中学受験の「全入時代」が終了し問われる親の価値観」では近年の中学受験の状況や、中学受験をするメリットについてお伝えしました。今回は、多くの人が悩む「親子喧嘩」について、なぜ喧嘩になってしまうのか、喧嘩にならないようにするためにはどうすればいいのか、教育ジャーナリストのおおたとしまささんに伺いました。

 

——中学受験をきっかけに親子関係が最悪な状態になんて話も聞きますが、実際、なかなか勉強に集中しない子どもにイライラしたり、「自分で受験したいって言ったんでしょ!?」なんて喧嘩になってしまうこともしばしば。親子関係が崩壊せずに、最後には親子で笑える中学受験にするためにはどうしたらいいのでしょうか。

 

おおたさん:

まず、いつも喧嘩になってしまうとか、親子関係が最悪になってしまうという場合、ほとんどのケースにおいて親の中にそうさせる要因があります。それは、親が子どもではなくて目標ばかりを見てしまっているということなんです。子どもに対して「あんたが受験したいって言ったんでしょ!?」などと脅迫めいた言葉をかけて頑張らせようとする時も同じです。

 

中学受験の場合は志望校があって、その学校の偏差値が60とか明確な到達地点もあります。しかも受験日という締め切りもあるので、「なんとか間に合わせなければならない」という思いが出てきてしまうのは当然のことです。

 

しかし子どもは、親が自分ではなくて目標の方ばかり見ていると感じると、無意識のうちに反発するんですよね。これは子どものリアクションとしては当然のことで、反発するというのはちゃんと生きる力が育っているということなのでいいことだと思いますが、喧嘩ばかりでは辛いですよね。

 

——そうなんです。喧嘩はしたくないと思っているのですが、結局いつも喧嘩になってしまう。どうしたらいいのでしょうか。

 

おおたさん:

喧嘩にならないようにするためには、親が志望校合格という目標を片目で見ながらも目の前の子どもを見続ける目を鍛えなければなりません。つまり、子どもを変えるのではなく、親自身が変わるしかない、人間的に成長するしかないということです。

 

子どもとぶつかった時に、「なんでこの子は!」って思うのではなく、まずは自分の中のどこを成長させたら良いのか、という風に気持ちを切り替えて考えてみてください。もちろん最初からできるわけではなくて、これは理想論なので、実際はその場になったらカーッとなって切り替えなんてできないかもしれないですけど、それは毎回試行錯誤しながらやっていくしかないですよね。中学受験を機に、その期間で親も少しずつ成長していければ良いのではないでしょうか。

 

親が目標ばかりを見て子どもが見えなくならないようにするためのコツとしては、親が中学受験に関してあまり関わり過ぎないようにすることです。

 

「中学受験は親の受験だ」ってよくいわれますが、僕の考えでは、親はそんなにやることないよって思います。

 

——「親はそんなにやることない」ですか。とはいえ、親のサポートは不可欠だと思うのですが、そのさじ加減が難しいです。極端な話、お弁当だけ作っていればいいですか?

 

おおたさん:

そうですね、お弁当だけで十分だと思いますよ。

 

確かに親がうまく何かやってあげれば、多少偏差値は上がるかもしれませんが、それは親が履かせた下駄であって、それで生きていけるわけではありません。最近はその下駄を履かせることに一生懸命になり過ぎている人が多いんじゃないかと感じています。

 

子どもがどれだけいい成績を取れるかというのが親の腕の見せ所みたいになってしまうと、それって子どもが主役ではなくて親が主役の中学受験になってしまいますよね。こうなるとたいていの場合、子どもの心を深く傷つけてしまったり、子どもが反発してしまうということが起こります。

 

親はあくまで黒子。親としてできることはやるけれども、その努力や工夫がそのまま子どもの成績に反映されるわけではない。親の手柄みたいに、親の頑張りと子どもの成績が上がることを関連づけないことが大切ですね。

 

もう1つは、学校に対して過度に期待しないこと。よく「第1志望の学校に入れなかったら、この子の人生が変わってしまうんじゃないか」って考える親御さんがいるのですが、そんなことはありません。子どもはどこの学校にいっても大丈夫です。だって、その子はその子で変わらないのですから。むしろ親の役割としては、どんな学校に行くことになっても大丈夫なように育てることではないでしょうか。

 

学校は子どもの人格や人生まで設計してくれるわけではありません。これまで色々な学校を取材してきましたが、少なくとも首都圏で何十年も生き残っている私立学校は、偏差値に関係なくどこもいい学校です。どの学校にもいい先生がいるし、どの学校の生徒もちゃんと輝いている。それぞれの学校に良さがあるんです。

 

——でも親が言わないとなかなか自分からは勉強しないという場合、何も言わないわけにもいかないですよね。

 

おおたさん:

そういう時は、騙し騙し「頑張ろう」って励ましながら、たとえ本当のやる気じゃなくてもその場その場でその気にさせるような関わりをできる範囲でやればといいと思います。

 

そういう時に、子どもが過去に言った言葉を引き合いに出して「あんたが頑張るって言ったんじゃない!」などと子どもを責めるのは卑怯なこと。それが卑怯だと気づかない限り、いくらでも言ってしまいますよね。

 

だから、子どもが勉強しないのであれば、「やりたくない」というのが現実なので、そこに対して子どもが傷つかない方法で励ましてみたり、ちょっと褒めてその気にさせてみるなど、そういう関わりをやってみるのはいいと思います。ただ、それが必ずうまくいくわけでもないので、ある程度は現実を受け入れる覚悟も親には必要ですね。「馬を水場に連れて行くことはできても、馬に水を飲ませることはできない」のです。

 

——最後に、これから秋のシーズンは学校説明会や文化祭など学校を見る機会が増えてきます。今年はコロナの影響で説明会をオンラインで行う学校や、例年通りリアルで行う学校、見学会などを実施する学校など様々なようです。子どもに合う学校を見分けるために、見るべきポイントを教えてください。

 

おおたさん:

オンラインでもリアルでも共通して言えるのは、「1番見なければならないのは自分の子どもだ」ということです。

 

例えば文化祭に行っても生徒たちはお祭りではしゃいでいたりとか、学校説明会もよそ行きの顔になっているので、普段の学校の姿がそのまま見えるわけではありません。よその子はあまり参考にはならないのです。

 

自分の子どもがその学校に行ってどんな表情をしているのか、どんな様子なのかを見てあげてください。目が輝いているか、落ち着いて安心した様子なのか、それは親にしかわからないことですから。

 

 

PROFILE おおたとしまさ


教育ジャーナリスト。1973年、東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育媒体の企画・編集に関わる。教育分野を丹念に取材し斬新な切り口で考察する筆致に定評があり、執筆活動の傍ら、講演・メディア出演などにも幅広く活躍。中学・高校の英語の教員免許、小学校英語指導者資格をもち、私立小学校の英語の非常勤講師の経験もある。『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』など著書は60冊以上。http://toshimasaota.jp/index.html

 

取材・文/田川志乃