「ずっと働くつもりも」結婚を機に決意
── 繊細な手仕事の世界では、取り組む時間が減るとスキルが落ちるのではないかと心配になりそうです。出産や育児で時間的な制約があるなか、スキルを維持するために気をつけていたことは?
三澤さん:妊娠や出産前は、残業や休日出勤もいとわず作業時間を確保することがままありました。でも、出産後は保育園のお迎えの関係で、夕方4時には帰らなければならず、その手は使えません。そうしたなかでも、切子の作業の時間を少しでも確保するために、移動時などの隙間時間を使ってメール作業を済ませるなどの工夫をしました。切子の作業そのものも、時間を意識しながら今まで以上に集中して取り組むようになりました。
それから、逆説的ですが、休む時間はきちんと確保するようにしました。繊細な作業に集中して取り組むには体力が必要です。妊娠中や産後は体調を崩しやすくなっていますから、無理はしないよう心がけていました。少しでもいい状態で作業したいですから。
── 仕事に子育てに追われる日々。なぜ独立を考えるようになったのですか。
三澤さん:自分自身は熱望して弟子入りした親方のもとから独立するなんて、考えてもいなかったんです。「私は堀口切子でずっと働く、独立するつもりはない」と言っていたし、親方もそう思っていたと思います。
ただコロナ禍のさなかに結婚して、夫と将来どんなふうに暮らしたいか話すなかで、「自然の豊かな場所に住みたい」という話になりました。それなら、老後になってからでは遅い、今のタイミングしかない、と。「独立したい」というよりは、「移住するから独立する」という感じですね。
── 親方にはどのタイミングで独立の意思を告げたのですか。
三澤さん:伝統工芸の工房というのは、少人数で運営して、職人を育てるのにも時間がかかります。一般企業のようにすぐ代わりの人を採用するというわけにはいきません。何事も早めに相談してほしいと親方には言われていました。だから2021年頃にまずその意思をお話しして、数年がかりで準備を進めました。
親方は独立の意思を時間をかけて受け入れてくださった、という感じでした。後輩職人も増え、出産のタイミングでかなり引き継ぎが進んでいたのもあって、独立に際しては「この人たちがいれば堀口切子は安泰だ」と思えました。