共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
オフィス関連の家具や事務用品、また家庭用の家具などを製造・販売する株式会社イトーキ。製品を通して快適な空間を提案しているイトーキですが、社内では、社員一人ひとりの働きやすさを空間づくりから実現しています。
それは、「XORK Style(ゾーク・スタイル)」。一人になって仕事に集中したい時、2人で対話をしたい時、3人以上でアイデア出しをしたい時など、活動内容にあわせてオフィス環境が選べるというものです。この取り組みを始めたきっかけや効果などを営業本部の藤田さんに伺いました。
10タイプの活動内容から環境を選べる新しい働き方
名称: 「XORK Style」 導入開始日:2018年秋より実施中 対象者:「ITOKI TOKYO XORK」在籍社員 今までに利用した人数: 「ITOKI TOKYO XORK」在籍社員
株式会社イトーキ 営業本部 営業戦略統括部 営業企画部
マーケティング戦略企画室 藤田浩彰さん
——オフィスなど多様な空間に合わせた製品などを誕生させているイトーキでは、業務内容で選べる環境づくりを推進されているそうですね。特徴を教えてください。
藤田さん(イトーキ):
はい。「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」(以下、XORK)といって、2018年秋に、首都圏のオフィスを日本橋に移転・集約して開設した当社のセンターオフィスです。ここは本社機能も担っています。
施設名の「XORK」には、これまでの働き方「WORK(=働く)」の頭文字の「W」をアルファベット順で次にあたる「X」に変え、「次の時代の働き方を提案したい」という意味を込めています。
「XORK」では、社員自らが「XORK Style(ゾーク・スタイル)」を実践しています。
「XORK Style」とは、社員の自己裁量を最大化し、自らの働き方を自律的にデザインしていく次世代のワークスタイルです。この新しい働き方を実現するために導入したのが、オランダのヴェルデホーエン社が30 年前より提唱しているActivity Based Working(以下、ABW)という“働き方戦略”です。
ABWは、オフィス環境の話だけではなく、社員の行動変容を促すための教育や、場所を選ばずに働くことができるようにするIT環境の整備も含まれた、企業全体で取り組む“働き方戦略”です。社員一人ひとりが、自己裁量で自身の活動(業務内容)にふさわしい時間や場所を選択して働くことで、最大限のパフォーマンスを発揮することを目指します。
イトーキでは、ヴェルデホーエン社の知見に基づき、「高集中」「コワーク」「電話/WEB 会議」「二人作業」「対話」「アイデア出し」「情報整理」「知識共有」「リチャージ」「専門作業」の10 の活動を定義して、それぞれに最適なスペースづくりを実践しています。
——仕事に集中するためのスペース、3人以上で知識を共有するためのスペースなど具体的な活動内容にあわせて利用できるのがユニークだと思いました。なぜ始められたのでしょうか。
藤田さん(イトーキ):
イトーキでは、創業130周年を迎える2020年に向けて、今後の企業としての長期的な成長を目指し、今までの働き方を抜本的に見直す「働き方変革」を行ってきました。
その一環として社員の働き方について調べてみたところ、様々な課題がありましたが、なかでも「営業担当者がお客様へ能動的に訪問する時間が減少していること」が最重要課題でした。その背景として、多様なお客様ごとに対応するために営業担当者の業務が複雑になり、総務や人事、経営企画、情報システムなど他の部門との連携が不可欠になっていることがわかりました。
人手が足りない、時短が求められる、仕事の質を高めるための能力開発も必要という、まさに三重苦の状態でした。従来のオフィスや働き方のままでは限界がきていたことが確認できたのです。
そこで海外の先進企業のワークスタイル研究を進め、本社を含む首都圏のオフィスを移転・集約させてABWを実践するのが良いのではないかという結論に至りました。
XORK導入でアイデア共有も在宅勤務もスムーズに
——働き方改革を進めるなかで見えてきた課題を解決するための取り組みだったのですね。導入後はいかがですか?
藤田さん(イトーキ):
イトーキでは定期的に社内アンケート調査を行っていますが、「生産性の高い仕事ができている」と回答した社員の割合については、移転前は32.4%だったものが、移転6か月後(2019年4 月)には58.5%、さらに18か月後の2020年4月には70.7%になりました。
また、「同僚と知識やアイデアの共有がしやすい」と回答した社員の割合については、移転前は35.6%だったものが、移転後6か月では52.1%、移転後18か月には63.5%になりました。いずれも、ABWの成果が出てきているといえます。
また、最近では、新型コロナウイルスの感染防止対策として、XORKで働く72%のワーカーが、2月末という比較的早い段階で速やかにテレワークを実施することができました。一人ひとりが日常活動をしっかりと10の活動に分類し、どこで働くことが最もパフォーマンスが高まるのかを常に考え実践してきたことで、結果として非常時でも臨機応変に対応できたと考えています。
——XORKを取り入れたことで在宅勤務もスムーズに始められたのですね。実際に社員からはどんな声が聞かれますか?
藤田さん(イトーキ):
コロナ禍以降の社員アンケートから抜粋したものですが、「メンバーの時間管理術が向上した。業務の見える化と成果共有はスピードアップに繋がっている」、「在宅勤務を始めて、お互いに見えない環境で働くなかでは、XORK同様にお互いの信頼性の大切さが身に染みた」などの声が上がっています。
——XORKと在宅勤務、両方を体感していることで学びが得られているのですね。コロナ禍で在宅勤務が進むなか、XORKから始まった新しい働き方はどんなふうに変化していくのでしょうか。
藤田さん(イトーキ):
今後、ポストコロナでニューノーマルな働き方が広がっていくと考えています。そのなかで課題としていることは、「職場の連帯感」です。イトーキが行った社内アンケート調査では、移転前は34.9%だったものが、半年後には29.3%まで下がりました。
そこで、週に1度は集まる、ランチを一緒に作って食べるなど、実際に集まって何かをすることで連帯感を上げていきました。その結果、移転18か月後には33.8%と以前の水準まで戻ってきました。
ただ、緊急事態宣言後に行ったアンケートでは、実際に集まることができなくなったことで、連帯感の要であるコミュニケーションの量が少なくなっていることが浮き彫りとなりました。コミュニケーションの量を高める新しい方法を引き続き考えて実践していきたいと思います。
現在、新しい働き方について模索されている方も多いかと思いますが、オフィスの自席でやっていた業務を、そのまま自宅で行うだけでは生産性は上がりません。一人ひとりが業務を活動に分解し、オフィスや自宅や外出先など、自ら活動に合った場を選び、それらをサポートできる環境を企業が提供できるかが重要だと考えています。
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会社が整えた環境を利用するだけではなく、社員自らが業務自体と向き合い、より高いパフォーマンスを目指してその時に最適な環境を選ぶ。一人ひとりの主体性を高める環境づくりに挑戦しているイトーキでは、今、コロナ禍で進んだ在宅勤務により浮上したコミュニケーションの課題にも取り組んでいます。積極的に改善を進めるイトーキの今後のチャレンジにも、社員にとっての働きやすさを考えるヒントがあるのではないでしょうか。
【会社概要】
社名:株式会社イトーキ
従業員数:2022名
設立年月日:1950年4月20日
業種:製造業
事業内容:オフィス関連家具・事務機器・家庭用家具等の製造・販売
取材・文/高梨真紀