もう「江戸切子」とは名乗れないけれど

三澤世奈 器
小さなわが子の手におさまる、日常使いもできる器

── 2025年、ついに独立。移住先は長野県御代田町。なぜここを選んだのですか。

 

三澤さん:夫も私も仕事で東京に行く可能性があったので、東京からの便がよい場所をと最初は探していました。その中で、この御代田町を訪れた時に自然がすばらしく、山の景色にほれ込み、その日のうちにここに住みたいと決めました。

 

後から知ったことですが、アートの土壌も深い場所で住んでいる付近には素敵なギャラリーがあり、木工、陶芸、ステンドグラスの作家さんもいらっしゃる場所でした。

 

── 自分の工房をかまえ、今後はどのような作品を作る予定ですか。

 

三澤さん:伝統工芸である「江戸切子」は東京で作らないと名乗れませんから、これからは「江戸」が取れて「切子」職人となります。そして、これまで培ってきた切子の技術にあわせ、吹きガラスなどの技術も組み合わせて、自分らしい作品を作っていけたらと考えています。

 

江戸切子の工房にいたころは、決められたものをいかに早く、正確に、美しく仕上げるかが求められていました。でも今は、自然の完成された美しさの中にある、個性や有機的なものに影響を受け、自分の個性や手作業のぬくもりを感じさせる、ゆらぎのようなものを、あえて残すことも良いと思えるようになりました。工房時代には、消そう消そうとしていたもの、自分の手跡のようなゆらぎを、今は楽しんでいく感じに変わってきています。

 

御代田町のふるさと納税の返礼品事業に参画させていただいたり、日常使いできるものを作ったり、一品ものの作品を手掛けてみたり…。どこに向かうのかは正直まだ自分の中で見えていません。たくさんの方から教えを受けながら、今できることを、いただいているお仕事を、精一杯やっている状況です。とにかく手を動かして、少しずつ前に進んでいきたいですね。

 

取材・文:鷺島鈴香 写真:三澤世奈