共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
国内最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を展開する株式会社ZOZOには、「家族時短」という制度があります。ユニークなのは、時短を使える理由の対象が、自分が家族だと思っていれば動物や同居人でもOKという点。家族時短制度の構築に携わり、自身もこの制度に助けられているという篠田さんにお話を伺いました。
どこまでがペット?同居の友人も家族になる?
——まずは家族時短という制度について教えてください。
篠田さん:
家族時短は、社員が家族と思う人や動物のサポートをするという理由で1日最大2時間の時短利用ができるという制度です。対象は配偶者や子どもでなくてはいけないという決まりはいっさいなく、スタッフ自身が家族と思ってさえいれば、犬も猫も家族として利用できるという制度になっています。2018年6月にできました。
※ZOZOでは、人事部のことを、“人事(ひとごと)”ではなく、スタッフ一人ひとりが他人の事も自分の事として考えるという意味と、「仕事(仕えること)」ではなく「自事(自然な事)」であるという意味を込めて、「人自部」と書く。
——極端な話、犬や猫ではなく、水槽の魚でも大丈夫なのでしょうか?同居してない両親などはどうなりますか。
篠田さん:
動物でもこれはダメ、という境目も決めてないんです。その人が何を家族と思うか、何をペットと思うかによるので、極端な例ですが、魚でもいいんです!「部屋をシェアしている友人がケガをして通勤が大変だからつきそう」という理由でも大丈夫。家族というくくりに入るのであればOKです。同居とは限定していないので、一緒に住んでいなくても制度を利用できるんですよ。
——利用は事前に申請する形なのですね。突発的に対応しなければならない時もあるのかなと思うのですが。
篠田さん:
家族時短とは別に、有給の時間休もあるので、突発的なものはそちらを使う方が多いですね。対応が長期化しそうになる時は、家族時短に切り替えることができます。
家族時短には、「育児」「介護」「家族」という3つのレイヤーがあり、今のところは「育児」を理由とする社員によって利用されています。また、「育児」は小学校6年生までというラインをつけましたが、例えば中学生になっても、遠くのスポーツクラブに入った子どもの送迎をしたいから、という理由で時短を使いたい方もいると思います。
その時は「育児」ではなく「家族」枠で使ってもらえるようになっているので、実質無限に使えるというか。本当にその人のライフスタイルに合わせた使い方ができますね。
——どれも重要な枠組みだと思いますが、「介護枠」はこれからの時代に特に必要になりそうですよね。利用するための基準はあるのでしょうか。
篠田さん:
国の育児・介護休業法で利用できる範囲だけだと、利用できる要件がすごく厳しくて、介護が必要な状態であるのに認定されないということが起こり得ます。家族時短の制度を作るにあたっては、その点を緩和したいという目的もありました。ですので、家族時短では、親がケガをしたというような理由でも使ってもらえる内容になっています。
制度ひとつにも会社としての“想いをのせる”
——既存の制度ではこぼれ落ちてしまうような人を救済できる制度になっているわけですね。画期的な制度だと思いますが、この制度が生まれた背景について教えてもらえますか。
篠田さん:
もともとの制度では、産後、育児休暇から復帰した後は、時短の利用は3歳まででした。私も育休から復職した後、子どもが3歳を迎えてから1年間はフルタイムで働いていたのですが、けっこう両立が大変だったんです。
そもそも平均年齢が32.3歳(2020年4月末時点)と若い会社で、私は出産を経験した4、5番目の社員なのですが、私に続いて出産する社員が一気に増えたんです。そうした状況のなか、「3歳になったときに急にフルタイムに戻れるかが不安」というママ同士の会話をよく耳にするようになってきました。
ちょうど世間的にも「小学校まで時短が使える制度が望ましい」という流れになっていましたし、他企業でも取り組んでいたので、自身の経験から上司に相談したのがきっかけでした。
——篠田さんが社員の意向を汲んで働きかけたのですね。上司はすぐに賛成してくれましたか。
篠田さん:
相談していくうちに、「会社として単に時短勤務の対象年齢を広げることもできなくはないけれど、会社としての想いや、会社が大切にしていることを新制度にのせたいね」という話になっていって。
——ZOZOが会社として大切にしていることとは、具体的にどんなことでしょうか。
篠田さん:
会社のロゴマークには、“Be unique. Be equal.” という意味が込められています。ロゴは4色の丸、三角、四角を組み合わせたものなのですが、色や形は違っても、実は面積がすべて一緒なんです。そこには、人も人種によって肌、目、髪の色などみんな違うし、考え方や感じ方も違うけれど、みんな同じ人間だよね、という思いがあって。
ちょうど会社も規模が大きくなり、スタッフ数も増えて多様性がよりいっそう意識されてきたタイミングだったので、誰でも活躍できる制度をつくろうと。
そのなかで、「時短が必要だけなのは子どもや親だけじゃないよね」という意見が出たんです。一緒に検討してくれていた上司もペットを買っていたので、「じゃあ動物は家族なのかも?」という考えに至りました。
——家族の枠組みをペットまで広げるというのは、なかなか新しい発想ですよね。
篠田さん:
家族は戸籍があるけれど、ペットの証明なんてしようがないですもんね(笑)。確かに、不正に時短制度を使う人が出てこないとも限りませんが、「ここはスタッフを信じよう」と。もともと会社の方針として「性善説」があるので、今回も社員を信じて運用を始めました。
——制度をつくるに当たって、会社が大切にしていることや想いを制度にのせようという発想自体が素敵だなと思います。
篠田さん:
ファッションが好きで集まっている人が多いので、みんな好きなことに対するこだわりが強いほうだと思います。何か一つのことに取り組むにしても妥協できないというか。良くも悪くもこだわりをもっている人が多いですね。
私もこの制度をつくる時には、「こんな想いでこの制度を作ったんだよ」という熱意をスタッフに知ってもらいたいという気持ちがすごく強かったですね。ZOZOでは、“スタッフは家族”という考え方もあるんですね。だから、みんなのことを信じたいし、大切にしたいし、スタッフが家族ならスタッフの家族もみんな家族だよ、という想いを込めて作ったよと。
社内向けのイベントにもこだわりの仕掛けが!
——お互いを家族のように大切に思う会社なんですね。働きやすいだろうなぁと想像します。
篠田さん:
そうですね。先日もフレンドシップデーといって、スタッフ同士が部署を超えて交流する全社イベントを開催しました。このときにもZOZOらしさが表れていましたね。
今回はオンラインという初めての試みで画面上で交流しました。初めて顔を合わせる人同士も多いので、出身地が近い人同士でグループ分けをして、共通の話題で盛り上がれるように工夫したんです。
「飲み物や食べ物も話のきっかけになるといいね」ということで、拠点がある5つの地域の名産品を1つの箱に詰めて、各家庭に送ったんですよ。その中に入れたチラシもデザイナーがこだわってくれて。事前連絡をする際もそれぞれの地方の方言で連絡したりと、とことんやりました(笑)。
嬉しいことに「すごく良かった!」という声もたくさん聞くことができたので、また工夫して継続していきたいですね。
…
ただ便利な制度を作るだけではなく、その制度を通して何を伝えたいのか、ZOZOらしさをどこに出せるだろう…そのこだわりようには目を見張るものがあります。それは働きやすい環境を整え、社員を大切にしたいという社風が浸透している証と言えるでしょう。次回は「家族時短」制度の利用者の視点からその良さについて伺います。
取材・文/平地紘子(mugichocolate株式会社)