キャリアを描く上で見逃せない「偶発性」

──コロナによって先が見通せない、大きな目標を描きにくいというのはキャリア形成にマイナスなのでは……。

 

中川さん:

たしかに、プラスとは言えないでしょうね。しかし悲観的に捉える必要はありません。不透明、不確実な時代であっても、毎日を輝くように生きていれば自然と未来は開けていく。私はそう信じています。

 

大学の講義で学生たちによく話をするんです。「40歳のときに輝けるようにいまを生きろ!」とは言えない。でも、大学生のときに輝けるように勉強を重ねたりサークル活動など充実した日々を送っていれば、卒業後の人生もうまくいくはずだ、と。

 

働く人だって同じですよね。何事にも興味関心を持ち、いろんな人と接する生き生きした日々を過ごすようにすれば、どんどん成長し、仕事も舞い込んでくるもの。自然と明るい未来が形成されていくわけです。

 

──でもそれって…言ってしまえば綺麗事のような気がしますが…。

 

中川先生:

たしかに、そう聞こえますよね(笑)

 

キャリア理論の代表的な考え方のひとつに、米国スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授によって提唱された「計画的偶発性理論(プランドハップンスタンセオリー)」があります。この理論は「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」とし、その偶然を計画的に起こしていくことの大切さを説いたものです。

 

コロナ時代は自分のキャリアを緻密にデザインすることよりも、より多くの幸運に恵まれそうな場に身を置くことがキャリア形成で重要になります。クランボルツの研究によれば、好奇心を持つこと、あきらめないこと、柔軟であること、挑戦することが幸運をもたらしやすいそうです。要するに、充実した毎日が幸運に通じることに他なりません。

 

──計画的に偶発的な出来事を引き起こすんですか。そう言われると毎日を充実させることが未来に繋がるという話にも納得がいきます(笑)。子育てとキャリアの両立に悩み、毎日を充実させようとしてもままならないという女性は少なくないと思いますが、女性の働き方はどう変わっていくのでしょう。

 

中川さん:

子育てとキャリアの両立は非常に難しい問題です。本当にものすごく悩ましい。簡単に答えを出せないのが正直なところですね…。

 

私の知るケースでいうと、子育てとキャリアを両立するため、独立という道を選択した人は周りによく見られます。独立といっても事業を興すような大掛かりなものではなく、ハイスキルを活かしてフリーランス的に働くスタイルです。経済的には不安定かもしれませんが、時間を自由にコントロールできますし、気持ちのゆとりも大きいと思います。

 

少しずつ社会が変わり、いろんな働き方が認められつつある流れの中、会社員として働くことだけに捉われない人は今後増えるはずです。組織に属するにしても、テレワーク以外の新たな制度改革を進める企業が増えるでしょう。働き方もキャリアも多様であっていいと思います。多様な選択肢から自分の望む働き方を選んでいける時代に変わっていくといいですね。

 

 

自分で自分をマネジメントしてキャリアを作っていく「セルフマネジメント」は、コロナ禍ではマイナスに働く可能性も。今こそい悲観的にならず、短期的な目標を立ててコツコツと日々を送っていくことが、偶発的にキャリアを引き寄せることに繋がることになりそうです。

 

取材・文/百瀬康司