厚生労働省によると、産後うつを発症する割合は10人に1人とされていますが、その大きな要因のひとつが慢性的な睡眠不足です。そうした現状を受け、今年2月、東京都港区にある助産院が「ナイトシッター」事業をスタートしました。保護者に代わって夜間の育児を担うこのサービスは、今、多くの利用希望者を集めています。 

「夜になるのがつらい」母たちの声に 

── 城野さんが院長を務める東京都港区の港助産院では、今年2月から夜間に自宅を訪問するナイトシッター事業を始めたと伺っています。産後すぐの新生児からみていただけるそうですね。 

 

城野さん:10年前に産後のご家族と赤ちゃんのケアを行う訪問型の助産院を開業し、助産師としてご家族と接するなかで、「数時間でもいいからまとめて眠りたい」「夜になるのがつらい」という声を多く聞いてきました。夜間は、睡眠不足の影響で脳の扁桃体が過剰に反応して不安感が強くなります。ご家族にしっかり睡眠をとって休んでいただけるよう、夜間、ご自宅に伺い、授乳やおむつ交換、寝かしつけや寝ている赤ちゃんの見守りをする夜間専門のナイトシッターを始めました。 

 

城野育院長
ナイトシッター事業をスタートした港助産院の城野育院長

── 産後の睡眠不足で精神的に不安定になったり、疲れが溜まって赤ちゃんへの愛情を感じる余裕がなくなってしまったりする方もいるそうですね。睡眠不足が続くとどのようなことが起きるのでしょうか。 

 

城野さん:腰痛や恥骨痛、貧血など、産後の体の回復が遅くなる原因になり、脳や自律神経に負担がかかって、産後うつにもつながります。記憶力や判断力の低下で、育児パフォーマンスも下がってしまいますし、免疫機能や糖代謝、血圧など身体への影響もあります。また、産後クライシスと呼ばれる夫婦関係悪化のリスク上昇も考えられます。 

「休むことも育児のうち」という認識を 

── 厚生労働省によると、産後うつは10人にひとりが発症するというデータがあるもの の、専門機関を受診しない方が多いそうです。産後は目の前の育児に精一杯で自分のこと は後回しになる気持ちもわかります。自覚症状が少ないそうですが、実際に助産師として母親と接して、産後うつの傾向を感じた方はいましたか。 

 

城野さん:はい。さまざまなことが原因で、育児をするのが難しい状況になっている方もいます。そういった方には公認心理士やメンタルヘルスケアの学びを深めているシッターが訪問することもあります。私が病院勤務をしていたときも、産後の心の状態に悩まれている方に多く出会ってきたので、公認心理師の資格を取得して心のケアを大切にしてきました。産後は赤ちゃん中心の生活になり、「誰かに頼ることが申し訳ない」「親である自分が寝ていいのかな」と自分を大切にすることへの罪悪感を抱く方が多いです。

 

睡眠は決して贅沢なものではなく、産後の健康を守るために大切なことです。「休むこと も育児のうち」という認識を広めていきたいです。保護者様だけで、「産後眠れないのは当たり前で、育児はがんばるもの」と思ってしまう現状を変えていきたいです。 

国家資格保有者のみ「料金はシッターが決定」

── どのような方がナイトシッターとして登録していますか。 

 

城野さん:夜間に安心して赤ちゃんを預けてお母さんに休んでいただきたいので、助産師、看護師、保育士の国家資格を持ち、新生児・乳幼児のケアが得意な女性に限定しています。シッターの登録者は産後ケアが得意な助産師が多く、母乳育児の悩み相談や乳房ケアも行っています。 

 

大手のシッター会社さんでは、0~3か月の低月齢のお子さんを担当できる方が少ないのですが、ナイトシッターでは臨床経験(妊娠、出産、産後の母子のケア)がある助産師や看護師しか在籍していません。早産や低出生、特別なケアが必要なお子さんには、NICUの勤務経験が豊富なシッターが対応しています。実際に夜間、呼吸が苦しくなってしまった赤ちゃんの対応をしたケースもありました。緊急時の対応や判断ができることに加えて、人柄や接遇力、コミュニケーションスキルが高い方を採用しています。 

 

── 気になる利用料金は、シッター自身が決めるというのがとてもユニークですね。18時から22時までは1時間3000~4500円、22時以降~翌朝7時までは1時間3500~5000円 と、料金に幅があるのはなぜですか。 

 

城野さん:働く側のモチベーションと専門性を大切にしたいという思いがあります。シッ ターによって経験値が違うため、一律には能力を測れないということと、ご自身で設定した金額に見合った仕事をして、夜間に働く責任感を持ってほしいと思っています。 

 

── 夜間や深夜にシッターさんが来てくれるのはありがたいのですが、働く側にもご自身の生活がありますし、夜間に働く負担は大きいと思います。 

 

城野さん:助産師や看護師で、夜勤経験のある方が応募してくださっています。病院の夜 勤は、16時半~翌朝9時と長時間で、忙しい日はまとまった休憩がとれない日もあります。病院時代は仕事量が多くバタバタ走り回って働いてきたけれど、マンツーマンで丁寧にお母さんと赤ちゃんに関わっていきたい方のニーズが多い仕事だと感じています。

 

私自身も夜勤専従の助産師として病院に勤務しながら助産院を開業したのですが、現役の 助産師や看護師が副業としてシッターに登録している方もいます。産後眠れなかったつらい経験から、お母さんのサポートをして役に立ちたいと応募してくださる方が多いです ね。