2020年春、新型コロナウイルス感染症にともなう緊急事態宣言で、外出自粛や店舗休業の要請が続きました。

 

期間中には不要不急の用で集まる人々もたしかにいましたが、それを注意するだけではなく、広い公園で手洗いやマスクなどの対策をして遊んでいる親子をとがめる人や、感染対策をして営業しているお店に貼り紙で抗議する人などが現れ、行き過ぎた批判や指摘を繰り返すさまが「自粛警察」と呼ばれるようになりました。

 

しかし、実は「○○警察」と呼ばれるような行為は以前からたくさんあります。

 

今回取り上げる「育児警察」もそのひとつ。

 

育児警察とはどんな人のことなのか、その特徴と心理、もし育児警察の「取り締まり」にあってしまったらどうすればいい?…などを解説します。

 

「育児警察」とは?

ベビーカーで赤ちゃんと歩いていると、通りすがりの人がいきなり

 

「あら!こんな格好させたてら風邪引くわ、ママにちゃんと着せてもらいなさいね」

 

と話しかけられた。

 

支援センターなどで知り合ったママ友が、

 

「Aさんって、すごく小さいうちからファーストフード食べさせてるらしいよ、信じられないよね」

 

と言ってきた。

 

どうしても済ませなければいけない用事があるのでその間だけスマホでアニメや動画を見せていたら、

 

「お母さん、スマホに子守りをさせないで」

 

と言われた。

 

…そんな育児へのダメ出しを耳にしたことはありませんか?

 

おもに母親に対し「あるべき育児の姿」を設定して、それに合わないと注意・指導し始める人のことを、インターネットでは以前から「育児警察」と呼んでいるようです。

 

ほとんどの場合、ママなりに試行錯誤してその時その子にベストな方法を選んでいるはずなのに、そうとは思い至らないのか、自分の方が経験も知識も上だからと思い込んでいるのか…。

 

あくまでも「自分が正しく、相手が間違っている」という前提なので、失礼だとは考えず、むしろ「いいことをしている」というスタンスなのが特徴です。

 

過去には、着物姿の若い女性を町で呼び止め「そんな髪型ではダメ、帯の合わせは、半襟はこう…」と指摘したり叱ったりする年配の女性が「着物警察」と名付けられ、ますます着物離れが進むと問題になったこともあります。

 

街中・ネット・家庭に潜む「育児警察」の心理

こういった「育児警察」的行動は、町中にも、ネットにも、残念ながら家庭の中にも見られるのが現状。

 

それぞれの特徴と、なぜそんなことをするのか、理由や心理をみていきましょう。

 

経験者だけにやりづらい…年上の女性による「育児警察」

街中で突然呼び止められ、「赤ちゃんはもっとプクプクしてなきゃ!」などと話しかけてくるのは年上の女性が多いのではないでしょうか。

 

育児経験のない若者や男性がとつぜん対面でママに意見することは珍しく、たいていは年配の女性が自分の経験に基づいて「ダメ出し」するケースのようです。

 

Yさん(34歳)のお子さんは、赤ちゃん時代に乳児湿疹やアトピーで頬や口の周りがガサガサの状態が続いていたそうです。

 

「買い物の途中や、役場の待合室などで、年配の女性になんども”かわいそうねえ”と言われたり、”よくお顔を洗ってあげないと”と言われました。なんとかしてあげたい、という気持ちは分かるのですが、体質はそれぞれだし、時期が来ないと治らない症状もあります。そして、こんなに悩んでいるのに、子どもの顔を洗わないわけがないじゃないですか…!」

 

また現在妊娠7ヶ月のHさん(31歳)は、会社の女性の先輩に困っているそう。

 

「50代前半の方なのですが、ご自分は自然分娩で3人出産されていて。おなかを痛めて苦しんで産んでこそ愛情…という昔ながらの考えなんでしょうね。私の部署には先に出産した人が2人いて、以前に彼女たちが無痛分娩にすると知ったとき、昔はそんなものなかった!覚悟がない!など批判がすごくて…」

 

Hさんも和痛分娩を予定していますが、もしその先輩に知られたら面倒なことになると思い、今はランチの時間が憂鬱な日々だそう。

 

関連記事:無痛分娩・自然分娩・和痛分娩の違い、10の比較

 

上記は、自分の豊富な知識と経験を未熟な後輩に伝えたいという、ある意味善意から出ているものかもしれません。

 

しかし中には、普段誰かに認められることが少ないという欲求不満があり、自分が優位になれそうな話題で心を満たしたいという人もいるようです。

 

純粋な善意のアドバイスであれば、受け入れられなくてもそれ以上無理強いはしないはずですが、後者の場合は引き下がらず、「押しつけ」になってしまうのが違いだといえます。

 

匿名だからタチが悪い…「ネット育児警察」の心理

インターネット・SNSは、孤独になりがちな育児中のママたちが、同じ立場のママとつながれる貴重な場所でもあります。

 

しかし、ママの投稿が共感を得て拡散され多くの人の目に触れた結果、思いもよらぬ「育児警察」の攻撃をうけてしまうことがあります。

 

多いのは次の②つのパターン。

 

他人の育児方針を否定する

おもに、自分流の育児に強いこだわりを持つ人が、自分の流儀と合わない相手を否定するケースです。

 

  • 布おむつ/紙おむつ
  • 母乳/ミルク
  • 離乳食完全手作り/ベビーフード
  • 保育園/幼稚園
  • ワーママ/専業主婦
  • 任意予防接種の有無
  • ステロイドの使用

 

など「こちらが正解」といえないテーマに対して、持論と合わない人を「信じられない」「ありえない」と一方的に否定するのが特徴。

 

また、ママが息抜きや自分の趣味を楽しんでいる様子を発見すると「子どもを放っておいてなにしてるの?」といった批判をすることもあります。

 

愚痴や説教をする

あるママが、SNSで「2歳の息子のイヤイヤ期がつらすぎる」と愚痴を書き込んだところ、多くの共感のコメントに混じって、

 

「それをすべて受け止めるのが母親ですよね?」

 

「幼い時期は一瞬。かけがえのない時間なのに怒って過ごすなんてもったいないですよ」

 

など、思わず「わかってる!!!」と叫びたくなるようなコメントをする「育児警察」も。

 

匿名性のあるネット上では面と向かっては言えないような強いコトバが使われやすく、

 

「母親失格ですね!」 「子どもを産まなければよかったのに」

 

といった、確実にママを傷つけるような発言に大きなダメージを受ける人もいます。

 

支え合うはずの家族が「育児警察」になる悲しさ

通りすがりの人やネットでの批判にも傷つきますが、最も苦しいのは、祖父母世代や姉妹・夫など、身近な家族から子育てについて考えを認めてもらえなかったり、間違っていると決めつけられたりすることかもしれません。

 

Sさん(33歳・2歳児のママ)は、共働きに反対の義母から次のように言われたそうです。

 

「赤ちゃん時代は娘を見るたびに、こんな小さいのに朝から晩まで保育園なんてかわいそうねえ~と話しかけてきました。娘の成長とともに、夫が言葉は分かってるからやめてくれと止めましたが…私自身も保育園だったけど、親にはたっぷり愛情をかけてもらったし、なにも恨んだりしていません」

 

社会や働き方、家族のありかたは、ここ数十年で急激に変わっています。

 

しかし、祖父母世代が子育てをした当時のモデルに無理に当てはめようとすると、目の前の子どもたちや孫たちに一番合った子育てはなんなのか、見えなくなってしまうのかもしれません。

 

Wさん(37歳・当時3歳児と2歳児のママ)はこんな体験を話してくれました。

 

「年子育児でワンオペ。実家は父の体調が優れず頼ることができません。転勤で仲良くなったママ友も遠く離れてしまい、助けてくれるのは夫だけという状況でした」

 

あるときWさんは、精神的に限界だと感じ、2~3時間だけ1人の時間がほしいから、子どもと留守番していてほしいと夫に頼んだそうです。

 

「夫はなんで?と嫌な顔。それでも強く頼んで出かけようとしたら、夫は子どもたちに、ママはもうおまえたちがキライになったから捨てるんだってさ~、と言いました。冗談のつもりかもしれないけど…」

 

これは、単にWさんの夫に思いやりがないという話に聞こえます。

 

しかし、実は日本の社会全体に、ママは24時間子どもと一緒にいて、すべて子どもに合わせるのが当たり前…という思い込みが深く浸透しているのではないでしょうか。

 

子どもは男女の間に生まれるものなのに、なぜか子どもに好ましくないことが起これば母親の責任にされやすいですよね。

 

そして、父親はもちろん、母親自身も幼い頃から空気のようにそれを肌身に感じて生きてきた結果無意識にそう刷り込まれていることも多く、夫や祖父母から「母親なのに…」と言われると、自分に非があるように感じて反論できません。

 

これが、身内でもママに対する「育児警察」的言動が起きやすい一因ではなないかと思われます。

 

育児警察に出会ってしまったら…どう対処する?

では、街中やネット上・身内から「育児警察」的なコトバをかけられてしまったらどうすれば良いのでしょうか?

 

ダメージを受けない、落ち込んでしまわないための対策を3つ紹介します。

 

1)王道の対処法はやはり「聞き流す」。でも…

経験者が教えてくれる育児の知恵には、とうぜん耳を傾けるべき内容もあるでしょう。

 

しかし、アドバイスという名のもとに、自分がいい気分になりたい、自分が抑圧されている(いた)から他人も同じ目に遭わせないと気が済まない…そういう人のために悩む必要はありません。

 

タレントのりゅうちぇるさんは、見た目で子育てがちゃんとできないと判断されるのか、的外れな育児アドバイスを受けることも多いそうですが、

 

「そーなんだー。それもいいね~♪」

 

とニコニコして返し、あとは聞き流してしまうそうです。

 

とはいえ、おそらく地上どこを探しても「完璧な子育て」ができている人はいないはず。

 

ということは「あなたの子育てには落ち度がありますよ」と忠告されれば、誰だって気になってしまうでしょう。

 

その場で聞き流すことはできても、ずっと気にしないというのは難しいもの。

 

なので、「そもそも気になって当たり前、くよくよして当たり前」…くらいに思っておきましょう。

 

2)子育てがダメだからではなく「絡みやすいから」と知っておく

街中や電車で子連れのママに強く当たる人に対し、

 

「金髪・黒ネイルなど、見た目を怖そうに変えるとピタッとやむよ」

 

という体験談もよく聞きます。

 

そうなれば面白いですが、仕事上や自分の趣味などもあり、誰もが金髪にできるわけではありませんよね。

 

上記は痴漢や通りすがりにぶつかってくる人にも当てはまるそうですが、これは要するに、

 

「相手はあなたの子育てに関心があるのではなく、攻撃しやすそうな相手なら誰でもいい」

 

ということ。

 

赤ちゃんや子どもを連れたママはたいてい、子どもを守るという立場上、腰を低くして争いを避けたいと思っているはず。

 

それを察知して絡んでくる人なんだ、口実は何でもいいんだ…と知っておけば、必要以上に言われた内容を気に病まなくてすみますね。

 

3)誰にでもできる、とても大事な対処法は

そして、私たちが誰でもできて、もしかすると一番だいじなこととは、

 

「自分は同じことをしない」

 

これが一番なのかもしれません。

 

理想では毎日手作りの料理を食べさせたいけど、つわりや持病、料理が苦手で作れないのかもしれません。

 

自分が母乳育児のよさを実感していても、どうしても出ない人もいるはず。

 

自分の方針と違うな…と思っても、一度、その人の思いを想像してみることで、自分が育児警察になってしまうのを避けられるでしょう。

 

育児中の相手には「かわいいですね、毎日育児お疲れさまです、力になれることがあったら言ってね」という気持ちで、育児については聞かれた時だけ親切に答える…これなら、誰にでも今すぐできるのではないでしょうか。

 

次の世代に悪習を引き継がないためにも心がけていきたいですね。

 

文/高谷みえこ