気のせい、と言われるのが一番つらい ── 。家族からは「まったく臭わない」と笑われ、歯科医には「きれいにケアされている」と太鼓判を押されても、至近距離で人と話す恐怖が消えない。中学時代から口臭への疑心暗鬼からマウスウォッシュやサプリ、漢方薬に200万円をつぎ込んできたまっちゃんさん。青春を奪われ、誰にも理解されなかった苦悩と、もがき続けた15年を伺います。
中3から悩み始めた口臭「至近距離で話せない」

── まっちゃんさんは自身の口臭に関する悩み、そして口臭対策を試行錯誤する日々を、メディアプラットフォーム「note」で赤裸々につづっています。試したアイテムはとんでもなく多いですね。
まっちゃんさん:口臭を消すためのマウスウォッシュやタブレット、体質を改善するためのサプリメントや漢方薬など、輸入品を含めてさまざまに試しました。一つひとつは数千円でも、15年近く毎日のように続けていると、すごい金額になります。計算してみたところ、200万円もかけていることがわかり、自分でも驚きました。「そのお金があれば車1台が買えたかも」と正直、思うことはあります。
── ずいぶん長期間悩んでいるわけですが、きっかけは何かあったのですか。
まっちゃんさん:口臭に悩み始めたのは、中学3年の夏からです。誰かから指摘されたとか、そういうことはなくて。個別指導塾で先生が真横について教えてもらっていたとき、なぜだか「自分の息が先生に届いて、その臭いで嫌な思いをさせてしまっているのではないか」という、強烈な不安に襲われたんです。それ以来、人と至近距離で話すのが怖くなってしまいました。
── その悩みを周囲の人に打ち明けたことはありますか。
まっちゃんさん:友人には絶対に言えませんでした。中学や高校で部活動を共にした仲間にすら、打ち明けたことはありません。「あいつ、自分の口が臭いことを気にしてるんだ」と思われること自体が恥ずかしくて恐怖だったんです。同じ悩みを持つ人がいれば話したかもしれませんが、周囲は口臭対策としてミントタブレットをときどき使う程度で。とくに口臭で悩んでいそうな人はいませんでしたから…。
家族には「俺の息、臭くないかな?」と、何度も相談しました。家族は真面目に答えてくれましたが、返ってくるのはいつも「まったく臭わないよ」「気にしすぎなんじゃないの?」という言葉ばかり。大学入学後は口臭対策にブレスケアガムを口の中に常時しのばせるようにしていたのですが、それが同級生に見つかって…。言葉はなくても「キモいな」と思われているのではないか…周囲の視線を気にしてしまい、精神的にも追い詰められるようになりました。
歯科や耳鼻咽喉科で「問題なし」と診断されるも
── 口臭に関して、医師の診察を受けたことは。
まっちゃんさん:歯医者には半年に1回、定期的に通っています。でも歯周病も虫歯もなくて、むしろ「きれいにケアしていますよ」と褒められるくらいなんです。のどの奥にいわゆる「臭い玉」(扁桃膿栓。扁桃腺にあるくぼみに細菌や食べかすなどが溜ったもの)があるのではないか、と耳鼻咽喉科で相談したこともあります。そのときも、先生からは「目立つものはないよ」と笑われてしまって。看護師さんまでクスクス笑っていて…。それがけっこうトラウマになって、以来、その病院には行けなくなりました。
口臭外来は費用が高いうえ、「治らなかった」という口コミも多く見かけて、まだ足を踏み入れられずにいます。
── 歯医者さんには褒められるし、家族は「気にならない」という。でも、自分では気になってしまう。このギャップは、とまどいますね。
まっちゃんさん:食後に舌に食べかすがはりついている感覚や、唾液が十分に出ずに口がねばつき、口の中がモワッとする感じは、確実にあるんです。だから「気のせい」と流されるのが一番つらくて。悩んでいない人からすれば、たいしたことではなくても、本人にとっては生活や人生を左右するくらい大きなことなんです。
── これまで、どんな対策をしてきたのですか。
まっちゃんさん:歯磨きや舌磨きといった基本的なケアはもちろんのこと、ほかにもいろいろ。一時期、体臭全般を消したくて果物中心の食生活にして、5~6キロやせたこともあります。それで、便の臭いはなくなったんですが、残念ながら口臭は変わりませんでした。
海外製のマウスウォッシュやサプリなど、一つひとつ試しては効果を検証し、記録もとりました。海外製のマウスウォッシュのなかには、口臭を消す効果がかなり強く、「吐く息がレモンの香りに!」と感じるものも。ただ、いずれも「使い続けないと元に戻ってしまう対症療法だな。一生このまま口臭ケアにお金を使い続けるのはしんどい」と、思うようになりました。
口臭に対する恐怖と試行錯誤は15年目を迎えた

── 対症療法をしなくてもいい体質になりたいわけですね。
まっちゃんさん:そうなんです。いろいろ調べて、ポイントは「唾液の量と質」ではないかと考えるようになりました。「自分も子どものころは、サラサラの唾液がたっぷり湧いていて、口臭に悩んだことなどなかった。あのころの体質に近づけたら…」と。
そこで数か月ほど前から「体質そのものを変えたい」と思って東洋医学を調べ始めました。心療内科の先生に相談して、水分の巡りを整える漢方薬を処方してもらっています。飲み始めてから、体のむくみが取れたり、少しだけ唾液がフワッと出る感覚があったりして。このままうまく体質が変わっていけばいいなと思っているところです。
── ご自身が口臭対策に200万円もかけて検証してきた情報を、まっちゃんさんは「note」で惜しみなく発信しています。それはなぜでしょう。
まっちゃんさん:根底にあるのは「かつての自分のように、口臭のことで誰にも言えずに苦しんでいる人の助けになれたら」という思いです。僕は口臭のせいで青春時代を奪われ、人との関わりに怯え、200万円もの大金と膨大な時間をムダにして遠回りをしてきました。「もしあの頃、正しい道筋を教えてくれる人が身近にいてくれたら、あんなに苦しむことはなかったのに…」という思いがあるんです。
noteで情報発信を始めてからは、口臭の悩みを抱えた方々からたくさんの共感や相談が寄せられるようになりました。来年3月末までに無料記事1000本を執筆し、来年のお盆には当事者同士が安心して悩みを共有し、情報を交換できるコミュニティを立ち上げることを目標にしています。
── 口臭に悩んでいる人は、まず何から手をつけたらいいでしょうか。
まっちゃんさん:まず歯科や耳鼻科で原因を調べてほしいですね。それでも変わらないなら、対症療法でその場しのぎを続けるのか、自分の体質と向き合って根本から変えていくのか、自分に合う方法を探すしかないと思います。僕自身、まだ答えは出ていません。だからこそ、同じ悩みを持つ人たちと情報を分かちあう場所がほしい。僕もまだまだ試行錯誤中ですから。
取材・文:鷺島鈴香 写真:まっちゃん