アナログ時代から映像授業の蓄積、その背景にある中学受験事情
──そもそもなぜ、授業の動画を撮影してあったのですか。
後藤さん:
2000年代前半、私たち啓明舎(当時)の教師陣は、日々授業をしながら、生徒の学習効果を上げるために何が必要かと考えていました。背景には、厳しさを増していた中学受験事情があります。きっかけは、2002年から導入された「ゆとり教育」です。
それ以前は、大半の私立中学も、小学校の学習指導要領を意識した問題を出していました。ところが2002年「ゆとり教育」が導入されると、教科書がペラペラに、授業のレベルも簡単なものになってしまいました。そのレベルでは入試問題は作れません。
結果、各中学は学習指導要領に縛られることなく、「こういうことを勉強した子に来てほしい」という思いが強く出た、独自の問題を出題するようになったのです。ただ、単なる難問奇問ではありません。難しいけれども、解く子供たちも、教える教師たちもわくわくする、そんなおもしろい問題が増えました。
──中学入試問題を見ると、大人でもとまどうようなものがたくさんありますね。
後藤さん:
学校での内容が簡単になって基礎学力が下がる一方で、中学入試は難しくなっているわけですから、子どもたちの負担が増していることは確かです。とくに、中学受験をする小学生にとって、「時間がたりない」という問題は深刻です。高校受験生とか大学受験生と比べても、圧倒的に時間がたりない。
例えば中学や高校では、学校の授業の内容と受験の内容が繋がっていますよね。学校も受験対策に協力的です。ところが小学校の授業内容は中学受験のレベルとかけ離れているし、休み時間に塾の宿題をやろうとすると怒られたりします。
中学受験勉強は家か塾でやるしかないのです。でも、小学生はまだ幼いから睡眠時間もしっかり確保しないといけないし、ご飯を食べるのも遅い。幼いきょうだいも邪魔をしてくる。かといって塾に長時間拘束するわけにもいきません。
つまり塾の授業や教材をできるだけ工夫すると同時に、家での勉強をどう効率良くするかが大事になってくるのです。
そこで、私たちは、欠席時の補習用や苦手単元の復習に、映像授業を利用できないかと考え、2004年から3年かけて、全カリキュラムの授業を撮影しました。といっても、撮影や編集はさなるの精鋭チームにお任せ。私たちはコンテンツの提供を担当しました。
その頃はまだアナログ時代で、VHSビデオでの録画です。アナログだと編集も難しいので、数十分かけて授業を撮っていたら、最後のほうに消防車のサイレン音が入ってしまって、また撮り直し……なんてこともよくありました(笑)。