ダイアログ(対話)がダイバーシティを進める
──個人も組織も、多様性を認めることは容易ではないはずです。ダイバーシティの実現には何が必要でしょうか?
中川さん:
私は「ダイアログ」が必要だと考えています。ダイアログとは、相手と自分の価値観の違いを認め合うことを前提に、コミュニケーションを通じて互いの理解を深めたり、自身の気づきを得ること。日本語では対話を意味します。
ダイアログを提唱したのはアメリカの経営学者ビーター・センゲです。氏がマサチューセッツ工科大学大学院の上級講師のときに発表した著書、自律的かつ柔軟に進化し続ける「学習する組織」のコンセプトと構築法を説いた『学習する組織』は世界100万部を超えるベストセラーになりました。
人間は一人一人、異なる価値観を持っています。異なることを前提に、互いの価値観を尊重し合いながら、組織として共通の目標、ゴールを目指すのがダイバーシティのあるべき姿です。その手段としてダイアログは欠かせません。
相手がどんな人生を歩みたいのか、どんなキャリアを描きたいのか。そのために、今の職場、今の仕事で何をすべきなのか。対話を通じて、お互いがここにいる意味を発見し、実現を支援し合う。こうした基盤を持つことで自律的な集団が力を発揮し、個人、組織を強くするのです。
──コミュニケーションが個人も組織も強くしていくんですね。ところで、セルフマネジメントの時代個人のキャリアを描く際は、3年後5年後を見据えたプランを立てておくべきでしょうか?
中川さん:
もちろん、キャリアも自己管理する必要があります。自分なりにキャリアの未来像を描いておいて損はないでしょう。
ただしこれは平常時の話。コロナ時代はそうとは言い切れません。むしろキャリアの未来像を厳密に描かないほうがいいというのが私の考えです。
というのは、いまはコロナによって先を見通せない。不透明かつ不確実な社会情勢であるのは否めません。3年後こうありたい、5年後こうありたいと思っても、未来はそう進まない可能性が高い。遠大な目標を持つと、かえって焦りを感じてしまい、メンタルに不調をきたしかねないでしょう。
だからといって、目標を持たずに生きるのは好ましくありません。人間は目標がないことにも焦りを感じます。そこで私が提案したいのは、長期的な目標ではなく、短期的な目標を持つことです。
短期的な目標を持つことの有効性は、心理学の研究で明らかにされています。その研究によると、密閉空間にいるのを余儀なくされたときに、よい精神状態を保つ方法が、毎日の日課と目標を作ることなんだそうです。
コロナの状況と照らし合わせれば、おうち時間を充実させるべく、仕事に役立つ資格の勉強をする、好きな趣味を楽しむ、といったところでしょうか。短期的な目標を立てて実行、達成していくことが、心の安定につながるのだと思います。