前回の記事(「受験したい」と言い出す我が子に…正しい受験勉強させるメリット)では、中学受験のメリット・デメリットや、親の関わり方についてお伝えしました。引き続き、カリスマ家庭教師の西村則康さんに、中学受験の勉強はいつから始めたらいいのか伺いました。
受験勉強はいつから始めたらいいの?
──塾に任せっぱなしもダメなんですね。親も少しはがんばらないとですね。ちなみに、いつ頃から勉強を始めたらいいですか?5年生の夏休み明けからとかでも間に合いますか?
うーん、5年生になってからだと、かなり厳しいでしょうね。というのも、塾のカリキュラムは小4からの3年間で組まれているので、小4の最初から通うのが一番有利なんです。塾の始まりの時期は学校と違って2月ですから、4年生の最初というのは、3年生の2月からということになります。
4年生で習う内容は意外と重要で、例えば理科や社会などは、5年生以降に習う事項の”容れ物”を頭の中に作っているんです。5年生の秋から始めるとなると、それがすっぽり抜けた状態なわけですから、厳しいと言わざるをえません。
そういう場合は、目標を中学受験じゃなくて高校受験にした方がうまくいく可能性が高い。なので、子どもには「高校受験を目指した方があなたには向いているような気がする。だから今から少しずつでいいから準備していこうね」みたいな言い方をして、目標を4年半後に変える方がいいと思います。
また、大手塾には入塾テストがあるので、3年生の9月くらいから入塾テストのための勉強をしておくといいでしょう。
──え、塾に入るためのテストなんてあるんですか?塾って誰でも入れるのかと思ってました。どんな勉強をしておいたらいいんですか?
実は、入塾テストのための問題集というのが世の中にはなくて、私が作ったものがあるんです(笑)。これで勉強しておくといいですよ。
あとは、小学校低学年のうちに勉強する習慣を身につけておくことがとても大事です。勉強時間の目安は、学年×10分×科目数です。国語と算数だけいいので、1年生なら1日20分、2年生なら40分、3年生なら1時間くらいです。
──3年生で1日1時間って、意外と長い時間ですね。学校の宿題だけでは1時間なんてかからないと思うのですが、あとはどんなことをすればいいですか?
学校の宿題以外に教科書準拠の別の問題集が必要です。「●●出版教科書準拠」などと書かれている問題集があるので、それをやっておけばいいと思います。毎日勉強することが当然だと思えること。これが受験勉強を開始する一番の基本です。
勉強を習慣化させる方法ってあるの?
──仕事から帰ってきてからやらせるには時間的にも厳しいし、だからといって子どもが自分から毎日勉強するとは思えません。うまく習慣化させるためにはどうしたらいいですか?
「毎日、漢字練習を1ページずつやっていきましょうね」というように、子どもが何をすればいいのか示してあげればいいと思います。それで、帰ってきたら見てあげるのですが、その際に、内容に立ち入って「これ間違えてるじゃないの!」ではなくて、普段と同じような字が書けているかどうかを見るのです。いつもよりも乱雑な字で書いていたら、「今日はやる気がなかったのかな」「何か嫌なことがあったのかな」という風に見てあげてください。
長年子どもたちを見てきましたが、「早く終わらせたい」という気持ちが強く、殴り書きしているような子は成績が伸びにくいんです。
──いつも殴り書きだと、毎日叱ってばかりになりそうです。
そういう子は、体を動かすことが好きなタイプであることが多いので、手を動かしながら計算するソロバンをやらせてみてはいかがでしょう。公文に行かせるご家庭も多いですが、常に同じような字でちゃんとやっていける子は公文をある程度続けていっても大丈夫です。子どものタイプを見て、何をやらせるかは判断しましょう。
──毎日家で勉強させようとしなくてもいいわけですね。それならなんとかなるかも。では整理すると、小3の夏休みまでは勉強の習慣を身につけることを重視して、小3の9月くらいから入塾試験のための勉強を始める。そして、小3の2月に塾に入る、という流れが一般的なんですね。
ちなみに、子どもがまだ就学前の場合、やっておいた方がいいことってありますか?
小学校に入る前までは、いわゆる勉強ではなくて、日常生活そのものが重要です。
例えば、今の子ってお母さんが買い物の時にカードでピッて支払うから、お金はカードで払うものだと思っていたりするんです。小銭を使ったことがない子どもも増えていて、そういう子は、1円玉が10枚で10円玉1枚と同じになるということを意外とわかっていない。
感覚的に1円玉10枚と10円玉1枚がつながらず、違うものと思ってしまうんです。そうすると、いざ学校の勉強を始めると計算が苦手な子になっていることが多いんです。
──そういうところから計算が苦手になるなんて、考えもしませんでした。子どもには、親にとって当たり前のことも経験させたほうがいいんですね。
そうなんです。砂遊びとか、いろいろな遊びの中にそのあと身につけるべきいろんな感覚の元となるものがあるので、実際に触ってみる、目で見てみる、音を聞いてみる、そういう経験をいっぱい積んでほしいと思います。
こうした経験から得た身体感覚は、小学生になって新たに入ってきた情報と結びつき、「なるほど、そういうことか」という納得感につながります。
そして中学生くらいになると、新しく入ってきた知識は過去に収納された知識に繋がります。中学生になって、いくら勉強してもなかなか成績が伸びないという子は、幼少期の身体感覚の乏しさが原因だったということもあるんです。
──小さい頃の経験ってあとあとまで影響するものなんですね。ただ、いろんな経験をさせたいと思っても、毎日仕事と家事で疲れすぎて、どこかに出かけるのも正直しんどかったりするのですが。
「出かけなくちゃいけない」と思わなくていいんです。家庭の中でも身体感覚を養う場面はいろいろあります。例えばお料理を一緒に作ってもいい。目玉焼きを一緒に作って、とろんとろんの卵が固まるのを見せるだけでいいんです。そうすると後からタンパク質は加熱すれば固まるということを習ったときに、「あのことか」と感覚的にわかるわけです。
──では、家の手伝いをさせるのもいいんですか?
いいですね。子どもに勉強以外のことはさせないようにするという親御さんもいますが、家の手伝いはどんどんやらせた方がいいです。
家の手伝いをするということは、学習面だけでなく、マインド面でも大きな影響を及ぼします。朝起きたらカーテンを開けるとかでいいので、毎日子どもがすることを決めておく。それでやってくれたら「よくやってくれたね」と嬉しい気持ちを伝える。そうすることで、自分が家族のかけがえのない一員だという風に感じるんです。つまり、自己肯定感につながる最初の行動になるというわけです。
心にそういうものがないと、その上にいくら勉強を積み重ねようと思ってもうまくいかないのです。
──勉強の成績って、いろんなことが関係してくるんですね。中学受験と聞くとひたすら塾に通って勉強するというイメージでしたが、毎日の生活も大切なんですね。ところで志望校はいつ頃決めるものですか?
最終的に決めるのは6年生ですが、それまでにどんな学校があるのか情報を集めておくことは必要です。
──自分の子に合う学校って選ぶのって難しそうですが、どんなところを見たらいいですか?やっぱり偏差値ですか?
塾の偏差値表に左右される親御さんが多いのですが、中学受験の偏差値と高校受験の偏差値はまるで考え方が違います。それは、母集団が違うからです。例えば、中学受験で偏差値45近辺の学校が高校受験では70近辺の学校になっていたりします。ものすごく変わるんです。
なので、偏差値も1つの基準ではありますが、それよりも校風を見た方がいいですね。まずは学校説明会で校長先生の話をよく聞いてみてください。ただし、煽られてはいけません。近年、一部の学校では、おそらく広告代理店が中に入っていて、学校説明会でのプレゼンテーションのやり方を一生懸命指導していたりするんです。それで人気を伸ばしている学校もあるわけです。
文化祭も同様で、学校側がすべて仕切っていて、一種の集客目的になっているところもあります。
──そうなんですね。印象だけで決めるのは危険なんですね。
なので、おすすめなのは、通っている生徒たちの登下校の列にまぎれこんで歩いてみること。子どもたちって結構大きい声で話していたりしますから、会話が意外と聞こえてきたりします。偏差値がそれほど高くなくても、帰りに授業の話とかしていてしっかりしてるなとか、逆になんか下を向いている子が多いなとか、見ていてわかることも多いと思います。
だから1つのことだけで決めないで、複数の観点からどの学校が合うかを判断した方がいいですね。
──やっぱり中学受験をするとなると、親もいろいろがんばらないといけないんですね。
そうですね。ただ、子育てを終えた私が思うのは、子どもに関わる時期って本当にあっという間で短いものだということ。中学校に上がったらほとんど関わることができませんから。なので、あの時もっと関わっておけばよかったなと後悔しないように、大変だと思いますが、がんばってください!
PROFILE 西村則康(にしむら・のりやす)
名門指導会代表、難関中学・高校受験指導一筋のカリスマ家庭教師。日本初の「塾ソムリエ」としても活躍中。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導が評判である。http://nishimuranoriyasu.com/
取材・文/田川志乃、撮影/masacova!