共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。今回は育休中のクラウドソーシングを行っている三井住友海上火災保険株式会社(以下、三井住友海上)を取材しました。

 

 

三井住友海上では、育児休業期間中であっても、希望すれば在宅で臨時就業できる制度や、自主学習できる環境があります。しかし、本来育休とは、子どもを育てるために休業すること。

 

その育休中にあえて仕事や勉強をするということには、どんな意味があるのでしょう? 仕事の進め方や育児休業給付との兼ね合いはどうなっているのでしょうか?

 

同社でワーキングママの支援に関わる人事担当者3人に話を伺いました。

状況に応じた支援プログラムを提供

──三井住友海上では、ワーキングマザーを妊娠中、育休期間、復帰後など、段階ごとに分けてサポートしているんですよね。「子育て中の社員」と一括りにしたサポート制度を設けている企業も多いなか、社員それぞれの状況に合った支援をしているのは特徴的だと感じました。会社として具体的にどういったサポートをされているのか、詳しく教えてください。

 

黒塚さん(三井住友海上):

まず、三井住友海上では産育休を取得する女性社員を対象に「ワーキングママ支援プログラム」というプログラムを提供しています。

 

例えば妊娠中と復職後では、ママ社員が会社で利用する制度は異なってきますよね?

 

黒塚 幸子(くろづか さちこ)さん/人事部能力開発チーム兼ダイバーシティ&インクルージョン推進チーム課長代理。2015年三井住友海上に入社し、人事部能力開発チームに配属。女性管理職育成、マネジメント研修、若手社員向け研修を担う。

 

弊社では産休・育休を取得する女性社員を、「産休取得前の妊娠段階」、「産育休取得中」、そして「復職後」と主に3つの時期に分けて考え、それぞれの期間に利用できる制度を設け、利用できる内容を案内しています。

 

──

ワーキングマザーの状況に応じてプログラム内容が分かれているのは、珍しいですね。利用する女性視点から見ると、とても分かりやすいです。

 

黒塚さん(三井住友海上):

制度を整理することで、対象の女性社員が利用しやすいことはもちろんですが、上司やサポートするメンバーも状況を理解しやすいというメリットもあります。

 

例えば妊娠中と復職後に行う上司との面談では、女性社員は一体何を話せばいいのか、自分の状況をどこまで共有すればいいのかと悩むことが多いです。そうならないように、「産育休取得社員用 面談シート」というフォーマットを会社で用意しています。

 

 

──

特に初めて妊娠した女性や子どものいない上司だと、お互いに遠慮してしまって、せっかく面談の機会があっても何を確認すればいいのか迷ってしまうかも…。具体的なフォーマットがあれば、話がスムーズにできそうです。

 

黒塚さん(三井住友海上):

まさにその通りで、上司からも「何を聞いていいのか分からない」という声があったので、会社でお互いに伝えると良い内容の目安となるフォーマットを作成しました。

 

産休前面談では、保活(保育園)計画や家族等の協力体制、復帰後の勤務形態、職場との月1コミュニケーションの手段、産育休中の学習の予定などを事前に聞く場としています。

 

上司も体調の情報に関しては聞きづらい部分もあるので、面談シートが必要な情報を漏れなく伝えやすくなるようにしています。

 

復帰後面談では、勤務形態・内容を確認する他、繁忙時に所定外労働が可能か、育休中に取得した学習や資格の共有、保育園の送迎体制では時間外保育の有無や延長可能時間まで細かくヒアリングします。

 

また現状では保活(※)の状況によって会社への復帰タイミングや働き方も変わってくるので、産休前面談に聞いていた内容から変更がないかを確認するようにしています。

 

※保活……子どもが入園する保育園を決定するまでの一連の活動の総称。保育園によって方針や預かり時間が異なるため、入園した保育園によって両親の働ける時間には差が出てくる。現状では年度途中に入園できる保育園が少ないため、4月入園を待つ人が多い。

育休中の在宅勤務で孤独感を軽減

──

育休中に在宅勤務ができる制度があるとも聞きました。お話だけ聞くと、ただでさえ育児で大変な時期のママ社員に負担が大きいような気もするのですが…?

 

金子さん(三井住友海上):

2018年4月から開始した「MSクラウドソーシング」ですね。金融業界でこうした制度を設けたのは、おそらく当社が初だと思います。

 

金子 智恵(かねこ ともえ)さん/人事部企画チーム兼ダイバーシティ&インクルージョン推進チーム課長代理。2006年三井住友海上に入社後、商品開発部門で傷害保険の商品開発に携わり、2017年人事部に着任。現在は主に、労務管理、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン推進業務を担う。

MSクラウドソーシングは、産後6カ月を経過していて在宅勤務を希望する育休中の社員を対象とした制度です。原則的に所属している職場の業務を行います。

 

例えば、私たちの業界だとお客さまに配布するための資料作成が多いので、保険商品のチラシや提案書を作成してもらっています。他にはデータ整理や集計、電子キャビネットの整理や業務オペレーションマニュアルの作成など、職場の生産性を向上させるための業務改善施策を考えてもらうことが多いです。

 

──なるほど、自宅でPCを使ってできる単発の作業、というイメージですね?

 

金子さん(三井住友海上):

その通りです。元々働いていた職場の仕事なので、利用者としても気構えずに取り組めるようです。また、業務改善施策は普段やりたくてもやれていない部分なので、職場メンバーもとても助かっていると聞いています。

 

とは言えあくまでも育休中なので、タイトなスケジュールの仕事をお願いすることはありません。余裕をもって締切日を設定できる業務を担当してもらいます。

 

窪園さん(三井住友海上):

特に、保育園に入れず思いがけず育児休業期間が延びたなど、育休が長い社員が多く利用している印象です。

 

長く仕事から離れていると業務用ソフトの使い方を忘れてしまったり、メールを打つのもぎこちなくなってしまったりと、復帰後に仕事に慣れるまで時間がかかることもありますが、利用者からも「仕事のカンが鈍らない」と好評ですね。

 

窪園 彩(くぼぞの あや)さん/人事部給与厚生チーム兼ダイバーシティ&インクルージョン推進チーム主任。2016年に入社後、人事部給与厚生チームに所属。給与計算、福利厚生、ダイバーシティ&インクルージョン推進業務を担う。

 

──たしかに、育休中はまだ言葉が話せない赤ちゃんのお世話が生活の中心となるので、仕事のことを考える機会がなくなってしまいますよね…。

 

窪園さん(三井住友海上):

そうなんです。人によっては、社会との関わりが減ったことで、孤独を感じてしまうこともありますよね。

 

MSクラウドソーシングを通して社会と接点が持てることで、生活のバランスが取れたという声も聞きます。

 

──

子ども以外の大人とコミュニケーションが取れることで、産後鬱の防止にも役立っていそうですね。ちなみに、仕事はどのように進めていくのでしょうか? 育休中の社員と会社で働く社員とでは、稼働時間帯も違うことが多いですよね?

 

金子さん(三井住友海上):

育休中の社員が仕事を受注したら、意識のズレが発生しないように、依頼者である職場メンバーと進捗状況や詳細、納期などを直接やり取りしながら進めていきます。

 

もし業務中に子どもの体調不良などトラブルが起きた際にも、職場に相談してその都度対応する形となっています。受注した仕事のキャンセルによるペナルティはありません。

 

会社側は育休中の社員に対して連絡を取ることを遠慮してしまう面があるのですが、上司や職場メンバーも仕事の連絡を通じて子どもを持つ社員の生活リズムを感じ取れますし、復帰前にコミュニケーションを取ることができます。

 

育休中の社員は子どもがいながら仕事するタイムスケジュールに慣れることができるため、職場復帰した際のタイムスケジュールのシミュレーションにもなっているようです。

 

距離的には離れていますが、痒いところに手が届くような仕事で「こういう働き方もできるんだ」と、双方にとってメリットがあるようです。

普段は時間が取りにくい能力開発も

──

MSクラウドソーシングで請け負う在宅勤務の他にも、育休中にママ社員ができることはあるのでしょうか?

 

金子さん(三井住友海上):

情報収集という意味では、シンクライアントPCで社内ポータルサイトを見て最新の会社動向を知ることができます。

 

システム変更や社内の人事異動など、職場に連絡してまでわざわざ聞くのは気が引ける情報も把握できるため、休んでいても時の流れを感じないようになっています。

黒塚さん(三井住友海上):

その他には、社外のeラーニングや電子書籍が読める電子図書館も社員なら無償で利用可能です。

 

ビジネススキルやコミュニケーション、wordやexcelなどのPCスキルまで幅広く学習できる環境を用意しています。期間は復帰翌年度末まで対象なので、子育ての合間に普段ならなかなか勉強できない分野のスキルを伸ばせると好評です。

 

窪園さん(三井住友海上):

私もeラーニングは活用していました!

 

普段の業務には直接関係のない事柄も自由に学べるので、能力開発にとても役立ちました。

 

… 初めての出産だと、これからの自分の生活がどう変わっていくかはイメージしにくいもの。それはママ社員を部下に持つ上司も同じこと。お互いが歩み寄れるように、制度面でもさまざまな工夫がされていることが分かりました。

 

取材・文/秋元沙織 撮影/中野亜沙美 取材協力/三井住友海上火災保険株式会社