共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

テレワークが広がりを見せるなか、住む場所に縛られない働き方が注目されています。

 

今回ご紹介するのは、兼業で公務員として働く人材を募集した奈良県生駒市の取り組み事例。生駒市は2019年10月には「兼業、テレワークOK」との条件でエン・ジャパンと提携して職員募集を実施しました。

 

すると、7人の募集枠に1025人もの応募が殺到。結果、9人が採用され、うち5人が兼業で2020年度から勤務をすることに。3人は関東圏からの就業です。全員が今年度も継続して業務に当たっています。

 

生駒市人事課の稲葉淳一・人材育成係長に経緯と成功の秘訣を伺いました。

稲葉さん

他の自治体と同じことをしていては選ばれない

── 「兼業テレワークで公務員」というのはあまり耳なれないのですが、取り組みをはじめたきっかけを教えていただけますか。

 

稲葉さん:

生駒市は2013年度から採用試験の筆記試験にSPI3を導入したり、PRポスターに注力したりと採用に力を入れてきました。その結果、若手の良い人材が確保できています。

 

次の段階として、社会人を対象とした採用にも力を入れ始めました。

 

生駒市はベッドタウンとして成長してきた自治体です。単なるベッドタウンは全国にたくさんあるため、他の自治体と同じことをしていては住みたいまちとして選ばれない。

 

脱ベッドタウンを目指すためには、さらに新しい発想を生み出せる人材を採用しないといけない、と考えました。

 

そんななか、兼業、テレワークが世の中にも浸透し始めました。生駒市では、全国に先駆けて副業解禁を謳っていたこともあり、生駒市を変える能力のある方が、現在の勤め先をやめることなく、兼業で行政に参加することで、新しい風を組織に吹き込めるのではという思いから、今回の採用を行いました。

公募当時の写真

 

── 7人の募集枠に対して1025人の応募とは驚きです。

 

稲葉さん:

公務員でこのような採用が珍しかったので注目を集めました。提携したエン・ジャパンのお力添えもあってこそです。

 

募集したのは、ICT推進、人事、教育など7分野です。最も倍率が高かったのは観光分野で259倍。最終的に6分野で9人の採用を行いました。

 

3人は任期なしの常勤職員、残りの6人は非常勤職員での採用となりました。6人のうち2人は県内で通勤可能ですが、他の方は関東圏などに在住しており、テレワークを中心に活動しています。

民間視点活かした活動も

── 兼業で公務員になられた方はどのような活動を昨年、なさったのでしょうか。

 

稲葉さん:

人事分野で採用した方は2人で、どちらも自分で会社を経営されています。週1回のオンラインミーティングを中心としながら市の人材育成基本方針の改訂、人事評価制度の見直しを行いました。

 

今回の採用では、自治体が民間企業の考え方、いい側面を取り入れられたと考えています。

 

例えば、人材育成基本方針に、まちの理想の姿を表す「ビジョン」、ビジョンの達成のために市役所が取り組む「ミッション」、ミッションを行うにあたり職員が大切にする価値観「バリュー」の考え方を取り入れ、職員にどのような能力を求めるか落とし込んでいきました。

 

ICTの分野では、会社員の方が兼業で1人勤務しており、ユーザーがどのようにしたら使いやすいか「サービスデザイン」の概念を庁内の業務改善に取り入れるなど大きく貢献していただいています。

 

── 業務委託ではなく、職員として採用したメリットは何でしょう。

稲葉さん:

業務委託では共有しにくい情報も、職員であれば共有しやすく、業務内容の深堀りや、それぞれの分野で連携が取りやすくなりました。

兼業、テレワークの教育改革担当の職員が行った授業風景

 

── こうした事例があると、同じような人材登用に前向きになる自治体も出てくるかも知れません。どのような点に留意したらいいと思われますか?

 

稲葉さん:

自治体は同質性が高い組織だと一般的に言われています。もしかすると、外部人材を警戒する人もいるかもしれません。

 

ですので、外部人材をサポートできるフォロー役をつけるなど体制づくりが必要かと思います。兼業職員の方は毎日職場にいるわけではないので、日々の様々な調整ができる人がいないと、せっかくの良いアイデアもまわっていきません。

 

 

こうした場所や勤務形態に縛られない採用の取り組みが他の自治体でも広がれば、都心部で働きながら、故郷の自治体に兼業で勤務し、地方の活性化に貢献できるようになるかもしれませんね。

取材・文/天野佳代子 写真提供/生駒市、エン・ジャパン、尾崎えり子さん