親が知らない場所にも「子どもの世界」がある

── お子さんたちの意思や気持ちについて、小林さんが「こんなことを考えていたんだ」と驚かされたことはありますか?

 

小林さん:明愛は今、特別支援学校の中学部に通っているのですが、学校では、明愛よりも自分で動くことが難しい友だちのところへ、自分から挨拶に行くことがあるそうなんです。

 

普段、明愛から誰かに声をかけたりすることはほとんどないので、そういう話を先生から聞くと、「学校ではこんなふうに友だちと関わっているんだ」と驚きます。私が知らない明愛の姿もたくさんあるんですよね。

 

小林昌代 明愛
長女・明愛さんの食事の介助をする小林さん

── 親の知らないところで、娘さんたちの世界が広がっていることを、どのように感じていますか?

 

小林さん:私が知らないところで、明愛なりに人との関係を作っているんだなと思います。明愛には明愛の学校での生活があって、そこで関わっている先生や友だちがいる。私と一緒にいるときとは、また違う明愛の姿があるんだと思うと嬉しいですね。

 

親はどうしても、子どものことを「自分がいちばんわかっている」と思いがちですよね。私も娘たちと毎日一緒に過ごして、表情などのちょっとした変化から、「今はこう思っているのかな」と気持ちをくみ取っています。

 

でも、学校での明愛のように、私の知らない姿もある。それを考えると、親だからといって、娘たちのことをすべてわかっているわけではないんだなと実感します。

 

── 親が「この子のため」と思っていても、必ずしも本人が望んでいるとは限らない、ということでしょうか。

 

小林さん:そうですね。親としては、「こうしてあげるのが本人のため」「こうなったほうが幸せなんじゃないか」と考えてしまいます。

 

でも、それはあくまで親である私の価値観。娘たちがどう感じているかをすべて知ることはできません。だからこそ、「この子にとっての幸せはこれ」と親が決めつけてしまうのは違うと思うんです。

親がそばにいられる時期は限られているから

── 学校の先生など、家族以外にも娘さんたちを理解してくれる人がいることを、どのように感じていますか?

 

小林さん:本当にありがたいです。とくに学校の先生たちは毎日、娘たちと一緒に過ごしているので、表情などから娘たちの意思をうまくくみ取ってくれて。こうした「家族以外」の人たちとのつながりは、これから先のことを考えても大切だと思っています。

 

娘たちは成長していきますし、私たち親は年をとっていきます。今は、私たちが娘たちの気持ちをくみ取って、周りの人に伝えることができますが、ずっと私たちがそばにいて、娘たちを支え続けられるわけではありません。

 

だからこそ、娘たちの性格や好き嫌い、意思表示の仕方を知ってくれる人を、少しずつ増やしていきたいと思っています。私が立ち上げた一般社団法人「Special Needs Support」での活動もその一環です。できるだけ多くの人たちに障害とともに生きる人のリアルを知ってほしいですね。

 

── 小林さんにとって、明愛さんと蒼依さんの「幸せ」とはどのようなものだと考えていますか?

 

小林さん:娘たちが生まれる前に思い描いていた「子どもの幸せ」と、今考える「明愛と蒼依の幸せ」はずいぶん違うと思います。

 

以前の私は子どもに対し、「夢を持って育ってほしい」「世界に羽ばたいていってほしい」と思っていました。でも、それは私が思い描いていた幸せだったんですよね。今は、娘たちが毎日楽しんで、笑って過ごしてくれたらいいなと思っています。ただ、それも親である私が思っていることです。

 

娘たちが、本当に何を幸せだと感じているのか、私にもすべてはわかりません。だからこそ、本人が何を好きで、何を嫌がって、何を望んでいるのかを知ろうとし続けることが大切なんだと思います。

 

取材・文:佐藤有香 写真:小林昌代