コロナ禍はなかなか収束の気配を見せず、私たちの心に暗い影を落としています。

 

なんとなく不安、心がざらざらする…。気づかないうちに心が疲れている子育て世代が増えているように感じます。あなたは今、つらさを抱えていませんか?パートナーや子どもはどうでしょうか?

 

心が壊れてしまう前にできることは何か。「現代の生きづらさ」の要因とともに考えます。

 

前回の「夫の看取りで思い出し、実現させた人生の夢」では現役看護師であり、僧侶であり、二児の母でもある玉置妙憂さんにインタビュー。人生の選択肢が増えつつある現代女性に向けて、人生を選択する際のヒントをいただきました。第7回は子育て世代ならではのつらさをどのようにしのぎ、あたたかい家庭を作っていくかについて。引き続き玉置さんに伺います。

 

子育ては究極の利他行つらいのは当たり前

—— CHANTO WEB編集部には、「かわいい子どもがいて幸せなはずなのに、なんだか毎日がしんどい」と悩むママの声が数多く届きます。このしんどさの正体は何なのでしょう。

 

玉置さん:

子育ては仏教でいうところの「利他行」なんです。利他というのは、人のため、自分の体と心を使って、人がよくなるように動くこと。逆に、自分自身のために動くことは「自利」といいます。

 

妊娠中・出産直後は自分もハイになっているし、まわりも大事してくれますが、そこから先はままならないことの連続です。利他行という修行モードになってきて、「あれ、きついな」「うまくいかない」ということに気がつき始めるわけです。子育ては利他行なのだから、つらいのは当たり前のことなんです。

 

—— 利他行のしんどさを解消する方法はありますか。

 

玉置さん:

お釈迦様は「利他行に励みなさい」とおっしゃっていますが、ひたすら人に尽くせというわけではありません。「自利利他」(自利をもって利他をなせ)、つまり自分を満たしてから、利他行をしなさいというのです。

 

なぜかというと、自分が満足していないまま利他行をすると、つい相手からの感謝や賞賛の言葉を期待してしまうからです。そしてその期待に応えてもらえないと、「ありがとうも言わないの?」と怒りがわいてくるんですよね。

 

私はよくコップの水に例えるのですが、自分のコップがからっぽな状態で、なけなしの水を集めて目の前の人にあげたとします。もし相手がその水を飲んでお礼も言わずに走って逃げてしまったら、腹が立ちますよね。

 

でも、自分が満たされている状態で人に水をあげた場合、相手が走って逃げたとしても、「走れるくらい元気になったんだ、よかった」と思えて気持ちがうるおうのではないでしょうか。これが「利が返ってくる」状態なんですね。こんな風に自利と利他、二利がうまく回るのが理想です。

 

リフレッシュの時間を後悔しない

——育児に家事に仕事にと忙しく、つい自分の心を満たすのは後回しにしてしまいます。

 

玉置さん:

日頃から、自分が満たされる方法を段階をつけて30個くらい持っておくといいですね。

 

例えば、一つ目に「ハワイ旅行」というのをあげたとします。ハワイ旅行って、気分が上がって最高ですよね。ただ、金銭的にも時間的にもなかなか行けません。

 

そこで二つ目の選択肢として「福島県のスパリゾートハワイアンズで23日」というのをあげておきます。

 

でも、それすら実現できないことがあります。そこで三つ目として、「パパに子どもを預けて、近所のスーパー銭湯でリフレッシュ」を用意します。

 

1日だって休めない」というときもありますよね。そこで四つ目を作ります。「家のお風呂でいつもよりおしゃれな高級入浴剤を奮発」です。

 

自分の心を満たす方法は段階をつけて複数持つ。そして、そのときのコンディション、財布の具合、時間の都合、いろいろなことに合わせて、自分が満たされる方法を実現できるようにしておきましょう。

 

—— 自分の心を満たす方法をいろいろ考えるのは楽しそうです!

 

玉置さん:

それからもう一つ大事なのは、心を満たす方法を実行するときの意識付けです。「これで私はリセットされる」「リフレッシュできた」と、きっちり意識することが大事ですね。

 

例えば、落ち込んで「○○店のおいしいケーキを食べる」とします。この時にやりがちな間違いが、食べたあとに「あー、食べちゃった。また太るわ」とか、「のんびりしすぎちゃって、やることたまっちゃった」などといって後悔することです。これではリセット効果が台無しです。

 

確かに太るかもしれないし、洗濯物も洗い物も溜まったかもしれない。でも、今この時間は素晴らしいひと時だったと思うことが必要です。

 

夫の言動は自分の人生の「材料」と割り切る

—— 自分を満たす方法として、夫や友人に話を聞いてもらうというのはどうでしょう。

 

玉置さん:

自利の方法は、できれば自分だけでできることに絞ったほうがいいですね。「この人と一緒じゃなきゃ」と設定すると、相手が対応できないときに逆恨みしてしまうことも

 

人は自分の思うようにはなりません。ということは、自分一人でできる方法が30個あった方がいいということです。

 

—— 人に頼るのはやめたほうがいいですか。

 

玉置さん:

自分が大変な時に人に頼るのは大事なことです。夫、親、行政の窓口、友人、どんどん頼りましょう。ただ、そのときに、相手から答えをもらおうとはしないことです。相手から得られるのは、あくまでも自分が考えるための材料と思っておいた方がいいですね。

 

夫に話しかけているのに、テレビばかり見ていて、ろくに返事もしない。それも判断するための材料です。そのうえで、夫と離れるのか、それとも夫と折り合いながら一緒にやっていくのか。決めるのは自分自身です。

 

人、本やテレビの情報、すべてが材料にすぎないんです。最終的に考え、答えを作り上げるのは自分自身。それを忘れないでください。

 

 

心身ともに疲れてしまうことの多い働くママの毎日。さらに今回のコロナ禍では、自分の力だけではどうにもならないことが増えました。この状況をどうしのいだらよいのか——

 

「とにかくがんばらなきゃ」と思いつめてしまいがちですが、玉置さんへのインタビューからは、まずは自利を満たすことの必要性を教えてもらいました。そのことをきっかけに、物の見え方が変わることもあるかもしれません。意識して自分の心を自分でうるおす。その積み重ねで、ママたちの心が少しでも前向きになっていけたらと願うばかりです。

    

悩み・困りごとがあるときは まもろうよ こころ|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

 

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PROFILE:玉置妙憂(たまおき・みょうゆう)さん

看護師。僧侶。スピリチュアルケア師。二児の母。専修大学法学部卒業後、法律事務所に就職。長男が重度のアレルギー症状を持っていたことをきっかけに、看護師、看護教員の免許を取得。がんの夫の“自然死”を看取ったことをきっかけに出家を宣言。高野山にて修行を積み僧侶となる。看護師として勤めつつ、「大慈学苑」を設立、スピリチュアルケアに力を入れている。

文/鷺島 鈴香 イラスト/小幡彩貴