共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
ANAのパパ社員には、育児に積極的に関わる男性社員が多いそうですが、その秘訣は男性社員の育児参加を後押しする様々な取り組みにあるようです。また、多くの企業でいま課題となっている介護施策にもいち早く着手してきました。
「すべての社員の活躍を応援する」という同社の取り組みについて、前回記事「月の勤務日数まで選べる!ANAの「超フレキシブル勤務体制」でママ社員が長く働ける環境に」に続き、D&I推進部の百々さんと和知さんにお話を伺います。
働くママが輝くためには様々な立場の男性へのフォローが不可欠
——御社では、ママ社員だけでなく、上司の育児理解や男性の育児休暇の取得促進など男性の意識改革を後押しする取り組みが盛んです。「パパママ出産育児休暇制度」では、男性社員もお子さんが生まれたら3日間の特別休暇が取得できるそうですね。
和知さん:
子どもの満1歳の誕生日までに連続して3日間、あるいは単発でも取得できます。子どもが生まれた社員へ向けて、上司や職場の同僚が「Hello! Baby Card」というお祝いのカードを送ることができるシステムもあります。
——よく「制度はあるけれど、実際には育児休暇を取りづらい」といったパパ社員の声を聞きます。会社からお祝いのメッセージで休暇を促してもらえることで、パパたちも前向きな気持ちで、気兼ねなく制度を利用できそうですね。
和知さん:
ほかにも、育休取得までの流れなどが記載された小冊子を配布したり、パパ社員のコミュニケーションを目的とした「パパランチ会」を2019年から月1回を目安に行っています。
今年度からは「パパママランチ会」と名称を変更して、オンラインで開催しています。育児にまつわる不安や両立のノウハウなどを共有でき、参加した方からは「とても有意義な時間だった」という声が寄せられています。
——復職の不安を解消して両立を応援する「仕事と育児の両立支援セミナー」では、パパが参加されるケースも多いと伺いました。
和知さん:
はい。グループ社員を対象に年に2回開催しているのですが、最近では参加者の8割がパートナーやお子さんと一緒に出席していますね。もちろん違う会社に勤めるパートナーでも参加できます。セミナーでは、ロールモデルとなる先輩社員に、1日のスケジュールや両立のノウハウなどをインタビューしたり、グループワークでディスカッションなどを行います。
——女性社員が6割を占め、様々なロールモデルがあることは、復職を控えたママたちにとって非常に心強いですよね。
和知さん:
「生の声に勝るものはない」という声はよく聞きますね。育休前の社員に配布する「仕事と育児の両立支援ブック」には、シフト勤務で働く客室乗務員、2児のママなど、様々な社員の1日のスケジュールが載っているので、自分に近いロールモデルの暮らしをイメージしやすいのではないかなと思います。
10年前からいち早く「介護問題」にも注力し若手社員にも啓蒙
和知さん:
両立支援のもうひとつの柱として注力しているのが「介護」です。10年ほど前から継続して取り組んできました。
——介護に関しては、多くの企業が着手しはじめた段階ですが、御社では10年も前から取り組んでいらっしゃるのですね。現在は、どのような活動をされているのですか?
百々さん:
主に、グループ社員を対象に仕事と介護の両立支援セミナーの開催とハンドブックの配布を行っています。仕事と介護の両立支援セミナーは、“介護と仕事の両立”という観点から構成を考え、自由参加形式で、年に4~5回ほど開催しています。介護に関する基礎知識やケーススタディ、両立のシミュレーションなど、様々な事例を紹介することで、突然やってくる介護に対して心の準備ができたり、介護に直面している人をどのようにサポートすればいいのかを考えるきっかけにもなればと思っています。
今年度はオンラインセミナーに切り替えていますが、参加しやすいこともあり、若い年代の出席者も増えていますね。セミナー後のアンケートでは、「介護に直面しても離職以外に選択肢があることに気付いた」「来るべき介護に対して心構えができた」などの声が多く上がりました。セミナー開催やハンドブックの配布のほかに、今年5月からは、介護の知識やノウハウなどを盛り込んだEラーニングを始めました。
弊社では、育児やシニア、介護、LGBTなど、様々な分野でこうした冊子を用意しています。ただ、全てのグループ社員に行き渡り、その内容が認識されているかというとまだまだ道半ばですので、しっかり浸透させていきたいですね。
——様々な立場の人たちにとって働きやすい環境づくりに注力していらっしゃるのですね。
百々さん:
すべての社員がやりがいをもって長く働き続けられるような体制づくりに取り組み、活躍を応援していきたいと考えています。
リモートワーク時のコミュニケーション強化の取り組みも
——社員同士のつながりやコミュニケーションを大切にしている御社ですが、コロナ禍で対面によるコミュニケーションがとりづらいなか、工夫をされていることはありますか?リモートワークが主流になり、職場のメンバー同士の距離が遠ざかっているという不安の声も多いですよね。
百々さん:
やはり雑談がなくなってしまったり、新しいメンバーがいるなかでどうやって仕事のノウハウを構築していくかというのは、私たちにとっても課題でした。
そこで、私たちの部署で独自に行っているのが「50の質問」です。「無人島に行くのであれば何を持っていく?」など、仕事とまったく関係ないテーマを50個準備し、ルーレットでその日のテーマを決めてみんなでディスカッションするというゲームをしたりしています(笑)。実は、50個のテーマは、我々の上司がお子さんと一緒に考えたものなんですよ。
——楽しそうですね(笑)。仕事と関係ない質問だけに、本音や個性が垣間見られそうです。
百々さん:
そうなんです(笑)。その人の個性とキャラクターが滲み出るんですよね。こうして上司が良い雰囲気を作り出してくれることでコミュニケーションのとりやすい環境が生まれ、リモートワークでもみんなの距離感が縮まっていると感じます。
会社全体にもこういった情報発信を行い、リモート下でのコミュニケーションを活発にする施策の提案が急務だと思っています。
…
働き方改革が叫ばれる以前から、様々な立場の社員が気持ちよく働くための細やかな施策を実施してきたANA。今後、ますます働き方が多様化するなかで、さらなるバージョンアップを継続されることでしょう。
取材・文/西尾英子 撮影/河内 彩