診断名は「名札」。さほど重要ではない

——発達障害の種類としてADHDASDなどはよく耳にしますが、その他にどのような種類があるのでしょうか。
それぞれの発達障害の特性の境界はあいまい(編集部作成)

塩川さん:

発達障害には次のようなカテゴリーがあります。

  • 知的発達症全般的な知的機能の発達の遅れが見られる。
  • 自閉スペクトラム症(ASD社会的コミュニケーション・対人関係の障害(やりとりが難しい)」「興味・関心の限定(こだわりが強い)」という2つの特性が見られる、かつてはアスペルガー障害や高機能自閉症と呼ばれていた。
  • 限局性学習症(SLD知的能力全般的な遅れはないが、読む・聞く・話す・計算する・推論するなどの学習能力の習得に時間がかかる。かつては学習障害(LD)とも呼ばれていた。
  • 注意欠如・多動症(ADHD注意の集中・持続が困難(注意力の障害)、よく考えず行動する(衝動性)、落ち着きなく動き回る(多動性)という行動特性が見られる。
  • 社会的コミュニケーション症言語の理解能力、表出能力、発音能力などが暦年齢に比べて低い。自閉症スペクトラム症と似ているがこだわり行動は見られない。
  • 発達性協調運動症…運動発達が暦年齢に比べて低い。手足を協調させる運動が未熟で、動作がゆっくり、ぎこちなく、不器用であることが特徴。

『もしかして発達障害? 子どものサインに気づく本』(監修:塩川宏郷/主婦の友社)より

 

塩川さん:

ただ、これらのカテゴリー分類・診断分類にはあまり意味はありません。なぜなら、この線からあちら側がADHD、こちら側は自閉スペクトラム症、という境界線があるわけではないからです。

 

行動面の特徴として、多動や衝動性がメインな人はADHDと診断され、コミュニケーションの困難さが問題になっている人は自閉スペクトラム症と診断される。

 

なぜそんなことをするのかというと、これらの状態像の研究を進めるために必要だからです。診断名は、研究者が研究のために便宜上つけた「名札」くらいに考えてください。

 

境界が曖昧で幅のある連続した状態を「スペクトラム」と言いますが、発達特性そのものがすべてスペクトラムなんです。ですから、2つ以上の「名札」を持つ場合も多いですし、どっちかはっきりしないということも多いのです。名札そのものにこだわってしまうと、その子どもの本当の姿が見えなくなってしまいます。診断名をつけて分類するではなく、子どもが何に困っているのかを知ることが大切です。