急な病気やケガは119番の救急車でーというのは当たり前。でも、民間にも救急隊がいることは意外と知られていないのでは? 最近は、コロナ患者の搬送も請け負う、私営の救急機関で奮闘する女性に密着しました。
コロナ患者に何時間も付き添う
「長いときは4時間くらい、コロナの患者さんに付き添いました。6~7時間待ち続けたほかのスタッフもいます」
大阪市にある「関西メディカル民間救急」の救急救命士・冨岡楓さんは、新型コロナウイルスの過酷な現場をそう語る。
コロナの感染拡大で、重症患者は自治体の救急が搬送するが、中等症や軽症者の搬送は民間を利用するところも増えてきている。
そんな担い手のひとりである冨岡さんに、仕事の内容などについて聞いてみました。
患者を運ぶタクシー
「民間救急というのは、患者さんを運ぶタクシーだと考えてもらえればいいです。
車両は救急車と似ていますが、緊急走行はできません。自宅から病院や病院から自宅までの搬送を行い、上階まで搬送することもあります」
「医療行為はできませんが、酸素や点滴の投与は搬送のときも継続します。
スタッフには看護師もいて、資格のある者がタンを吸入したり、患者さんが急変した場合はAEDで救命措置をしたりします」
イベント会場での待機、電車や飛行機を利用しての患者の遠方への移動や、旅行へ付き添うこともあるという冨岡さんの会社。
「消防の救急では一度、病院まで搬送してしまえば、その患者さんとの関係を終わりです。
でも、私たち民間はリピーターさんがいるので、顔なじみになり感謝されることが多いです」
そのような仕事もコロナにより一変。冨岡さんも、1日に6~7人のコロナ患者を搬送することになった。
コロナ患者を引き継ぐ
「大阪市の場合は保健所から連絡をもらい、入院が決まった患者さんを自宅から病院まで搬送します。
堺市の場合は、重症ではない患者さんを消防の救急から現場で引き継ぎ、病院が決まるまで付き添うことがあります。
車内で血圧や酸素などバイタルを監視しながら、患者さんを励まし続け、何時間も待機することもあるので、緊張の連続ですね」
初期のころは、ものものしい防護服を身につけた冨岡さんたちを奇異の目で見る人たちも多かった。
「最近は理解が進んだようで、私たちが休憩中も、ねぎらいや感謝の言葉をかけてもらうことが多くなりました」
朝8時半から17時半までの日勤と、朝8時半から翌朝8時半までの当直がシフトで組まれるが、コロナで残業も増加中だとか。
休日は疲れ果て…
「休息時間を少しでも確保するために、事務所には戻らず外で待機する時間が増えました。食事もコンビニで買って、車内で食べることが多いですね。
休日は疲れ果て、家でゴロゴロしがちですが、発散のために最近は、感染リスクの低そうな釣りを始めました。釣った魚を家でさばいて食べるのは楽しいですよ」
そう笑う冨岡さんが、民間の救急救命士を目指すきっかけを聞いてみるとー。
「幼いころから救急車や消防車を“かっこいい”と憧れていました。
医療従事者を目指し看護師になろうと思いましたが、救急救命士のほうが最初に患者さんにアプローチして助けることができると志望しました。
消防の救命士を受験するときに、今の会社でアルバイトを募集していたので実地の訓練もできると思い、入社したことがきっかけです」
“男社会”での苦労
救急や消防は体力勝負の“男性社会”のように思えるが、苦労はなかったのだろうか?
「全体的に女性の数は確かに少なく、私と同期の女性が入ったときには、女性はいませんでした。
当直室のベッドが男女兼用だったので抵抗はありましたが、別にしてパーテーションを設けてもらうなど女性の意見も聞いてもらっています」
患者の持ち上げなど体力的に不利な面はあるが、女性ならではのニーズもある。
「女性患者の搬送や付き添いですね。特に遠方の場合、トイレの介助などもあるので、男性より女性の方が、抵抗感が少ないようです。
女性ならではのソフトさや気づきもあると思うので、女性としての強みも活かせる仕事だと思います」
民間救急ならではの患者との関係が、やはり一番のやりがいだそう。
お看取りの搬送では…
「特に看取りの搬送は、患者さんや家族から感謝されることが多いです。
自宅で最期を迎えることを希望する患者さんを、病院から搬送することがあります。
そのときに、近くの公園などゆかりのある場所にお連れすることがあります。
“最後に桜を見ることができてよかった”と喜ぶ声を聞いたときには、この仕事をやっていてよかったなと思います」
これからは、冨岡さんたちが搬送したコロナ患者からの感謝の言葉も増えそうです。
PROFILE 冨岡楓さん