共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
オンライン本人確認サービスをはじめとするSaaS事業などで成長する株式会社ショーケースは、今年4月にエンジニア職を対象に「全国フルリモート採用」をスタート。同年8月からは、職種を選ばず、全国どこに住みながらでもフルリモートで働けるよう制度を拡充し、「全国フルリモートワーク」を始めました。
地域やエリアに関係なく、東京都内の企業へフルリモートで就業
── 「全国フルリモートワーク」とはどういった取り組みでしょうか。具体的に教えてください。
山田さん(ショーケース):
ショーケースは、東京・港区を拠点に事業を展開しているIT企業です。2021年4月より「全国フルリモート採用」として、地方に住むITエンジニアに、現在の居住地での暮らしを続けながら仕事で広く活躍してもらうために始めました。面接を含む採用の選考も住んでいる場所で受けていただき、採用後は完全フルリモートで勤務する正社員として働いていただき
地方に住むITエンジニアには能力が高く、「愛着のあるこの町にこれからも住み続けたい」「家庭の事情がある」といった人が多いと感じています。そういった人たちに向けて、地域やエリアに関わらず、都内における採用と同じ給与水準を設定しました。
── 地方にいながら都内と同じ給与水準で仕事にチャレンジできるのは、大きな励みになりますね。なぜこのような制度を作られたのでしょうか。
山田さん(ショーケース):
昨年、新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークや在宅勤務など働き方の多様性が急速に進み、企業拠点の地方移転、地方在住型ワークなど、働く場所の概念が拡張されました。働く人が郊外へと転出する現象も続き、当社でもそうした新しい働き方を目指そうという機運が高まったんです。
その背景にはまず、エンジニアの人材不足があります。SaaS開発を行う当社において、エンジニア採用は経営戦略上、重要なミッションです。しかし、技術(IT・通信)系の有効求人倍率は2021年4月時点で8.34倍
(※)とエンジニアの採用難易度が高く、ミッション達成が難しい状況にありました。
いっぽうで、社内に目を向けると、2020年4月からはリモートワーク率95%の水準を維持しながら、昨年度(2020年12月期)の通期で黒字を達成しました。このことから、働き方改革を行いつつ、持続可能な経営・事業推進を行うノウハウが蓄積されてきたと実感できたのです。
── エンジニア採用面の問題と早期からのリモートワークの定着がポイントだったのですね。
山田さん(ショーケース):
そうなんです。さらに、「地方ITエンジニアのキャリアに関する意識調査2021」を実施したところ、約7割は「居住地を離れたくない」こと、約8割は「東京企業のフルリモート採用に関心がある」という調査結果が出ました。
そして今年、営業活動や株主総会をはじめ、全面的に業務をオンライン化したことが評価され、東京都の「TOKYOテレワークアワード」の中小企業部門で大賞を受賞したんです。
こうした経験から手ごたえを感じ、「全国フルリモート採用」を開始することになりました。
「原則出社禁止」でリモートワークを実現
── 「全国フルリモート採用」を実現する前に、すでにリモートワーク率95%の実績があったこと自体が素晴らしいです。
山田さん(ショーケース):
2020年2月から、新型コロナウイルス感染症の対策としてリモートワークを推進し始めたのですが、そのときは「できる部門からなるべく」と無理のないペースで進めていこうとしていました。しかし、実際にはなかなか進まなかったんです。
そこで、4月から「原則出社禁止」に切り替えました。会社全体で「どうすれば実現できるか」と考え方を変えた結果です。さらに、リモートワーク支援金として、全従業員に月3万円
(※)を支給したことで、リモートワークが定着していきました。(※)2020年7月以降は月2万円支給。2021年8月現在まで継続支給中
── 月3万円支給は高額ですね!リモートで業務が遂行できると実感できたから「全国フルリモート採用」を始めたのですね。リモートワークは会議以外のコミュニケーションが希薄になる可能性も指摘されていますが、その点ではどんな工夫をされていますか?
山田さん(ショーケース):
まず、月2回のペースでオンライン全体会を行っています。そこで、会社の方向性や直近の業績、各事業部門の状況やトピックスなどを共有することで、経営者や従業員たちの意識と思いを確認し合っています。
各事業部門では、朝夕にミーティングを行うことで、コミュニケーションを取る機会をつくっています。従業員一人ひとりについては、月1回の1on1ミーティングを行い、ストレスを抱えていないかの確認も。もしフォローが必要な場合は産業医面談を行うなど、何かあっても誰かに相談しやすい環境づくりを進めています。
業務以外では、毎月出席者が変わる「オンラインバースデーパーティー」、また組織内で斜めのつながりをつくる「オンライン運動会」、ランザクティブ・メモリー(知の探索)を目的とした「社内勉強会」なども開催しています。
それ以外にも、システム開発部門では常時音声をつなぐことで現場の雰囲気を感じながらコミュニケーションが取れるようにもしています。他部門の部長をレンタルできる「レンタル部長」など、当社ならではのアイデアを取り入れながら、コミュニケーションしやすい環境をつくっています。
福岡在住のITエンジニアがフルリモートを実践中
── 「オンライン運動会」や「レンタル部長」など遊び心が感じられる取り組みで、オンラインながら従業員同士の交流も幅が広がりそうですね。「全国フルリモート採用」導入による効果はありましたか?
山田さん(ショーケース):
エンジニアが1名、福岡県からフルリモート採用で入社しました。この制度は始まったばかりで実績もこれからですが、求職者の方からの問い合わせが多く、需要や可能性を感じています。
また、2021年8月からはエンジニアのみだった対象職種をなくし、在籍する社員がライフイベントに合わせて働ける「全国フルリモートワーク」を開始しています。育児・介護などの地方移住、家族の転勤帯同などによるキャリアの断絶を防ぎ、柔軟な働き方をサポートしていこうと考えています。
すでに、徳島県からフルリモートでカスタマーサポートをしている社員もいますし、2022年4月から山形県に移住予定の社員もいます。
── 今後は「全国フルリモート採用」と「全国フルリモートワーク」を進めながらどんな職場環境を実現していきたいですか?
山田さん(ショーケース):
さらにリモートワークで働きやすい環境を構築していきたいですね。そのためには、どうしても向き合わなければならないのが、社員間のコミュニケーション不足をどう解消するか、という課題です。
オンラインでのコミュニケーションづくりで工夫はしていますが、リモートワークだとどうしても雑談が減りがちです。業務とは関係のない他愛のない会話など、今まで取っていたなにげないコミュニケーションこそ重要なんですよね。そういった機会をどうつくり出していくか、もっと追求する必要性を感じています。
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「原則出社禁止」から始まったフルリモート勤務を経た「全国フルリモート採用」と「全国フルリモートワーク」。思い切った決断とスピーディな実践力は、事業にも革新的な変化を起こすきっかけを作っているのではないでしょうか。課題として挙げている雑談についても新たなアイデアを形にしながら、今後も可能性を広げていくことを期待しています。
【会社概要】
社名:株式会社ショーケース
設立年月日:1996年2月1日
業種: 情報通信業
事業内容:SaaS事業、広告・メディア事業、クラウドインテグレーション事業
(※)転職サイト「doda」「転職求人倍率レポート(データ)」より https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/data/
取材・文/高梨真紀