20〜30代女性の罹患が増加傾向にある子宮頸がん。前回の記事(※)では、子宮頸がんを始め、さまざまな病気の原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)は女性だけでなく男性の健康にも影響があることがわかりました。
今回は、HPV感染を防ぐのに効果的なHPVワクチンの予防接種について。無料で接種できる期間や種類、自費で接種する場合のポイントなどを、みんパピ!(みんなで知ろうHPVプロジェクト) 代表を務める産婦人科医の稲葉可奈子先生に伺いました。
子宮頸がんはワクチン接種によって「防げる」がん
「子宮頸がんは、数あるがんの中でも珍しく、ワクチンで予防することができます。
HPVワクチンを接種することによって、HPVに対する抗体が体内でつくられるため、HPVの感染を防ぎ、結果として子宮頸がんなどHPVと関係のあるがんの発症リスクを低下させます。
『子宮頸がんワクチン』とも呼ばれるHPVワクチンは、正確には『HPVの感染を予防するワクチン』。
17歳未満で接種すれば、子宮頸がんのリスクを88%、17歳以降だと53%抑えることができると言われています」
しかし2003年に、HPVワクチンを接種後に副反応を生じた症例が報告されたことから、積極的な接種の勧奨が差し控えられました。
小6から高1の女の子が受けられる定期接種のお知らせが、一部の自治体を除き届かなくなったこともあり、日本のワクチン接種率は海外と比べて大幅に遅れをとってしまっている状況があります。
これまで世界で約8億回接種されている実績のあるHPVワクチンは、他のワクチンに比べて特別に重い副反応(ワクチンによる副作用)が起こりやすいわけではありません。
海外では一般的に接種され、安全性の高さも認められているHPVワクチンについて、まずは打つか打たないかを判断する前に、正しい情報を知って欲しいと稲葉先生は続けます。
「近年の研究では、HPVワクチンと重篤な有害事象には明らかな因果関係がないことが多数報告されており、安全性が高いということが明らかになっています。
もちろんHPVワクチンをはじめどんな薬も副反応はゼロではありません。
痛みや腫れが主な副反応で、まれに注射の痛みによる一過性の失神(迷走神経反射といいます)などがみられますが、重篤な有害事象は、ワクチンが原因でないものも含まれており、発生率は1万人あたり5人の発生率。
一方で、子宮頸がんになるリスクは、1万人あたり132人です。ワクチンを打つリスクと打たないリスクをちゃんと知ってから、接種を検討して頂きたいと思います」
子どものHPVワクチン接種。無料で受けられる期間はいつからいつまで?
現在日本で接種できるHPVワクチンは、2価、4価、9価の3種類です。 2価:子宮頸がんの原因として最もハイリスクのHPV 16,18型の感染を予防。子宮頸がんの約6~7割を防ぐ。
4価:2価に加えて、尖圭コンジローマの原因となるHPV 6, 11型の感染を予防。
9価:4価に加えて、子宮頸がんの原因となりうるHPV型をさらに5種類予防でき、子宮頸がんの原因となるHPVの約9割を予防できるとされる。
小6〜高1の女の子は定期接種の対象
「2価と4価は、自己負担だと約5〜6万円。小学6年生から高校1年生までの女の子であれば、定期予防接種の対象なので、HPVワクチンを無料で接種できます。
なぜその時期が定期接種の対象になっているかというと、HPVワクチンは、初めての性交渉よりも前に接種することで非常に高い効果が得られるからです。
とはいえ、厚労省による積極勧奨が控えられている関係で、各家庭への通知がない自治体もあるので注意しましょう。接種を希望する場合は、保護者が自主的に自治体のHPなどを確認し、事前に病院にも問い合わせておくことが大切です」
HPVワクチン接種は全3回必要で、最後の3回目を接種し終えるまでには約半年かかります。高校1年生の9月末までに1回目を接種すれば、2回目3回目まで無料で受けることができます。
一方、2020年9月に認可された9価については、現時点では年齢にかかわらず自己負担額が約10万円かかります。
「9価は非常に高価ですし、4価も十分に効果はありますので、定期予防接種の対象なのであれば無料で4価を接種するのがよいとは思いますが、もちろん自費で9価ワクチンを接種することも可能です」
ワクチン接種のベストなタイミングと注意点
初めての性交渉より前に打つことが望ましいとされるHPVワクチンですが、打つ時期のベストなタイミングはあるのでしょうか?
「接種のタイミングはいつでも問題ありませんが、受験が迫っている時や部活が忙しい時を避ける意味で、中学1年生や高校1年生など、学校行事が比較的大変ではなく時間的にも余裕がある時期に接種しておくのがいいと思います。
他のワクチンの接種と同様に、熱がある時や体調がすぐれない時は接種を控えましょう。
HPVワクチンについては、本来であれば学校からも案内があればよいのですが、保健の授業などで教えてくれる学校とそうでない学校があるのが現状です。
性教育も絡んでくるので、親から話題を出しづらいと感じられるかもしれませんが、難しく考えずに、『がんを予防できる注射だからうっておこうね』というようなシンプルな説明でもよいと思います」
成人女性や男性のHPVワクチン接種の判断基準
成人女性や男性のHPVワクチン接種について、自分は受ける意義があるのか悩む場合はどのような判断基準で考えるとよいのでしょうか?
セクシャルアクティビティによって判断
「HPVワクチンの接種は、一般的に、26歳以下のすべての女性に推奨されていますが、27〜45歳の女性の場合でも、医師と相談の上で接種を検討してもらうようにしています。
人によっては、インフルエンザのワクチンを接種するのと同じ感覚で来院される方もいらっしゃいますが、大人の場合は少し事情が変わってきます。
結婚されているかどうか、パートナーが今後変わる可能性があるかどうかなどによって費用対効果は変わってきますので、ご自身で判断が難しい場合は、産婦人科で相談して、必要かどうかの判断をするといいでしょう」
男性がHPVワクチンを打つ場合は何科?
なお、中咽頭がんや尖圭コンジローマの発症の予防が可能なHPVワクチン接種は、男性にとっても有効です。男性の接種も、HPVワクチンを取り扱っている病院であれば基本的にはどこでも受けることができます。
「意外に思われるかもしれませんが、男性が接種を希望して産婦人科に問い合わせることはまったく問題ありません。
女性と同様に、男性の場合も初めての性交渉以前の接種が最も効果的です。パートナーの体を守るだけでなく、自分自身の健康を保つためにも、今後男性の接種も一般的になることが望まれています」
次回は、HPVワクチンの接種・未接種にかかわらず、子宮頸がんの二次予防として重要な子宮頸がん検診について。何歳からどれくらいの頻度で必要なのか、検診時の注意点について伺います。
PLOFILE 稲葉可奈子(いなばかなこ)さん
医師・医学博士・産婦人科専門医。みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 。メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表。予防医療普及協会 顧問。NewsPicksプロピッカー。 京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、大学病院や市中病院での研修を経て、現在は関東中央病院産婦人科勤務、四児の母 子宮頸がんの予防や性教育など、正確な医学情報の効果的な発信を模索中。
参考/みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト https://minpapi.jp