10月1日、消費税率が8%から10%に上がりました。消費税率の引き上げに伴い、多くの鉄道会社が運賃を上げました。ところが、10月1日に運賃を値下げした区間があります。それはどこでしょうか。なぜ値下げしたのでしょうか。これからも値下げをする鉄道会社はあるのでしょうか。今回は運賃の値下げにスポットを当てます。

運賃を大幅に値下げした区間はどこ?

10月1日、京浜急行電鉄空港線(京急蒲田~羽田空港国内線ターミナル)の運賃が引き下げられました。運賃は最大で120円値下げに。首都圏や横浜から羽田空港へのアクセスがより便利になりました。値下げ前と値下げ後の運賃の比較は以下のとおりです。

 

値下げ前と値下げ後の比較(ICカード)

羽田空港国内線ターミナル~品川:448円→328円 羽田空港国内線ターミナル~横浜:478円→358円 羽田空港国内線ターミナル~上大岡:530円→410円

 

羽田空港国内線ターミナル~品川ですと往復240円の値下げですから、これは助かりますね。もちろん、普通運賃だけでなく定期券の料金も引き下げられました。一方、京急の値下げに対して「ピンチ」と思っているのが浜松町と羽田空港を結ぶ東京モノレールです。東京モノレールは定期券の料金を大幅に引き下げ。浜松町~羽田空港間の通勤6カ月定期が19,660円も安くなりました。

なぜ、京急は運賃を引き下げることができたのか

 

それでは、なぜ京急は空港線の運賃を引き下げることができたのでしょうか。実は空港線は輸送力増強に伴う工事の費用を回収するために加算運賃を設定していました。つまり、空港線の運賃は他の京急線よりも高かったのです。

 

空港線が便利になったことから同区間を利用する乗客が増加。工事費用の回収も順調に進んでいることから、加算運賃を引き下げることになりました。加算運賃の設定に伴い空港線内の利用者に対して実施されていた割引制度も10月1日に廃止されました。加算運賃は大規模な工事を行った路線に設定されていることが多いです。

 

それでは、加算運賃が設定されている区間はいつ回収が完了するのでしょうか。なかなかハッキリした答えは出しにくいですが、各鉄道会社や国土交通省は加算運賃を設定している区間の現状報告をホームページに掲載しています。気になる方は一度チェックしてみましょう。

値下げをする区間はまだある?

全国を見渡すと、2020年に運賃を値下げするところがあります。それが神戸市を走る北神急行電鉄北神線の新神戸~谷上間です。北神急行電鉄は山陽新幹線の接続駅である新神戸駅からトンネルで六甲山系を突っ切り、北区の谷上駅へ至るトンネル鉄道です。新神戸駅から神戸市営地下鉄西神・山手線と相互直通運転をしています。

 

2019年10月現在、新神戸~谷上間の普通運賃は370円、三宮~谷上間は550円もします。阪急・阪神の神戸三宮~大阪梅田間の普通運賃が320円ですから、いかに北神急行線の運賃が高いかわかるでしょう。

 

2020年6月1日に三宮~谷上間の運賃が280円と大幅値下げになります。約50%の値下げですから、これはインパクト抜群です。それでは、なぜ北神急行線の運賃を引き下げることができるのでしょうか。

 

答えは北神急行電鉄を市営化するから。つまり、北神急行線が神戸市営地下鉄の路線になります。「民営化」のトレンドに逆光する「公営化」というウルトラCな施策と言っていいでしょう。

 

高額な運賃は六甲山系を突っ切るトンネルの建設費用を回収するためのもの。ところが高額な運賃も相まって利用者の伸び悩みが続いていました。北神急行電鉄の負債は650億円にも膨れ上がり、運賃も高止まりという悪のループにはまってしまいました。そこで、神戸市が北神急行電鉄の資産を買取ることで合意。一方、負債は親会社である阪急などが引き取ります。

今後も運賃の値下げはあるか…

さて、京浜急行電鉄や北神急行電鉄のように運賃の値下げは続くのでしょうか。結論から書くと「難しい」と言わざるを得ません。日本は少子高齢化を迎え、人口減少社会に突入します。国内依存の鉄道会社をとりまく環境は厳しいものです。消費税率の引き上げ以外は運賃の据え置きが精一杯ではないでしょうか。

 

一方、ローカル線は消費税率の引き上げに関係なく、運賃を引き上げる可能性があります。たとえば、JR北海道は10月1日に普通運賃を平均15.7%アップ、定期は24.7%アップ、初乗り運賃は170円から200円になりました。

 

「運賃の値下げはない」と割り切って、割引きっぷやポイントを貯められるICカードを利用することをおすすめします。

 

文・撮影/新田浩之