共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

世界最大級のヘルスケアカンパニーであるジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ(J&J)は、社員の健康増進にも力を入れています。

 

コロナ禍で健康への意識が高まる中、J&Jの取り組みについて、健康増進に携わる吉本さんと、前回に引き続き人事の工藤さんにお話を伺いました。

 

PROFILE

左:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の人事部マネジャーの工藤麻依子さん。コンシューマー カンパニーの営業として入社後、マーケティング部での勤務を経て、2010年から人事部へ。現在は人事の業務に加え、全社のD&Iイニシアティブリードとして様々な取り組みを行う。プライベートでは2回の産休・育休を取得した、保育園児2人のママ。右:ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ グローバルヘルスサービス日本担当の吉本のぞみさん。最も健康な社員の実現を目指して社員の心身の健康や幸福の増進に取り組む。“自分を大切にすると、他人を大切にできる”を信じ、現職やコーチングなどを通して、大人が生きがいや働きがいを見つけ、元気になる場づくりに注力している。また自身のあり方を整えることも大切にしていて、最近特に取り入れているのは、21時半以降スマホ・PCオフ、スロースクワット、オンラインヨガ、ジャーナリングなど。ICF認定資格プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)。

人生のミッションを考えることでエネルギーの使い方が変わる

──J&Jでは、社員の健康推進を意識した取り組みを行なっているそうですね。どのような取り組みをされているのでしょうか。

 

吉本さん:

J&Jの企業理念「我が信条(Our Credo)」には、働く社員に対する責任についての項目があります。そこには「社員の健康と幸福を支援」しなければならないということが記されていて、私たちは前回の記事「社員の『居場所感を作る』ジョンソン・エンド・ジョンソンの戦略」でご紹介した、ダイバーシティ&インクルージョンの推進とともに、長年にわたって社員の健康と幸福を考え、健康推進を意識した取り組みを行なってきました。

 

私たちは社員が本当に能力を発揮するためには、心身ともに健康であることが重要であると考えています。なかでも現在、力を入れているのが「Energy for Performance」(以降、E4P)というプログラムです。

 

──E4P」とはどのようなプログラムなのでしょうか。

 

吉本さん:

これは一人ひとりのエネルギーを戦略的に管理して、優れたパフォーマンスにつなげていくためのプログラムです。働く上でのエネルギーというと「時間管理」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、このプログラムでは自分の持っているエネルギーをどうマネジメントするか、自分の大切なことにきちんとエネルギーを注げているかを考えるのです。

 

J&Jでは、人にはそれぞれ生きていく上でのミッションがあると考えています。自分の人生のミッションについて考えたことがないとか、今までそれ自体考える時間が持てなかったという人もいると思いますが、このプログラムに参加することでそれを考える場にもなります。そして、長い人生について考えたとき、誰もがずっと健康でいたいって思いますよね。でも10年後、20年後も健康でいられる保障はないので、そのために今、何ができるのかを考えるのです。

 

E4P」では自分の人生のミッションを明確にし、エネルギーを管理し、さらに高めていくための様々なアドバイスをしています。具体的には、社内外の講師から生活習慣や食生活の改善、運動や睡眠の取り入れ方、集中力の高め方などを紹介します。

 

コースは1日コースと、より深く学べる2日間コースがあり、これまではトレーニングセンターや外部の会議室などで開催していたのですが、今年はバーチャルで開催しています。長時間のオンライン講習への参加というのはなかなか大変なので、2時間ずつ4回に分けて行なっています。

 

E4P」の考え方はJ&Jで働くすべての人にとってベースになることなので、役職などにかかわらず、すべての社員を対象にしています。現在、世界中に約13.2万人の社員がいるのですが、今年中に10万人が受けられるよう進めています。

アプリがあるから健康管理の継続が可能に

──E4P」を受けることで、自分の人生のミッションを明確化して、自分のエネルギーを注ぐ優先順位を考えたり、エネルギー向上のためのノウハウを学ぶということなんですね。学んだ後のフォロー体制などもあるんでしょうか。

 

吉本さん:

やはり学んだ後にいかにそれを定着させるかという意識づけが大切なので、学ぶことと習慣化させることの2つをセットにして、行動変容につなげられるようにしています。当社独自の「Castlight(キャストライト)」という健康アプリがあるのですが、それを使って、それぞれ自分が意識することを管理し、習慣化につなげています。

 

たとえば現在、私は11万歩を目標に設定しているのですが、目標に達していないときはアプリから「あとちょっとだよ」などと通知が来たりするんです。以前は外部のアプリと連動させて、栄養管理などもしていました。もともと私はそんなに歩く方でもなく、運動に関してもあまり意識がなかったのですが、自分で目標を設定して、それに対して達成できているかどうかを毎日確認するようになってからは、日々の達成状況を追っていくことの大切さを痛感しています。

 

また、アプリ内では健康に関するコラムが読めたり、食事内容のアドバイスがもらえたり、チームを作ってみんなで歩く「ウォーキングイベント」なども行われています。

 

プログラムの受講は基本的に11回ですが、受けたあとに復習ができるようなオンラインプログラムも海外では既に始めており、今後は日本でも実施できるよう準備を進めているところです。

E4Pのトレーニングで参加者に配布されるテキストと、エクササイズ用のゴムバンド

 

──E4P」を受ける前と後では、意識に大きな差が出るんですね。

 

工藤さん:

J&Jの事業はヘルスケアに根差したものなので、ビジネスの根幹には人と社会により良い医療を提供していくということがあります。そこに共感し、それを達成させていきたいと考えている人が集まっている会社なので、社員の健康に対する感度はもともと高いと思いますが、健康推進の専任部署によるリーダーシップのおかげで、健康に対する取り組みへの認知がより高まってきています。

 

私も「E4P」を受けましたが、非常にいいプログラムだと感じました。なんとなく知っているようで知らなかったことを知ることができましたし、「健康のために毎日1時間運動しなければいけない」みたいに気負ってやらなければならないということではなくて、いろいろなことを少しずつ取り入れていけばいいことがわかりました。実際にそれを取り入れたことで、自分の体と心の変化を感じることができました。

 

周囲の人たちも受けていて、日々の生活に運動を取り入れてみたり、90分以上の会議があったら「エナジーブレイク(小休憩)を挟みましょう」などとみんなが声を掛け合うようにもなりました。

 

吉本さん:

口コミで「いいプログラムだったよ」と広がっているため、まだ「E4P」を受けていない人も「受けなきゃ」というよりは「受けたい」と自発的に、積極的に受ける人が多い印象です。効果についても個人として実感できることだけでなく、会社全体で見たときにもやはり仕事のパフォーマンスが上がったという結果が出ています。

 

──健康推進に関して、E4P以外にも様々な取り組みをされていると聞きました。

 

工藤さん:

運動に対する補助プログラムとして、上限はあるものの、スポーツジムの会費やバランスボールなどの健康グッズ購入に対する費用補助があります。

 

また禁煙にも積極的に取り組んでいて、職場内の全面禁煙を実施したり、禁煙サポートプログラムでカウンセリングなども受けられるようになっています。

 

あとは制度ではないのですが、「不要不急の案件以外はできるだけ夜間や休日にはメールを送らない」ということを2016年から推進しています。

 

これは、深夜早朝まで仕事をせずに休憩を取るということはもちろん、例えばメールを送る相手の時間も尊重しようという取り組みです。きちんと休息を取ることで健康維持にもつながっていきます。まずはマネジメント層が行動で示していく、みんなへ声がけしてもらうなど積極的に実践しており、かなり定着してきていると思います。

 

また、このコロナ禍で一気に加速しましたが、2018年から場所や日数、利用対象者に制限のない形で在宅勤務制度を全社に導入しました。

 

生産性向上はさることながら、ワークライフバランスの充実を図ることも目的として、きちんと成果を出すというカルチャーとセットで取り入れたものですが、現在は社員の安全と健康を担保するという意味でも出社を強制することなく、多くの人が在宅勤務をしています。

 

吉本さん:

他にも、できるだけ健康意識をするような環境作りに取り組んでおり、例えば社内の自販機には水や炭酸水、ブラックコーヒー、紅茶など、なるべく糖分を控えた健康的な飲み物を置くようにしています。完全に何かを断つことはしませんが、できるだけ健康になれるような働きかけを心がけています。

 

コロナが起こるまでは職場で健康意識をするような環境づくりにフォーカスしてきました。しかし、コロナ禍で在宅勤務を行う社員もいるため、在宅でも個々人が健康を意識できるような取り組みを現在の課題と捉え、取り組んでいきたいと思っています。

 

 

時間管理に意識を向けるのではなく、自分の持つエネルギーをどこにどのくらい注ぐのか、そしてそのエネルギーを拡大させるためにできることは何か。J&Jの「Energy for Performance」の考え方は、働き方、そして生き方を見つめ直す参考になりそうです。

 

取材・文/田川志乃 取材協力/ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社