「娘に謝ることはやめよう」夫婦の約束事の真意

── 星野さんは「どんな子どもも自分の未来を選べる社会になってほしい」との思いを込めて走ったそうですね。娘のふうかさんが国指定の難病で、全身の筋力低下を引き起こす先天性ミオパチーと診断されたのは2歳の頃だったと伺っています。

 

高野さん:生まれてから筋力が弱いというのは感じていて、なかなか首も座らず、歩くこともできませんでした。診断には、DNAを調べる筋生検という検査が必要で、それができるのが2歳からだったので、診断を受けたのは2歳になってからでした。でも、どんな障がいがあったとしてもそれはこの子の特徴であって、「私たちはそれをフォローできるように生活をしていこう」と夫婦で話をしてきました。

 

── 夫婦の強い絆が伝わってきます。娘さんの子育てをするにあたって、夫婦で意識していることはありますか。

 

高野さん:娘が将来、この障がいによって悲しい思いをしたり、「なんで私はこんな体なの」と聞かれたりした際に「絶対に謝ることはやめよう」と話をしてきました。先天性ミオパチーは遺伝性の障がいで、DNAの突然変異で起きると言われています。誰かが悪いわけでも、誰かが責められるものでもありません。まして、娘自身が障がいを持って生まれてきたことを皮肉に思う必要もありません。「娘が堂々と社会で生きられるように支えていくこと」が、夫婦間でのお約束ごとになっていると思います。

難病を公表の理由「娘が人前で話してみたい」と

── ふうかさんは今年8月に11歳の誕生日を迎えました。娘さんが9歳の頃に、ご夫婦そろって娘さんの障がいを公表すると同時に家族3人のSNSを始めました。きっかけはなんだったのですか。

 

高野さん:娘がYouTubeを観るようになって、「私も人前で話してみたい」という憧れを持つようになりました。親がメディアに関わっている以上、情報発信をする難しさや、人に伝えることの責任感は知っていましたので、そのことを丁寧に説明しました。「時には人を傷つける可能性もあるし、自分の発言にも責任を持たなきゃいけないよ」って。

 

それでも娘は挑戦してみたいとのことだったので、親としてどんなサポートができるか考えたんです。子どもが人前に出て話すというのは、やはり注目されてしまうと思ったので、写真と文章だったら、保護者である我々が後見人となってリスクマネジメントをして娘が伝えたいことのフォローができる。そこで、インスタグラムを開設して、娘のことを公表することにしました。今では10万人以上のフォロワーの方がついてくださって、娘もコメントを見ています。

 

── インスタグラムに加えて、テレビでご家族揃っての露出もあり、注目される機会が増えたと思います。娘さんの反応はいかがでしたか。

 

高野さん:友達から「テレビ見たよ」と言われて、まんざらでもなさそうな感じで、嬉しそうにしていました。注目されることもいいけれど、僕たちは、「みんなと対等にお話ができることを大事にしてね」と常日頃言っているので、娘は自分が特別扱いされているとは思っていないはずです。

憶測だけでなく、正しい議論を

── ふうかさんのように医療的ケアが必要なお子さんが普通学級で授業を受けることに対し、ネット上ではさまざまな意見があり、高野さんの耳にも入ってきていると思います。世間の声をどう受け止めていらっしゃいますか。

 

高野さん:娘は酸素のサポートをつけて電動車椅子で移動し、公立小学校に通っているのですが、「医療的ケアが必要なんだから特別支援学校に行くべき」という声がありました。

 

小学5年生になる娘が通っているのは、区が設置した肢体不自由特別支援学級が併設された公立の小学校です。肢体不自由特別支援学級に在籍をしながら、通常学級で授業を受けています。サポーター・支援員の方が常についてくださり、比較的新しい学校なので設備に配慮があります。構内はバリアフリーで、エレベーターもあり、廊下もフラットで多目的トイレもあります。先生やクラスメイトの理解もあり、体育の授業ではタイムの計測やスタートの合図係などもすることがあるそうです。

 

障がいに対する理解が十分でないと、「この子は、これはできないだろう」という推測から入る方もいますが、学校では「何ができるか」という視点から発想していただけるので、娘のできることが驚くほどたくさん見つかります。

 

もちろん、実際に現場の先生やクラスメイトにどこまで寄り添ってもらえるかというのは、人と人の関係性もあり、難しい問題でもあるとは思うのですが…。いずれにせよ、通常の公立校とは事情が異なるものの、ネット上にはさまざまなご意見がありました。自分たちが知っている限られた情報や、「きっとそうだろう」という憶測だけで発信された内容に対し、十分な事実確認をしないまま「そうだ、そうだ」と同調する声が広がり、時には事実とは異なる情報によってネット上で炎上が起きてしまう。そんな現状を、とても残念に感じています。

 

── 現在は都議会議員として活動していますが、高野さんはもともとTBSのアナウンサーとして情報を伝える立場にいらっしゃいました。

 

高野さん:今回の経験を通じて、改めて情報リテラシーの重要性を強く認識しました。メディアやインターネットから流れてくる情報を、そのまま鵜呑みにするのではなく、一度立ち止まり、別の視点からも考え、事実を確かめてほしいと思います。そして、何より大切なのは、情報を受け取る側だけでなく、発信する側にも責任があるということです。

 

自分の何気ない投稿や同調する一言が、誰かを深く傷つけたり、誤った情報をさらに広めたりする可能性があります。誰もが簡単に情報を発信できる時代だからこそ、発信する前に、その情報は本当に正しいのか、その言葉の先には誰がいるのか、そして、どのような影響を及ぼすのかを想像してほしいです。

 

情報を疑うことは、誰かを否定することではありません。さまざまな立場や考え方に耳を傾け、事実を見極めようとする姿勢こそが、今の社会に求められているのではないでしょうか。ただ、議論として語り合われたという意味では、妻がチャリティーランナーとして走り、娘の生活について伝えたことで、一石を投じることができたのかなと感じています。

 

取材・文:内橋明日香 写真:高野貴裕