時々ニュースで耳にする「SDGs(エス・ディー・ジーズ)=持続可能な開発目標」。 国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際目標で、「貧困をなくそう」「働きがいも経済成長も」など、17のゴールが設定されています。もちろんひとつひとつは大事なことですが、なんとなくとっつきにくい雰囲気もありますよね。
そんな中、横浜市戸塚区で子育て支援を行っている認定NPO法人「こまちぷらす」では、SDGsの目標を活動の指針に取り入れています。 小さなことでも、「子育て×SDGs」が私たちの心を楽にしてくれたり、世の中の見え方がちょっとずつ変わったりする一歩になるそうなんです。
今回、CHANTO WEBではこまちぷらすが運営する「こまちカフェ」を訪問。 経営企画室の佐藤貴美さんとカフェ店長の守家文子さんに、なぜSDGsに注目したのか、SDGsを意識するコツなどをうかがってきました!
「孤立した子育てをなくしたい」から始まった
まず、こまちぷらすはどういった活動をしているのか教えてください。
佐藤さん
「子育てを、『まちで』ぷらすに。」を合言葉に活動しています。 子育てが「まちの力」によって豊かになる社会を目指して、孤立した子育てをなくし、それぞれの人の力が活きる機会をつくりたいと活動しています。 具体的には、カフェの運営や不登校や発達の不安を感じるお子さんを育てている方や支援者が集まる学び合いの場の提供、子育て中の方の多様な働き方を応援する場として、カフェでの雑貨の販売やイベント開催のお手伝いなどをしています。
かなり多岐にわたる活動をされているんですね。
始まったきっかけは何だったのでしょうか。
佐藤さん
もともとは代表が出産後、地域に知り合いがおらず孤立感を感じたことがきっかけです。 「子育て中の人と出会いたい」と思っても、求めていた情報は、ネット上で見つかりませんでした。 ところがある日、家庭訪問に来た赤ちゃん訪問員さんがくれたチラシに「地域の子育て支援拠点をつくるため、意見をくれる市民募集」とあり、その会合に行くと、然るべき場所には主に紙媒体で地域の情報があることを知りました。 そこで、「必要な時に必要な情報にたどりつけるようにしたい」という想いで、チラシをデータベース化してインターネットで公開する「地域こそだてカレンダー」という情報事業を始めました。
子育て支援をされている中で、なぜSDGsに注目したんでしょうか?
守家さん
きっかけは、カフェのスタッフが「食器を洗っていると手が荒れる」と話していたことでした。 洗剤を変えるとしてもどんなものがいいのだろう?と考えた時に、こまちぷらすのボランティアさんと一緒に「洗剤について話す会」を開きました。
毎日使う「洗剤」について考えることで海洋汚染や食べ残しまで話が広がり、水や海、緑の大切さ、ひいては地球を守ろうという意識に繋がって一人一人の選択眼が変わること気づいたんです。そこからSDGsに取り組むようになりました。
佐藤さん
私が2017年に、他のNGOの方から「NGOと企業の間では、SDGsが共通言語になっている」というお話を聞いた、ということも一つのきっかけになったと思います。 私たちにできることは、生活者自身の視点に置き換えてSDGsを考えること。さらに、孤立を感じがちなママが社会とつながっていると感じるきっかけのひとつにもなるかもしれないと思いました。
社会につながる選択基準
SDGsが社会とつながっていると感じるきっかけになる、というのはどういうことでしょう?
守家さん
子育て中、社会と切り離された感覚になってしまい、「社会の役に立っていない」などと感じて自己肯定感や自己有用感が低くなること、あると思うんです。自分自身もそうでした。 でも例えば、「選ぶ」「買う」という何気ない日常の行動の選択基準にSDGsが加わると、自分が買った商品が何かの支援になったり、環境に配慮したものだったりします。 そうすれば自分の行動が「世界につながっている」「役に立っている」と感じて少しずつ自己肯定感・自己有用感が高まっていくのではないでしょうか。
佐藤さん
自己肯定感が低く「私はこのままで良いんだ」と思えないと、なかなか人に頼りにくいと思います。「私はこのままで良いんだ」と思えることが、人を頼り、社会と関わるきっかけにもなると考えています。
確かに子育て中になんとなく自信を失ってしまう、という話はよく聞きます。
「私も何かできている」と感じる経験が少しずつ積み重なっていくイメージでしょうか。
佐藤さん
そうですね。何気ない行動がきっかけになると思います。 例えば、私たちは横浜市戸塚区と鶴見区で、企業・団体にご協力いただいて無料で出産祝いを送る「ウェルカムベビープロジェクト」を行っているのですが、そこに添える リーフレットでは、SDGsの17のゴールにつながる身近な行動を紹介しています。 「飢餓をゼロに」は「今日は、国産のものを食べた」、「つくる責任、つかう責任」は「今日は、子どもがお下がりの服を着ている」など、本当に小さなことなんです。 SDGsを遠くの話と思うんじゃなくて、小さなことでも社会とつながっている、何かのためになっていると気付いてもらえたらいいなと思って、地元の企業さんと一緒に作成しました。
そういうことなら、1日にひとつくらいできそうです!
SDGsへの取り組みのヒントを広めているんですね。
守家さん
カフェで雑貨を販売している作家さんたちと、SDGsのワークショップを開いたこともあります。SDGsや地域課題について調べた上で、自分の作品にSDGsの考えを取り入れて製作し発表する会ですが、多くの気付きが得られました。 このワークショップを通して、素材選びの基準が変わった方、工場で出た端切れを使って作品作りをする作家さんもいました。ある作家さんは、価格競争になってしまっていたところ、価格だけではない、SDGs基準を持つようになり素材を変えた事で売上が上がったそうなんです。
自分の行動を思い返して、できるところから
右下には関連するSDGsの項目を示すアイコンも添えた。
逆に、お店でSDGsに取り組んだり広めたりする中で難しいと感じたことはありますか?
佐藤さん
私たちは専門家ではありませんので、深く掘り下げて議論をすることはできないですし、そこを目指しているわけではないんです。 先ほど触れた「生活者自身の視点に置き換えてSDGsを考える」という面では、例えば先程挙げた出産祝いのリーフレットは0歳児のお母さんたちと一緒に考えたのですが、「子育てでいっぱいいっぱいなのに、世界のことまで言われてもよく分からない」という声があり、本当に身近なことを取り上げられるよう話し合いました。 難しい例を出してしまったり厳しく決めてしまったりすると「私たちには無理」と、かえってSDGsが遠いものになってしまうのではないかと感じました。 カフェでもあまり前面に出し過ぎると「意識が高く、行きづらい店」と思われてしまう可能性があるので、発信方法には気を配っています。
子育て世代の方々との関わりが多いと思うのですが、子育て世代がSDGsに取り組む意義、というのはどういうところにあると感じていますか?
佐藤さん
親の選択基準が変わると、難しい言葉で説明しなくても子どもはそれを見ていますよね。 1人1人の行動は小さくても、みんなで取り組めば変わるかもしれない、小さなことが未来を創り、地球を破壊しない活動につながっているんだ、という考え方が子どもたちに残せるというのはすごく大きいと思います。 カフェのプラスチックストローを紙のストローに変えた時にも、小さい子にとってはプラスチックの方が使いやすいのではないか?という意見もありました。ただ、逆にお客さんから、「プラスチックのストローはいりません、(海洋汚染で)クジラが死んじゃうから。子どもにも教えてるよ」と言ってもらったこともあって、「届いているんだ」と感じて嬉しかったです。
子どもは本当に親をよく見ていますもんね。
最後に、SDGsに取り組んでいくコツがあれば教えてください!
守家さん
国連広報センターが公開している「
持続可能な社会のために ナマケモノにもできるアクション・ガイド」はすごく分かりやすく解説してあるので参考になりました。 私自身、SDGsを知ったことで、物の選び方がすごく変わりました。カフェでも取り組みを始めてから、だんだんとスタッフも、物を選ぶ基準が変わりいろいろな提案がでるようになったように思います。 まずはSDGsを知ること、そして日常生活で簡単に取り入れられる行動が沢山あるので一度考えてみるのもいいのではないでしょうか。 すべてのことに配慮することはもちろんできませんが、バランスを取りながら決定力のひとつにすることはできると思います。
佐藤さん
そうですね。ずっと意識するのは難しいし、状況によっては意識した行動ができない時があるのは当たり前。 今日はできなくても、次の時はこうしようという選択肢があるのが大切だと思います。
子ども服のお下がりを使うことや買い物での食材選びなど、身近なことがSDGsにつながっているんですね。 それが自分の自信にもつながっていくというお話が印象に残りました。 地球のためだけでなく自分のためにも、SDGsを少し意識してみませんか?
取材・文・写真/小西和香