はじめてのお産をひかえ、経験者から「痔になるよ」「悪化して産後も痛かった…」などという話を聞いて不安になっている人はいませんか?妊娠中、特に後期になると、痔になってしまったり、もともとあった痔が悪化したりしやすいのは本当のようです。

 

ただ、体質により「3人出産しても1度も痔の経験はない」という人もたくさんいるので、むやみに心配する必要はなさそうです。

 

今回は、なぜ妊娠後期には痔になりやすいのか、薬は飲んでも大丈夫なのか、治らないまま出産するとどうなるのか…などを調べてみたいと思います。

目次

妊娠中、特に後期に「イボ(いぼ)痔」になる人が多い理由は?


「痔核(いぼ痔)」「裂肛(切れ痔)」「痔瘻(痔ろう)」など、痔」はいくつかの種類がありますが、妊産婦さんに多いのは、通称「いぼ痔」と呼ばれる「痔核(じかく)」です。

 

「いぼ痔」にはさらに、腸の内側にできる「内痔核」と、肛門の外側にできる「外痔核」があり、それぞれ次のような特徴が。

 

  • 内痔核(ないじかく)→排便時に出血することがある。ひどくなると、デキモノが肛門から飛び出す「脱肛(だっこう)」を起こす。
  • 外痔核(がいじかく)→肛門の外側にしこりができ、痛みがある。ひどくなると、椅子に座るだけでも激痛をともなう。

 

なぜ、妊娠中にはこんな症状が起きやすくなるのでしょうか?

 

「いぼ痔」ができる理由その1:血行不良 

「いぼ痔」のデキモノの正体は、老廃物や古い血液がうまく流れていかずに溜まってしまった結果、膨れ上がってしまった「静脈瘤(じょうみゃくりゅう)」だといわれています。

 

妊娠中は、大きくなった子宮に圧迫されて腹部の血流が滞りがち。

 

さらに、妊娠中に分泌が増える「黄体ホルモン(プロゲステロン)」にも血流をおさえるような作用がありますので、ダブルパンチで血行が悪くなってしまいます。

 

中でも肛門付近には静脈が多く集まっているため、特に静脈瘤ができやすいというわけですね。

 

いぼ痔ができる理由その2:便秘になりやすい

妊娠中期以降、大きくなった子宮に周りの臓器が圧迫され始めます。

 

ただでさえ便の水分が少なくなる妊娠中、直腸が圧迫されて便の通り道が狭くなると便秘になりやすく、これも痔の原因となります。

 

便秘になるとトイレでいきむことが増えるので、もともと痔の症状がある人はさらに悪化することも。

 

また腸内に古い便が多い状態では、周辺の毛細血管にも老廃物がたまりやすく、これも「いぼ痔」の発生につながります。

 

上記の悪条件が揃ったところに出産時のいきみが重なって、お産で痔を発症する人やさらに悪化してしまう人も…。

妊娠中に痔の手術はできる?市販薬は使える?


妊娠中に痔になってしまった・悪化してしまった…という場合、市販の薬や、病院で処方された薬を塗ったり飲んだりしても良いのでしょうか?

 

妊娠中に「いぼ痔」になった経験のある先輩ママにお話を聞いてみました。

 

「私は妊娠8カ月頃からお尻に違和感があり、日に日に痛くなってくるのでお風呂で触ってみたら、肛門付近に梅干しのタネくらいのシコリができていたんです。座るのも痛くなってきたので、検診の時に相談してみたところ、妊娠中でも使える塗り薬を出してもらいました。完全にシコリがなくなることはなかったですが、少し小さくなりました」(Yさん・28歳)

 

「私は、非ステロイド性の軟膏と、赤ちゃんに影響のない飲み薬で炎症を抑えるよう言われました。便秘気味でもあったので、痔の悪化につながらないよう便が柔らかくなる飲み薬も処方されお通じが良くなったおかげで、患部への負担がかなり減りました」(Dさん・30歳)

 

手術については、妊娠中は全般的に出血しやすいことや使えない薬品が多いことから、積極的にすすめられることは少ないと思います。

 

しかし「日常生活に支障をきたすほどの痛みがある」など、場合によっては手術にいたることもあるそう。

 

なお、薬の使用や手術の有無については1人ずつ症状やリスクが異なりますので、自己判断せず必ず診察を受けて下さいね。

 

痔がなおらないまま出産したらどうなる?

便秘の改善や薬での治療をしても効果があまりなく、出産を迎えてしまう人もいるかと思います。

 

体験談を聞くと、残念ながら、出産のいきみなどで産後しばらくは痔の症状は治らないどころか、悪化してしまう人も多いようです。

 

ただ、ダメージを最低限に抑えるためには、事前に助産師さんに症状を伝えておくのが大切。あらかじめ伝えておくと、いきむ時、助産師さんが患部付近が飛び出さないように手で押さえてくれることも。ありがたいですね…!

産後に痔は治るのか?


妊娠出産で発症・悪化してしまった痔は、産後に圧迫が解消したり、ホルモンバランスが変化したりすることで、産後数週間から数か月で解消することが多いといわれています。

 

ただ、妊娠前から痔で悩んでいた人は、妊娠特有の原因が消えた後も完治しない場合があるそう。

 

産後は育児に忙しく受診を後回しにしてしまいがちですが、次の妊娠出産までに治療しておけば苦しまずにすむかもしれませんので、できるだけ受診しておきましょう。

妊娠中の痔に予防法はある?


妊娠中、痔を予防するためにできることはあまり多くありませんが、次のようなことなら毎日できそうですね。

 

おしり周りの血行をよくする

  • 安定期に入ったら適度に身体を動かす
  • 仕事中は長時間同じ姿勢を避け、定期的に立ち上がるなど姿勢を変える
  • 使い捨てカイロを服の上から貼る
  • シャワーで済ませずに湯船に浸かる

便秘や下痢にならないよう注意する

  • バランスよく、繊維質や乳酸菌を多く含む食事を心がける
  • 塩分は控え、カフェインを含まない白湯や麦茶などの水分をしっかりとる
  • 朝は余裕を持って起床し、出勤前や仕事中トイレに行きそびれないようにする

 

どれも特別なことではありませんが、妊娠中におすすめの生活習慣と共通のものばかりなので、妊娠中期を過ぎたら、痔の症状が出ていなくてもやっておくと予防につながりそうです。

出産時のいぼ痔まとめ


残念ながら、妊娠出産時に「絶対に痔にならない方法」はないようですが、できることは実行してひどくならないようにしたいですね。

 

なお、今回紹介した内容は医師監修の情報に基づいていますが、個人の症状や治療法はそれそれ異なりますので、かならず医師に相談の上判断して下さい。

 

文/高谷みえこ 

参照/日本大腸肛門病学会「肛門疾患診療ガイドライン」

公益財団法人 母子衛生研究会「赤ちゃん・子育てインフォ 妊娠・子育て相談室」