「仕事中に保育園から子どもが発熱したと連絡が来た。夫と妻、どちらが仕事を切り上げて迎えに行く?」
ある高校の家庭科では、こんな設定で生徒たちがロールプレイングをする授業が行われているそうです。
「え、家庭科って、調理実習や裁縫とかするくらいじゃないっけ?」と驚く人も多いのでは。実は、今の大人たちが学んだ過去の「家庭科」と、2010年代以降の小中高生が学んでいる「家庭科」では、内容が大きく変化しているのです。
「家庭科」は昔と今でどう変わっているの?これから大人になるわが子には、どんな影響があるんだろう?
男性に家事・育児参加を促すアプローチについてお話いただいた先日公開の
「狭間で揺れ動く男性の家庭進出…変わらない社会と変わった意識」に続き、現代の「家庭科教育」について、お茶の水女子大学の石井クンツ昌子名誉教授に聞きました。
PROFILE 石井クンツ昌子さん
学校の「家庭科」は私たちの時代からどう変化した?
──中学校の「技術家庭」が男女必修の科目になったのは1993(平成5)年。日本の学校教育における「家庭科」は、どのような歴史をたどってきたのでしょうか。
石井さん:
1980年代以前は中学校では男子が「技術」、女子が「家庭」と性別によって分けられていましたが、81年から男子も「家庭」、女子も「技術」の一部をそれぞれ学ぶ相互乗り入れが始まり、93年からは男女必修科目となっています。(高校は94年から)
つまり、現在の40代前半より下の世代は、男女を問わず全員が学校で「家庭科」を学んでいるはずなのです。
──授業の中身も変わっているのでしょうか?
石井さん:
中学校の「家庭科」に着目すると、時代背景が反映されているのが見て取れます。ターニング・ポイントとなったのは平成10(1998)年あたり。それまでは「家庭生活」「食物」「被服」「住居」「保育」の5テーマで構成されていた「家庭科」が、平成10年からは「生活の自立と衣食住」「家族と家庭生活」に分類されました。
一見すると似通った内容に思えますが、大きな違いがあります。それは平成10年からは「家族」という単語が初めて登場していること。家庭とは家族が協力しあって維持していくものである、という視点がここで初めてもたらされたのです。
さらに、平成29(2017)年の学習指導要領では、「自立」という言葉のオンパレードに。自立とは経済的な自立ばかりを意味しません。自分で料理や洗濯ができるようになることも、生活における自立の形です。
進学校を目指す男子は、勉強以外の日常のことは母親がほとんどやっている、というケースも珍しくありません。でも、自分で料理や洗濯ができることは、成長の過程において、男女関係なく誰もが学んでおくべきことだと思いますね。
もうひとつ、注目したいのは「子ども」というキーワード。子どもの成長に関わり、促し、見守る。これも男女別々に技術家庭を学んでいた時代にはなかった、非常に重要な視点です。
もちろん、「被服」や「住居」のように変わらない要素もありますが、私が見る限りでは家族、自立、そして子どもの3テーマを男子も女子も同じように学校で教わる時代になった、ということは大きな変化だと思います。