2019年1月、滝川クリステルさんが男の子を出産。
父親の小泉進次郎環境相は、インタビューに対し「立ち会えてよかった。立ち会いって大事ですね」と第一子誕生の喜びを語りました。
夫が出産に立ち会う夫婦は近年ますます増えています。
立ち会い出産をきっかけに夫に父親としての実感がわき、育児に積極的に関わるようになったり、命がけで出産してくれた妻への感謝と敬意から夫婦の絆が強まったり…といったメリットの反面、「妻を女性として見られなくなってしまった」「頼りない夫に幻滅した」などのマイナス面も存在します。
今回は、立ち会い出産をした人・しなかった人それぞれに理由を聞かせてもらい、これから立ち会い出産予定の人やどうしようかと迷っている人へお届けします。
近年の立ち会い出産、日本での割合は約6割
いま、世の中ではどのくらいの夫婦が立ち会い出産を選択しているのでしょうか?
2013年と少し前のデータですが、全国の産院で約4000人に立ち会い出産の有無をたずねた調査では、出産時に夫の立ち会いがあった夫婦は約53%。
希望しても家族は入室できない場合も多い帝王切開をのぞくと59%で、およそ6割の夫婦が立ち会い出産だったことがわかります。
ちなみにアメリカ在住の筆者の友人に確認したところでは、夫は出産時に立ち合うのはもちろんのこと、陣痛中のケアや出産時に妻の足を支えるなど何らかの役割を受け持つのが普通で、立ち会わないほうが例外的とのことでした。
立ち会いした夫たち「予想以上に〇〇だった…」
しかし、実際に立ち会い出産を体験した男性に話を聞いてみると、予想外にハードな体験だったという人も少なくありません。
「痛みに弱く、妻が痛がっているのが自分のことのように辛くなってしまい、しまいには自分が呼吸困難になって情けなかったです」(Eさん・35歳)
「昔から血が苦手なので、妻には申し訳ないけど胎盤や出血を見るのが本当に怖かったです」(Oさん・30歳)
それこそが命がけで出産するという行為なのですが、現代では生き物の生死に関わることやデジタルな人間関係が増えたためか、残念ながら「グロテスク」と感じてしまう男性もいるようです。
それを「妻は否が応でも立ち向かうのに、夫だけ逃げ出すなんて身勝手」「情けない」と感じるのももっともですが、愛情度や信頼度の問題ではなく、生理的にどうしても無理な男性もいるはず。
万が一体調が悪くなって吐いたり倒れたりすれば、妻だけでなくお産に関わるスタッフにも迷惑がかかるため、無理強いするのはあきらめた方がいいかもしれません。
ただ、立ち会いといっても、赤ちゃんが出てくる側には医師や助産師がいるため、パパは分娩台の頭の方に立つパターンが大半です。
「自分は妻の汗をふいたり手をにぎったりする役目をしました。出血や処置を直視するわけではないですよ」と経験者のTさん(33歳)は話します。
「付き添いも立ち会いも、妻は苦しんでいるのに何の役にも立たない自分がいやになった」と話す男性も。
100%そうだというわけではありませんが、男性には「相手が苦しんでいれば、それを解決するのがベスト」という価値観の人が多いと言われます。
いっぽう女性は「相手に苦しみに共感し、励ますことがベスト」という価値観の人が多いそう。
そして「産みの苦しみ」は、医師や看護師の補助はあるものの、妻自身が乗り越えなければならず、夫はケアや励ますことしかできません。
自分に主導権や問題解決能力がない状況で、時には何十時間も大切な妻が苦しむ状況に寄り添い続けなければならないことに大きなストレスを感じる男性は多いでしょう。
しかし上記の例は一部であり、立ち会い出産をかけがえのない体験と捉え、感動したという男性はたくさんいます。
パパたちに聞かせてもらった立ち会い出産の印象を、以下に一部紹介します。
「女性はこんな苦しい思いをして子どもを産んでくれるのか。偉大だと感動しました」
「命ってまさに奇跡ですね」
「大切な子どもを産んでくれた妻に心から感謝します」
「一生の思い出、人生で一番感動した日でした」
妻側からは「いない方がマシ」の声も?
妻の方からも「苦しい時も1人ではないと一緒にいてくれた夫に愛情が深まりました」という声がたくさん。
しかし中には、立ち会い出産を少し後悔しているという人も。
「私が苦しい時に隣でテレビを見ながらお菓子を食べたり、看護師さんとおしゃべりしたり…そりゃあなたはヒマかもしれないけど!あまりにものんきな態度にだんだん腹が立ってきました」
「テニスボールでマッサージをしてくれたのですが、看護師さんは上手なのに夫はあまりにも的外れで…さすってくれてもそこじゃないって感じで、悪いけど1人でよかったです」
と夫も少し気の毒ですが、それだけ妻は極限状態だったということかもしれません。
また、次のような理由から、事前に「立ち会い出産しないでほしい」と夫に頼んだ妻もいました。
「すごい形相や壮絶な場面を見せる必要があるのかなと思って、分娩室の前まで来てもらうのにとどめました。出産の瞬間を見せなくても、生まれた子を抱いた夫はちゃんと育児に協力的ですよ」(Yさん・32歳)
「先に出産した友人から、出産時ウンチが出てしまうこともあるって聞いて…お医者さんや助産師さんはプロだから仕方ないのですが、夫の目が気になっていきめなかったりしたら、自分も赤ちゃんも苦しむと思ったんです。夫もそこまで望んではいなかったので、外で待機してもらいました。でも実際はそんなの気にしているどころじゃなかった(笑)ので、いま思えば、夫が希望するなら立ち会ってもらってもよかったです」(Fさん・30歳)
「夫が側にいてくれないと不安な人もいると思いますが、私は1人の方が気を使わなくて済み、お産そのものに集中できました。痛みや苦しさで理性がなくなり夫に暴言を吐いたりするのもイヤだと思い」(Sさん・35歳)
ただ、お産の当事者はもちろん妻そして赤ちゃんですが、夫だって決して部外者というわけではありません。
立ち会い可能な状況で、夫も希望しているのに、上記のような理由で分娩室に入らないでほしいという場合はある程度のフォローが必要ですね。
「夫だってわが子の生まれる瞬間に立ち会いたいだろうと思いましたが、やはり私が抵抗あったので、そのかわりに分娩の様子はあとでたくさん話してあげました」(Mさん・29歳)
これから立ち会い出産を考える人へ
3回の立ち会い出産と、妹夫婦の出産時にも付き添った体験のあるMさん(39歳)は、自らの経験を振りかえってこう話します。
「これだけは、本当に”人による”としか言えないですよね」
立ち会い出産をすべきか否かは、夫婦双方の体質や気質・性格によっても異なります。
夫側は
- 血や痛みへの耐性
- 苦しむ妻に寄り添える性格かどうか
妻側は
- 痛みの感じ方
- 頼る人がいた方が安心か、1人の方が落ち着くのか
また、無痛分娩(和痛分娩)/自然分娩/帝王切開など、お産の方式でも可能かどうかが異なってきます。
なお、「産後、女性として見られなくなってしまった」という体験談を知人から聞いたり、インターネットなどで見かけた人がいるかもしれません。
これらは、本当は気が進まないのに妻の強い希望で言い出せないまま立ち会った場合や、本人や産院からの情報提供不足で予想外にハードなお産にショックを受けトラウマになってしまった場合が多いと考えられています。
また反対に「命の誕生が崇高すぎて、妻の体が性的な対象と思えなくなってしまった」という人も。
しかし、妻の出産に立ち会ったYさん(34歳)は、 「たしかに、一時的にはそんな状態になったのですが、半年もすれば回復しました」 といいます。
まず確認すべきはお互いの意向と、それを相手に合わせてどこまでゆずれるかをよく話し合うことが必要。
現在は「バースプラン」として
- 分娩方法や姿勢
- 剃毛・浣腸・会陰切開などの処置
- 分娩時の姿勢
- カンガルーケア
など、ママが納得のいくお産のスタイルを事前に打ち合わせできる産院も増えています。
その中に「立ち会い出産の有無」も含まれていることがほとんど。
「自然分娩のみOK」「一切禁止」などルールもさまざまなので、里帰り出産も含め、早い段階で確認しておき、夫婦で意思決定ができるといいですね。
そして立ち会い出産をすると決まれば、ぜひ説明会や「母親(両親)学級」に一緒に参加しましょう。
- 出血など出産時に予想される状況
- 産婦さんがいつも通りでなくなるのは珍しくない
- 夫にできるケアには何があるのか
- お産の妨げになるような撮影など禁止事項
といった内容を分かりやすく説明してもらえます。
おわりに
お産は一生に何度もない本当に貴重な体験です。
立ち会い出産のメリットデメリットを理解したうえで、妻と夫それぞれの意向や希望を尊重し、向き不向きも考慮して、夫婦ともに納得できる決断をしたいですね。
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文/高谷みえこ