共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

データとテクノロジーによって企業のマーケティング活動を支えているイルグルム。「売り手と買い手にとって理想のコミュニケーション」を追い求め、新しい価値を提供するイルグルムですが、それらはどのように生み出されるのでしょうか。

 

その工夫のひとつは、ユニークな休暇制度にありました。年に1回、9日間という大型連休が取得できる「山ごもり休暇制度」です。勤続10年目の社員が取れる「10年勤続休暇」も合わせると最大2週間もの間、会社を休むことが可能に。なぜこのような長期休暇を制度にしたのか、また制度導入後の効果などを、人事労務室の小川さんに伺いました。 

定期的な連続休暇で業務の見える化も実現!「山ごもり休暇制度」と「10年勤続休暇」

制度名称: 「山ごもり休暇制度」「10年勤続休暇」 導入開始日: 「山ごもり休暇制度」は2011年より、「10年勤続休暇」は2014年より 対象者: 「山ごもり休暇制度」は社員、「10年勤続休暇」は全従業員(非正規社員含む) 今までに利用した人数: 「山ごもり休暇制度」は社員全員、「10年勤続休暇」は13

 

教えてくれたのは…

株式会社イルグルム 人事労務室 小川香保里さん

2009年、株式会社イルグルムに新卒入社。日本発ECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」のプロモーションを経て、2011年より人事として採用を担当。2016年に育休から復帰し、現在は給与・労務を担当。

 

 

——「山ごもり」という言葉がとても印象的です。マーケティングの最先端を走るイルグルムならではの、遊び心ある制度ですね。

 

小川さん(イルグルム):

そうなんです。この「山ごもり休暇制度」はすべての役職員が年に1度、9日間の連続休暇を取得するものですが、休暇中に会社との連絡を一切絶つことがルールになっています。まさに山ごもりのような感覚で休暇を過ごすんですね。

 

9日間の休暇の内訳は、特別休暇3日間+年次有給2日間+前後の土日4日間になります。祝日や年次有給などをさらに追加して延長することも可能です。

 

「山ごもり休暇」中の社員のアメリカ旅行でのワンシーン。

 

取得の仕方は、期末のうちに、来期1年間の休暇取得スケジュールを設定しておき、予定日までに業務引き継ぎをして休暇取得します。休暇取得スケジュールは原則変更できず、変更を希望する場合は社長の承認が必要です。日程変更のハードルをあえて高くすることで、前もって業務を調整すること、後回しにして休まなくなることを防いでいます。

 

——長期間休む日が決まっていたら、その日を目標に業務も効率的に遂行できそうですね。なぜこの制度が始まったのでしょうか。

 

小川さん(イルグルム):

導入前の頃は休みが取りづらい雰囲気がありました。それぞれ自分の仕事が忙しく、1日単位の休みを取ることがあっても長期で休む人はほとんどいませんでした。

 

社内から福利厚生の充実を求める声があった一方で、会社としてはリスクヘッジとして業務の標準化を進めていく必要性を感じており、この2つの目的を同時に実現するために、「全員取得×つながらない休暇」という形になりました。

 

社員には普段の仕事の疲れを癒やして、心身ともにリフレッシュしてもらうことももちろん期待していますが、休暇のために引き継ぎを発生させることも大きな目的です。引き継ぎがあれば、一人ひとり業務内容を整理できるうえ、引き継がれた側からの視点に立った新たな業務改善点が浮かび上がることがあります。普段から業務が共有されていることで、柔軟な配置転換も可能になります。

 

  

チームで業務を共有。業務の見える化を推進し、属人化を防止

——たしかに年に1回必ず引き継ぎがあることで、業務自体が計画的にスリム化されそうです。こうした効果は実際に感じられていますか?

 

小川さん(イルグルム):

はい。効果には大きく3つあって、1つめが「業務の見える化」が促進されていることです。業務の引き継ぎは全社統一のフォーマットをもとに、上司、同僚、部下へと行います。山ごもり休暇をきっかけに年1回、業務の棚卸しを行い、チーム内で共有することで業務内容を明らかにし、属人化になるのを防げています。既存社員の配置転換やキャリアチェンジの際の引継ぎ、新入社員への教育にも役立っています。

 

2つめは、有給休暇の取得率が制度導入前は20%だったのが、導入後は70%まで上昇しました。業務の共有とマニュアルの整備が進んだことで、制度導入前と比べて休みやすい環境が整ったことが影響していると考えています。

 

3つめは、社内コミュニケーションがより活発になりました。社内ではコミュニケーションツールとして「Slack」を使用しているのですが、専用チャンネルで休暇の様子を共有するんです。その人となりを知ることにもつながり、コミュニケーションのきっかけになっています。

 

同僚とともに、南米・ボリビアにあるウユニ塩湖を訪れた社員も。

 

制度開始の1年目は、「休めない」と反発する声も一部ありました。でも、「やってみると意外と難しくないことに気づけた。今では楽しみにしています」という声も聞かれるようになっています。

 

「これからも一緒に頑張ろう」という意味が込められた「10年勤続休暇」

 ——「10年勤続休暇」についても教えてください。

 

小川さん(イルグルム):

10年勤続を迎えた社員を対象にしたもので、特別休暇5日間を付与し、山ごもり休暇とつなげて2週間休暇を取得することができます。

 

2001年の創業からこれまで、弊社は社員とともに成長してきました。長く勤めている社員へのねぎらいと感謝の意味を込めて、山ごもり休暇とあわせた取得でリフレッシュをしてもらうことを目的としています。そうして、10年を区切りに「また新たな気持ちで一緒に働こう」と思ってもらえたらと。

 

私も今年、10年勤続休暇を取得し、山ごもり制度とあわせて2週間休暇を取りました。ゆっくりと過ごすことからアクティブに楽しむことまで、幅広く体験できました。休暇の間、業務を円滑に遂行してくれた部門のメンバーには心から感謝しています。

 

10年勤続者を祝う表彰式の様子。

 

——社員同士の信頼関係をさらに深める効果もあるのですね。長い休暇を実現するためにはやはりこれまで課題を超えられたと思うのですが、どのように工夫されたのでしょうか。

 

小川さん(イルグルム):

そうですね。山ごもり休暇制度については、過去には、日程変更を役員会承認から社長承認へと変えました。制度スタート当初は50名程度でしたが、現在は倍以上の従業員数になったこと、ライフステージが変わった人も増え、家族の事情にあわせて変更したいニーズが高まったためです。以前よりは変更のハードルは少し下がったものの、確実に取得してもらうために取得状況の管理は徹底しています。

 

また、休暇取得後の発表を当初は朝会で行っていたのですが、Facebookグループ投稿へ、さらにSlackへと社内でよりコミュニケーションが取りやすいように変更しました。

 

その甲斐あってか、今は特に大きな課題はなく、全社員に浸透していると感じられています。

 

 

長期休暇を取得できても、業務のことが気になるなど結局、会社と連絡を取り合ったりしてしまうケースは少なくないのではないでしょうか。それを年に1回取得できること、休暇中の連絡を「禁止」すること、引継ぎを仕組み化することで本当の意味で心身ともにリフレッシュできる休暇を実現させたイルグルム。業務の見える化にもつながったこの休暇は、様々な面で新しい視点が生まれるきっかけになっているに違いありません。

 

 

【会社概要】

社名:株式会社イルグルム

従業員数:社員149名

設立年月日:2001年6月4日

業種:情報通信業

事業内容: マーケティング ロボットの提供 

・マーケティング効果測定プラットフォーム「アドエビス」 

・運用型広告レポート自動作成ツール「アドレポ」 

・ECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」

 

取材・文/高梨真紀