今年は新型コロナウイルス(以下コロナ)の影響で、「受験はどうなるの?」「塾はどうなるの?」など不安な気持ちを抱えながら「やるしかない」と頑張っているご家庭が多いと思います。

 

今回は、中学受験についての著書を数多く執筆し、たとえ第一志望に合格しなくても最後は親子で笑える中学受験「必笑法」を提唱する、教育ジャーナリストのおおたとしまささんにインタビュー。

 

中学受験の醍醐味やメリットについて教えていただきました。

 

 

——近年、中学受験率が増加していると聞きますが、今の中学受験の状況について教えてください。

 

おおたさん:

確かに近年、中学受験率は増加傾向にあります。しかし、昔に比べて異常に加熱しているというわけではありません。2008年のリーマンショック以前のレベルまで10年以上かけてようやく戻ってきたという状況です。

 

ただ、2019年入試までは国私立の受験者数よりも募集数の方が多かったため、理論上はどこかには必ず入れるという「中学全入時代」が続いていたのですが、2020年入試では久しぶりに募集数よりも受験者数が上回りました。

 

また、男女で合格率にかなりの差があり、女子の合格率は110%を超えているのに対し、男子は86%。つまり男子は7人に1人はどこにも受からないという厳しい状況になっています。

 

中学受験は世の中の景気と連動しているので、2021年入試はコロナの影響を受けて受験者数は減ると予想できます。しかし、それぞれ受ける学校によっても状況は異なるので、それほど影響はないと考えた方がいいでしょう。

 

 

——入試スタイルも多様化してきていると聞きますが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

おおたさん:

まずは入試日程のバリエーションが増えてきています。つまり、1つの学校で何回も入試を行うというのが当たり前になってきているんです。午前だけでなく午後入試を実施する学校も増えてきていますね。

 

もう1つは、試験の種類のバリエーションです。4教科入試や2教科入試だけでなく、総合型の思考力入試という、いわゆる公立中高一貫校と似たような適性検査型の入試や、英語も含めた入試、数学だけの1教科入試など、いろいろな形での入試が受けられるようになっています。

 

もちろん4教科すべてでバランスよく点数が取れる子は偏差値が高く出て、受験には有利です。しかし、得意な教科もあれば不得意な教科もあるのが当たり前。新型入試はその凸凹の良い部分を見てくれる入試スタイルと言えます。

 

ただ、新型入試で受けるからといって、最初から4教科の勉強をせずに新型入試の対策だけするというのは本末転倒です。まずは4教科しっかり勉強して、スムーズに力が発揮できるタイプの子はそのルールで受験すれば良いし、凸凹がある子は、その子にあった入試を実施している学校を探せば相性がいいと思います。

 

 

——志望校に新型入試があるのか、事前にしっかり調べておくことも大切ですね。ちなみに、新型入試を受けて合格した場合、授業についていけないということはないのでしょうか。

 

おおたさん:

もしかしたらそういう子もいるかもしれませんが、新型入試で入学した子の方がおちこぼれやすいという話は聞いたことがありません。

 

逆にポジティブな話は聞いています。新型入試で入学した子は、「この学校は自分の得意なところを見てくれたんだ」という思いがあるので、自己肯定感が高いといわれていますね。あとは、クラスの中で積極的に発言するムードメーカーになってくれているとか、違うタイプの学力を持っているので、そこでシナジーが生まれてクラスの雰囲気がよくなっているとか。

 

いずれにしても、皆さん胸を張って学校に通っているようですよ。

 

——中学受験をする家庭によってきっかけも様々だと思いますが、いざ始めてみると模試の成績順にクラスが決まったり、偏差値という数字で自分の位置がはっきりと示される。頑張っても目標に届かないことは当然あるわけで、「自分は頑張ってもこのレベルなんだ」などと小学生のうちから知ることはいいことなのでしょうか。

 

おおたさん:

それは親御さん自身の価値観が問われているのだと考えてみてください。

 

「頑張ってもそこまでいけないんだ」っていうのは、「別にそこまでいかなくていいんだ」ってことに気づけばいいだけのことなんです。その子にはその子にしかないものを持っているはずで、それを生かしていけばいいわけですから。

 

それをどこかから持ってきた物差しで人と比べて、ないものねだりをしてしまっている。そういう価値観を手放していけばいいのです。

 

そうすると「それで生きていけるの?」「やっぱりいい学校を出て大企業に入らないと苦労するんじゃないの?」って思うかもしれませんが、それもその人の価値観。確かに苦労はするかもしれないけど、それってそうでない人のことを実はどこかで見下しているってことでもあるんですよね。

 

そういう意味では、子どもの中学受験って親の未熟さが炙り出される修行の場でもあると思うんです。親自身もいろいろ葛藤しながらそういう思い込みを手放していって、同時に子どもにも「世の中的な価値観に縛られちゃいけないよね」っていう生き方を伝えていくこと。これが中学受験の一番の醍醐味だと思います。

 

——生き方を伝えるって難しいことですが、親の重要な役割ですよね。親も一緒に成長していけるのが理想ですね。では、子どもにとっての中学受験をする1番のメリットは何だと思いますか?

 

おおたさん:

それは、12歳という人生の初期段階において「自分の人生は自分で選ぶ」という経験ができるということだと思います。

 

高校受験の場合は、進学率は97%くらいあって進学するのが大前提です。しかし中学受験は、やらなくてもいい受験です。それをあえてやっているんだ、自分がこれから6年間過ごす場所を得るために努力しているんだ、という意思を持って自分の生き方を選んでいくのです。

 

現在、首都圏には約300の私立中高一貫校があり、それぞれの学校に個性があります。その豊富な選択肢の中に、完璧とまではいかなくても必ず自分が生き生きと思春期を過ごすことができる学校が見つかるはずです。

 

12歳で将来のことを考え、自分の人生を選ぶ。その経験はその子の人生にとって大きな影響を与えるものになると思います。

 

 

PROFILE おおたとしまさ


教育ジャーナリスト。1973年、東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育媒体の企画・編集に関わる。教育分野を丹念に取材し斬新な切り口で考察する筆致に定評があり、執筆活動の傍ら、講演・メディア出演などにも幅広く活躍。中学・高校の英語の教員免許、小学校英語指導者資格をもち、私立小学校の英語の非常勤講師の経験もある。『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』など著書は60冊以上。http://toshimasaota.jp/index.html

 

取材・文/田川志乃