教師の魅力をツイッターで伝えて欲しいと文科省が教師に呼びかけた結果、教師の悲痛な叫びがネット上に溢れることになった「#教師のバトン」。

 

教育研究家で、全国で教職員研修やコンサルティングを行う妹尾昌俊さんに学校の実態を聞きました。

中学校教諭の74.2%が過労死ライン超えの現実

── 教師のバトンでは悲痛な声がネットに溢れました。

 

妹尾さん:

民間企業と比べても先生の忙しさは異常ですね。著書『教師崩壊』でも触れていますが、大勢の教師が過労死ラインという危険水準を超えて働いています。

 

文部科学省の「教員勤務実態調査」(2016年実施)を参考に自宅等への持ち帰り残業も含めて推計すると、実質的に週60時間以上勤務の過労死ラインを超えている教員の割合は小学校教諭の57.8%、中学校教諭の74.2%にも上ります。

 

これは「労働力調査(2016年度)」をもとに産業分野別に労働時間を見ても、週60時間以上働いている割合が他業種と比べても突出して高く、異常です。

 

── どのような点が問題だと思われますか。

 

妹尾さん:

教師のバトンでは何万というツイートが出ましたが、朝日新聞の分析によると、部活に関する意見が多かったようです。保護者からすれば土日、部活を子どもがしてくれていれば、健全であり、安心ですよね。

 

生徒も部活をやりたいので、熱心に取り組みます。しかし、中学の先生には重い負担になっています。

 

これは文科省の責任もゼロとは言いませんが、各学校長の責任が重いと思っています。どれくらいの頻度で部活をするかは各校の裁量で決められます。コロナ禍前は部活の時間を推計すると、総授業時間より多い先生もいました。

各学校の裁量でマルチタスク地獄は脱せる

小学校での問題は教師の人数が少なすぎることですね。日中は授業時間に取られ、放課後は事務作業、打ち合わせ、授業準備とマルチタスク地獄です。

 

教員定数の問題など、文科省がもっと本腰を入れて改善するべきことも多々ありますが、各校の裁量で時間をつくっていく取り組みも必要だと思います。

 

校則などもそうです。文科省ではなく、ブラック校則をなくす権限は各学校にあるのです。文科省に言えば即、問題解決ではありません。校長がやらないといけないこと、できることはたくさんあります。

 

ただ、予算も少なく、人員不足でも補充ができないために各校では改革を実現できないという点は文科省、教育委員会にも責任があります。本来、予算を学校にもっとかける必要があるんです。

 

── 公立小学校では、今年度から5年かけて全学年で「35人以下学級」が実現しますが、これは解決策になりますか。

 

妹尾さん:

 

教育上よい点もあるでしょうが、ひとクラス35人以下になったとしても先生たちは忙しいままだと思います。授業時間に空きができるわけではないですから。

 

これまで行っていた少人数教育のために追加的に配置されていた教員を、クラスが増えた時に担任に割り当ててしまうかもしれません。そうすると、負担は変わらないどころか、むしろもっと大変になる先生もいます。これまでと違いは出てくると思いますがすべてがハッピーではないでしょう。

引き算してこなかったことを反省しよう

 

── 根本的に忙しさを変える方法はないのでしょうか

 

妹尾さん:

 

教師の仕事はまだまだ「ビルド &ビルド」で、「スクラップ&ビルド」ではないんですよね。

 

学習指導要領での授業総数はゆとり教育の時代にいったん減少しましたが、ここ最近はまた増え続けています。教える量が増えています。

 

これまでの慣習で学校の守備範囲も増えています。私は教員の職務外だと思っていますが、たとえば、放課後の自宅で起きた子ども同士のゲームでのトラブルも学校が対応しなくてはならなくなっています。

 

これまで、保護者や社会のニーズや政策で教師の仕事が積み上がってきました。しかし、減らすとなると誰かが反対します。

 

地域、家庭に一部の仕事を返そうとしても、「無理です」といって返せません。私たちも教師の仕事の引き算をしてこなかったことを反省しないといけないと思います。

 

愛知教育大が実施した「教員の仕事と意識に関する調査」(2015年実施)では、小学校で94.5%の教員が仕事の悩み、不満として「授業の準備をする時間がたりない」と答えています。

 

高校の先生は週20コマしか持っていないので、空き時間がありますが、小学校は週26コマ以上の人も多く、授業準備する空き時間がない。小学校の先生はもっと怒っていいのではと思います。

 

これはもはやワンオペ教育の状態ですよね。

ワンオペ教育…でもその仕事は必要?

── 年度末の大掃除、粗大ゴミすて、エアコン掃除など教師ではなくても委託できる仕事もありそうですが、それは難しいのでしょうか。

 

妹尾さん:

外部委託する予算をつけることは大事ですよ。私がアドバイザーで関わった自治体ではプール清掃、ワックスがけの外部委託を実施しているところもあります。

 

ワックスがけなどはもちろん、プールの管理や、コロナの消毒など、教師の専門性が必要ないことは委託できると思います。

 

 

また、外部委託の予算をとった事例は見たことがないのですが、私は日常的な掃除も外部委託し、教師が行わなくてもいいのではと考えます。

 

 

予算がないからと言って、教員の善意に甘えすぎていますよ。県庁や市役所でトイレ掃除をする職員はいますか。ほとんどが委託業者ではないでしょうか。

 

教師と子どもたちの労働力をあてにして、誰も予算をとろうという発想がない。先生がしなくていいことも先生に押し付けて甘えてきた。手放せることは手放した方が良いです。

 

── 授業研究、初任者研修、初担当者研修、そのほかの研究授業などあり、負担が大きい気がします。

 

妹尾さん:

 

研修もいろいろあると思います。いいものもあるが、ほとんど役に立たないものもあると聞きます。頻度も考えないといけない。何のためにやるのか考えてやらないといけませんね。

 

研究授業は大事ですが、一部に形骸化している例もあります。

 

── 子どもたちを育てる教員が疲弊してしまうと、結果的に子どもたちの教育に影響が出てしまいます。家庭、社会でも考えていきたいですね。

 

PROFILE 妹尾昌俊

教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表。徳島県出身。京都大学大学院法学研究科を修了後、野村総合研究所を経て、2016年から独立。文科省での講演のほか、全国各地で教職員研修やコンサルティングを行う。著書に「教師崩壊」「教師と学校の失敗学」など。

取材・文/天野佳代子