共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
JTBでは、2019年度に出張(ビジネス)にレジャーを組み合わせる「ブレジャー」の利用を社内で周知し、2020年に仕事(ワーク)とバケーションを組み合わせた「ワーケーション」の実施場所の拡大を行いました。
働く場所や時間の縛りがなくなりつつある“今”だからこその、働き方と休み方の提案について伺いました。
沖縄とハワイ、2拠点の縛りをなくし、「どこでも」ワーケーションOKに
——JTBでは旅行先で仕事を行う「ワーケーション」の仕組みを、2018年という早い段階から取り入れていたそうですね。休日と仕事を結びつけた新しい働き方の推奨は、旅行やレジャーを取り扱う会社ならではの取り組みですね。
竹村さん:
ワーケーションは休暇を過ごす滞在先で仕事をするという「自由な働き方」の取り組みでもあり、同時に「新しい休み方」のスタイルでもあります。
当社では、2018年からワーケーションの制度を導入していましたが、仕組みを検討するにあたり、「社外で仕事をする際の環境」が重要視されていたので、導入時には、ハワイと沖縄にある支店を「ワーケーション用オフィス」として設置し、事前に利用申請をした上で活用できるようにしていました。申請時の確認項目はワーク実施場所と滞在先ホテル、期間、交通手段です。子育て世代の社員については、お子さんの夏休みなど長期休みに合わせて取得しているケースが多く見られます。
——ハワイか沖縄に滞在する場合のみに限定されていたのですね。
竹村さん:
コロナ禍で、在宅勤務やテレワークが一般的になり、セキュリティ面での技術の進化も背景にあったことから、「パソコンを開く環境を限定してしまうのは合理的ではない」ということで、今年の10月から「沖縄とハワイのみ」という制限をなくしています。
ワーケーション利用時は、事前に日時の申請を出してもらい、個人に貸与された会社用のパソコンを使用してもらうことが条件です。旅先で仕事を始める時と、終わる時に、オンラインで勤退の打刻を行いますが、在宅勤務やテレワークと同様の流れなので、取得の難しさや複雑さは感じないはずです。仕事をする場所が自宅やコワーキングスペースから「旅先」に変わったような認識です。
制度を拡充して1か月程度ですが、40人以上の社員からの申請が届いていており、注目度の高さを感じています。
——ワーケーションを利用することで考えられるデメリットはありますか?また、「出社しないで働く」という点で、業務に支障はないのでしょうか?
竹村さん:
ワーケーションとリモートワークとの違いは、旅先で「休みながら働く」ということで、心身のリフレッシュがメリットとして挙げられるかと思いますが、「業務」と「休暇」の切り替えが難しい人にとっては、旅先でパソコンを立ち上げることで気持ちが休まらず、休んだ気にならないという場合もあるかもしれません。
必ずしも休暇と仕事を組み合わせることが良い働き方、休み方というのではなく、個人のワークライフバランスの充実のための選択肢の一つとして捉えてもらえたらと思っています。
また、「出社する必要がない」という前提で、ワーケーション利用の申請と上長承認を行っているため、その点で不具合があったという声は現状出ていません。
——他企業に対しても、仕事と休暇を組み合わせた「ワーケーションプランの提案」を推進していますね。
竹村さん:
旅行会社として、Wi-Fi環境や作業スペースが整った滞在先や、ワーケーションのモデルプランを紹介させていただき、法人様の社員研修、自治体様の地方創生・地域活性化のコンテンツの一つとして、「ワーケーション」という選択肢を提案しています。
より良い提案ができるよう、社内でも部署単位でワーケーションを試験的に実施していて、プランの検討に活かしています。
——JTBでは、出張と休暇を組み合わせた「ブレジャー」も、以前から活用されているそうですね。
竹村さん:
「ブレジャー」は、ビジネスとレジャーを組み合わせた造語で、ワーケーションの一つとして認識されている方も多いようです。
出張に休暇を付け足して、仕事と休みを組み合わせる制度で、たとえば出張で沖縄に行ったとき、出張日の後に有給を組み合わせてレジャーを楽しむという新しいビジネス出張のスタイルです。
——その場合、往復の交通費は会社負担になるのですか?
竹村さん:
そもそもビジネスで行ってもらっているので、そこに観光を組み合わせたとしても往復交通費は会社側が負担します。
このような休暇の取得方法は以前からあったのですが、2019年度に改めて「ブレジャー」という名称とともに周知し、会社としても「活用してください」と促しました。有給休暇の取得を促すことも狙いの一つです。
テレワーク時代だからこその「ふるさとワーク」導入で“単身赴任”と“やむを得ない引っ越し”を回避
——テレワークがスタンダードな働き方になり、働く場所や時間の柔軟性が高まることで、今後、ますます新しい意識や価値観が生まれていきそうですね。
竹村さん:
そうですね。当社では今年の10月頭に、「ふるさとワーク」という新制度を導入し、転勤や異動があった場合でも、テレワークをベースにすることで、居住地を変えることなく業務を行うことが可能になりました。
——たとえば、大阪に住んでいた方が、東京の支店に異動になった場合も、大阪在住のまま働けるということですね。
竹村さん:
そうですね。この制度は、単身赴任という選択がなくなるだけでなく、「夫の転勤で妻が離職する」など、配偶者のキャリアの継続にもつながると期待しています。また、「今の部署の仕事を継続しながら、両親のいる地元に戻って働きたい」という希望も叶う制度です。
来年4月には「勤務日数短縮制度」を導入予定で、これまでの週5日勤務の概念を緩和し、社員の希望に応じて年間勤務日数を決められるように体制を整えているところです。
週3日勤務、週4日勤務でも正社員として働き、増えた休みで副業やスキルアップのための学びに生かすなど、各社員のニーズに対応する内容になっています。単線型ではなく、複線型のキャリア形成はこれからの時代の働き方になってくると思います。制度を活用して、さまざまなチャレンジにつなげていってもらえたら嬉しいです。
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ワーケーションやブレジャー、ふるさとワークなど、柔軟な働き方で社員のワークライフバランスの充実を考えるJTB。「有給取得の推進」や「単身赴任の回避」など、社員の悩みと課題をしっかり把握できていたからこそ、テレワーク時代の到来に、素早く対応し、新しい仕組みづくりへとつなげることができたに違いありません。
取材・文/佐藤有香 撮影/緒方佳子