高校生から共働き夫婦をロールプレイングする

──今の子どもたちは、どのような授業を受けているのでしょうか。

 

石井さん:

家族や家庭生活の内容に関しては、現在の30・40代が受けていた授業よりも、より実践的なカリキュラムに変わってきています。

 

たとえば、ある高校では生徒が共働き家庭の夫や妻の役割をそれぞれに演じて、「もし子どもが発熱したと連絡が来たら、どちらが仕事を切り上げて迎えに行く?」という設定でロールプレイングをする授業もあります。

 

教科書に準拠したワークブックなどを見ても、家事・育児における男性の役割は以前より多く触れられています。

 

他にも家庭科の授業に限らず、中学生が保育園で本の読み聞かせをしたり、男子が妊婦エプロンを着けて妊娠中の大変さを味わってみたりなど、実践的な試みが小中高ともに増えていることは間違いないでしょう。

 

──家庭科で「家族」「自立」「子ども」について学んだ結果、男性の家事育児における役割意識が変わってきた、という変化も実際にあるのでしょうか?

 

石井さん:

学校教育において家庭科が男女必修になって以降の世代において、夫婦間の家事分担で夫の担当割合が上昇している、という結果は2010年代以降の研究で発表されてきています。

 

もちろん、家庭科の授業だけが要因であるとは言い切れませんが、授業がきっかけで料理や育児に当事者として向き合う意識が芽生えた男子もいるはず。性別役割にとらわれず、主体性を持って家事や育児に向き合う男性の数は年々増加しています。

 

生卵のお世話で5歳児は何を学ぶ?

──海外ではどのような「家庭科」の授業が行われているのでしょうか?

 

石井さん:

国によってさまざまですね。たとえば、アメリカでは家庭科に相当するプログラムの中で、5歳児が生卵に絵を描いて、それを週末に家に持ち帰ってどこに行くにも一緒に連れて「面倒を見る」というユニークな授業があります。

 

私たち一家がアメリカで暮らしていた頃に、うちの娘もやったのですが、5歳児が生卵を扱うわけですから、当然落として割れるんですよ(笑)。では何のためにこんなプログラムを行うかというと、弱者へのケアを学ぶためなんですね。

 

実物大の赤ちゃんそっくりのベビー人形を、家に持ち帰ってお世話をする体験型プログラムもありました。人形の体内にセンサーが内蔵されているので、ちゃんとケアしないと泣き止まないような仕組みになっているんです。子ども自身が親代わりになって、そのベビー人形をバギーに乗せてお散歩したり、2時間起きの夜泣きに対応しないといけない。

 

そんな風に、リアルライフの中でケアを実践するプログラムがアメリカの学校教育にはたくさん取り入れられていました。

 

ただ、他国を見ると「家庭科」が必修ではない国もありますから、現在の日本の家庭科教育はかなり充実している部類に入ると私は感じています。