誰もが生活と仕事の両方ある中で、時間内に成果を出すというところを重視して取り組んできているところです。

 

 

育児や介護をしている人だけでなく、すべての社員にワークとライフがあり、それを尊重する働き方ができる制度を作る。こうした取り組みは誰もが働きやすいと感じられる職場づくりに貢献していると感じました。

取材・文/田川志乃