共働き時代に見合った自分らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
今回は「企業内保育」の先駆けとして、働く女性を応援するヤクルトの取り組みを取材しました。
企業内保育を始めた理由や、ヤクルト保育所の特徴を宅配営業部の牛山裕梨さんに、そして「子どもとの時間を減らさずに働く」ことを可能にするヤクルトレディという働き方を、現場で働く3人のスタッフさんに伺いました。
現場の働き方とニーズに合わせた素早い対応で、約40年前から企業内保育を導入
──最近では増えつつある企業内保育所ですが、ヤクルトでは、1970年代から始めたそうですね。当時、全国的にも希少な取り組みだったかと思いますが、なぜ職場に隣接させた保育所運営を始めたのでしょうか?
牛山さん(ヤクルト):
ヤクルト製品を家庭にお届けする「ヤクルトレディ」は、1963年にスタートしました。当時、お届けの時間は早朝が中心でしたが、日中のお届けに移行することになり、子どもを見ておく環境が必要になりました。
初めは、ヤクルトレディたちが交代で子どもたちを見ていましたが、ニーズが高まるにつれて「子どもを預かる環境を整えよう」ということになり、各地区において企業内保育が始まりました。
現在のヤクルトの企業内保育所数は約1,100カ所。ヤクルトレディの利用率は4人に1人の割合です。
──職場のすぐ近くに子どもを預けられるという距離感は、送り迎えの便利さだけでなく、ヤクルトレディさんたちの安心感にもつながっているようですね。
牛山さん(ヤクルト):
そうですね。送り迎えもそうですが、子どもが体調を崩した時にすぐに駆けつけられる距離にいるというのは、親としては心強いですよね。
ヤクルト保育所は小規模のものから認可保育園の認定を受けている施設もあり、規模感はさまざまですが、ヤクルト本社に保育チームを設置し、全国の統括管理をしています。
国の基準に食品会社として守るべき事項を追加したヤクルト独自の基準を作成し、その基準を遵守するため、毎年全保育所から本社へ保育所の改善項目を報告する仕組みを導入しています。
──月の保育料金の全国平均が6,000円という価格設定も、共稼ぎ家庭には嬉しいですね。
牛山さん(ヤクルト):
保育料は販売会社によって多少の変動はありますが、民間の保育所と比べて安価な設定にしているのは、子育て支援の観点から少しでも家計の負担を減らし、働きやすい環境を提供したいという思いからです。
※今回取材した東京ヤクルト販売株式会社の保育料金は8,000円〜となっています。
今後も選ばれる保育所であり続けるため、お子さまを安心して預けていただくため、より一層の保育のレベルアップに取り組んでいきます。現在は、ヤクルト本社の保育チーム担当者が、全国の販売会社の保育士向けに研修会を実施しながら、高い保育レベルを維持し続けることに力を注いでいます。
ヤクルトレディなら「仕事」も「子どもの預け先」も同時に保証される
──東京都東大和市にある「東京ヤクルト販売株式会社東大和センター」で働く3人のヤクルトレディさんにお伺いします。ヤクルト保育所にお子さんを預けながら、ヤクルト製品のお届けを行うヤクルトレディの仕事を選んだきっかけを教えてください。
池田文さん(ヤクルト):
4歳の息子と2歳の娘がいて、息子は幼稚園、娘をヤクルト保育所に預けています。ヤクルトレディとして働き始めて間もなく1年。これまでずっと専業主婦だったのですが、「そろそろ外に出て働きたい」と思い、保育園探しをしたのですが、どの施設も「空き待ち」の状態でした。「仕事をしていないと入園は難しい」と言われ、「働くために預け先を探しているのに…」とモヤモヤ。
そんな時、市役所の職員さんから「ヤクルト保育所はどうですか」と勧められたんです。「ヤクルトなら企業内保育所に預けながら働ける」と興味を持ったのが働くきっかけでした。
島田あかりさん(ヤクルト):
私も以前は専業主婦。子どもはとっても可愛いですが、ずっと一対一でいるとしんどい時もあるんです。私は「いずれ働くならヤクルト」と決めて、引越し先を探したほど(笑)。保育所もあるし、自分の働きたい分だけ働けるという勤務スタイルに魅力を感じました。
奥田幸恵さん(ヤクルト):
今、中2の娘と小6の息子がいます。娘が小学校に上がったタイミングで、「時間ができるし仕事をしようかな」と思って働き始めました。当時下の子は幼稚園の年長。子どもが帰ってくる時間には私も家にいたいと思っていたので、柔軟な働き方ができるヤクルトレディはとても理想的な仕事でした。
「働きたい。でも子どもとの時間を減らしたくない」その思いを叶えたヤクルトレディとしての働き方
──ヤクルトレディさんの仕事時間は固定ではないのでしょうか?
奥田さん(ヤクルト):
基本的に月曜から金曜の平日にお届けしています。朝はだいたいみんな同じですが、終業時間は人それぞれ。早ければ14時には帰宅する人もいますよ。
島田さん(ヤクルト):
8時半頃にセンターに来て、準備ができたら各々お届けに出かけます。午前中は担当エリアを回りながら注文のあった商品をお届け。お昼頃にセンターに戻って、翌日の仕分けや準備をしたらその日の仕事は終わりです。
もちろん担当エリアのお届け軒数が多い人や、お客さまからの要望があった場合は、午後にお届けに行く人もいます。
池田さん(ヤクルト):
「何時から何時までいなければいけない」という時間の縛りがないのが魅力ですよね。小学校の授業参観など平日に子どもの行事が入る時は、お届けを前日までに済ませて午後は早めに帰るということも可能です。
「収入を減らさずに子どものために時間を使える」というのは、ヤクルトレディの特権かもしれません。働く時間も大切、子どもとの時間も大切。この二本軸が叶う仕事です。
──お客さんとのお届け日時の調整も、各ヤクルトレディに任されているんですね。
池田さん(ヤクルト):
そうなんです。当初、ヤクルトレディの仕事は、「指示のあった場所にお届けするだけ」の単調な仕事なのかなと思っていたのですが、やってみると日程の調整から仕分け、新商品の紹介まで、担当地区のことをトータルに任されています。お客さんとのコミュニケーションも楽しいし、やる気にもつながります。
社会人経験が少なくても、ブランクがあっても安心のサポート体制と充実の研修制度
──ヤクルトレディさんは、業務委託の雇用形態で、給与制度は歩合制だと伺いました。その働き方は「自分らしく働く」にどのように反映されているのでしょうか。
奥田さん(ヤクルト):
歩合制という働き方の良いところは、「頑張った分稼げる」ということ。つまり「自分が稼ぎたい仕事量で働ける」ということなんです。
ヤクルトレディとして働く前に、「どのくらいのペースで働きたいか」という面談をマネージャーと行います。それに合わせて担当地区と担当軒数が決まります。仕事に対するモチベーションに見合った仕事を任されるので、「働きすぎ」とか「物足りない」というボリュームの過不足は感じにくいと思います。
仕事に慣れてきて余裕が出てきたり、「もっと頑張れる」という人には、社員のサポートを受けながら、新規のお客さまに商品を紹介して、お届け軒数を増やすこともあります。「自分次第」が魅力ですね。
池田さん(ヤクルト):
雇用形態は業務委託ですが、「私って社員だっけ?」と錯覚するほどの信頼を感じます。
研修制度もすごく充実していて、センターに配属される前に約2週間、しっかり机上研修を受けます。お客さまへのトークの練習もするので、必ずしも「お話し上手」である必要はありません。研修後は、先輩に同行しながら仕事の流れを覚えます。これまで働いてきた経験がなくても安心して働ける職場だと思います。
島田さん(ヤクルト):
私は始めて一年経たずに、第二子を妊娠してお休みに入ったので、復帰の際は、再度研修を受けさせてもらいました。勘を取り戻すのに役立ちましたし、よりパワーアップして帰ってきた気がします(笑)。
ヤクルトレディは子育て中の人が多いので、出産後も戻りやすいアットホームな雰囲気です。子育ての話も共通することが多く、仕事が終わっても、ついつい居残ってしまうような環境ですね。
──ヤクルト保育所にお子さんを預けながら働く毎日は、以前と比べてどのような変化がありましたか?
池田さん(ヤクルト):
働き始める前は「働きたいけど、子どもと離れるのは寂しい」という葛藤もありましたが、ヤクルト保育所は距離が近く、朝も出勤直前まで一緒にいられるしお迎えもすぐにいけます。お届け中に子どもたちのお散歩に行き合うこともあり、「そばにいるな」という安心感を持って働けています。
奥田さん(ヤクルト):
「仕事を始めたとたん生活が一変して子どもとの時間が減った」ということがヤクルトレディではないんですよね。子育てにかける時間は全く変わらず仕事を始められました。働く前と同じ生活を続けながらも収入を得られるようになったと思います。
島田さん(ヤクルト):
「お母さん」以外の時間を持つことで、日常にメリハリがつくようになりました。お客さまや同僚と話すことでリフレッシュにもなり元気をもらいます。母としても、働く女性としても満足感を得ることができる仕事ですね。
──子どもがヤクルト保育所を卒園して、就学してからもここで働き続ける人も多く、東大和センターでは35年以上ヤクルトレディとして働き続けている人もいるそうです。その理由は「充実した保育体制」はもちろん、「自分らしく、柔軟に働ける環境」があるからなのでしょう。ヤクルトレディさんたちの明るい笑い声が絶えない職場が、その居心地の良さを物語っていました。
取材・文/佐藤有香 撮影/土田凌