芸能人の自死とSNSの影響

── 昨年はママでもある女優さんの訃報がありました。同じママである世の中の女性は大変ショックを受けました。

 

上田さん:

有名人が自殺で亡くなった後は、一般の人の自殺が増えるので注意が必要です。これは世界中で確認されていることです。私たちも110人ぐらいの有名人の自殺を対象に、その後どのくらい自殺が増えるのか調べてみました。

 

すると、報道初日から自殺者数が56%増えて、その傾向が10日ぐらい続いたのです。SNSで話題になった場合にも自殺者数の増加が起きやすいこともわかってきています。

 

──  有名人の死はみんなが影響を受けやすいんですね。

 

上田さん:

SNSでどういう反応があったときに自殺者数が増えるのかも調べました。それによると、皆さんが「驚いた」ときが最も自殺者数が増えやすいのです。

 

── 芸能人などの自死がテレビやSNSで大きな話題になったときは、そういう情報から意識的に離れたほうがいい?

 

上田さん:

有名人が亡くなるとつい情報を追いたくなりますが、センセーショナルな報道に接しているとメンタルに悪影響があることは、学術研究の結果はっきりわかっています。 スマホを閉じて、テレビを消して、本を読んだり音楽を聴いたり、散歩をするといったことで気持ちをまぎらわせてみてはどうでしょう。

 

── 意識してメンタルヘルスを整えることが大切ですね。

 

上田さん:

夫婦でキャリアアップを目指していて、子どもの将来にもそれを望んでいるご家族などは相当なプレッシャーを抱えているかと思います。一方、生活に困窮していて、長時間働かないとやっていけない家庭では、子どもだけで家庭で過ごす時間が長く、学習面での不安や課題を抱えているケースもあります。家庭は本当に様々なので、「これさえやれば大丈夫」というテクニックはないんです。どうか、自分にプレッシャーをかけないようにしてください。

 

 

コロナ禍で見えてきたママの負担感とメンタルヘルスを整える重要性。「ママが自分や夫婦の時間を豊かにすることは、総合的に見ると家族に恩恵がある」という言葉が印象的でした。不安な状況であっても、ママの肩の力が抜けていると、子どももほっとできるかもしれません。

 

次回は子どもが自殺に関心を寄せたときに、親はどういう対応をすればいいのか、自殺予防について研究している心理学者の末木新さんに教えていただきます。

 

悩み・困りごとがあるときは…

まもろうよ こころ|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

 

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PROFILE:上田路子(うえだ・みちこ)さん

早稲田大学政治経済学術院・准教授。2006年にマサチューセッツ工科大学で政治学を専攻。自殺予防学、公衆衛生学、社会疫学、アメリカ政治などを研究対象としている。シラキュース大学リサーチ・アシスタント・プロフェッサー時代の共著『自殺のない社会へ――経済学・政治学からのエビデンスに基づくアプローチ』(有斐閣)で第56回日経・経済図書文化賞受賞。

文/鷺島 鈴香 イラスト/小幡彩貴

(※A)国立社会保障・人口問題研究所|『第6回全国家庭動向調査』http://www.ipss.go.jp/ps-katei/j/NSFJ6/NSFJ6_top.asp