職場復帰が先か、2人目が先か
お腹が大きくなるにつれ、近所の子どものいるママたちに話しかけられるようになりました。自分も子どもも仲間に入れてもらえると知って嬉しかったそうです。
産まれたのは女の子。待ち望んでいた子をチエさんは大事に育てました。夜泣きもあまりせず、先輩ママたちに聞いていたよりずっと楽な子育てでした。
生後3ヶ月くらいになって、チエさんはベビーカーで近所の公園を散歩するように。すると子どもたちを遊ばせているママたちが手招きしてくれました。
「“産まれたのねえ”、“よかったね”とみんな言ってくれて」
最初はよかったのですが、しばらくたつと、ママ友の中にも派閥のようなものがあり、職場復帰するため来なくなるママもいることがわかってきます。
「私も迷っていました。仕事を探すか、2人目が先か。ためらっている間に数年経ち、周りはみんな2人、3人と産んでいく。私は仕事も見つけられず、子どもは幼稚園へ。すると他のママたちが、『まだ2人目、産まないの?』と言ってくるようになったんです」
ひとりっ子のママたちは、ある程度の期間が過ぎるとほとんど仕事に戻っていきます。“うちはひとりでいいの!”と爽やかに言うママもいましたが、チエさんはそこまで気持ちが決まっていません。無意識に2人目を期待していたのかもしれません。
幼稚園で感じた疎外感
「結局、幼稚園に行かせても、きょうだいがいる子のママたちは集まって話をしていて、なんとなく輪に入れないんですよね。まれにひとりっ子の人もいますが、おばあちゃんが幼稚園に来ることが多くて。やはり仕事をもっているみたいで…」
きょうだいゲンカがひどいとか、下の子のほうが強くて笑っちゃうとか、そういう話を聞くたびに彼女は疎外感を覚えました。
「子どもの人数を気にするのは私が神経質すぎると夫は言うんですが、やはり2人目を産めないことが気になってしかたがなかった。今もときどき、9歳になった娘に心の中で謝ってしまいます。ひとりっ子の状態しか知らない娘は何とも思ってないでしょうけど」
他者に圧力をかける言葉は慎むべきですが、当事者として他人の言葉に翻弄される必要はありません。ひとりの子どもとじっくり関われるのも悪くないと、プラスに考えたほうがよさそうです。
※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。
文/亀山早苗 イラスト/もちふわ