5歳の長女にとっては「病気のママがいつものママ」

5歳の長女・リンさんは、物心ついたころから、はらださんの病気とともに育ってきました。自分で体を動かしたり、言葉を発したりすることが難しい母親の姿も、リンさんにとっては幼いころからの日常です。

 

たとえば、リンさんがゼリーを食べるときは必ず、ふたを開けて、まずははらださんの口へひと口。「おいしい」とはらださんが反応すると、そのあとは自分で食べるのだとか。それは「病気のお母さんがかわいそうだから、何かしてあげなくては」という使命感によるものではなく、親子のなにげないコミュニケーションのひとつなのでしょう。

 

はらだまさこ
母親に「してあげる」のも、甘えるのもリンさんにとっての「日常」

いっぽうで、リンさんは自分からはらださんに甘えることもあります。母親に食べ物を食べさせることも甘えることも、リンさんにとっては「特別」ではなく、「日常」のひとコマ。はらださんが以前のように言葉で返事をすることが難しくなった今も、リンさんは母親にたくさん話しかけます。今日あった出来事や、今気になることを思いつくままに話し、はらださんはそれに耳を傾ける。そんな時間も、ふたりには「当たり前」なのです。

 

「できるだけ、子どもたちが『やりたい』と思ったことは応援してあげたい」と語るはらださん。 今年の春休みには、リンさんの希望で、一緒にハウステンボスに出かけたそう。自分ひとりで連れていくことはできなくても、周囲の人の力を借りながら、娘の「やりたい」や「行きたい」に応えています。

 

母が子どもに「してあげる」、子どもが母に「してもらう」。親子の関係はいつもそんなふうに、一方向ではないのかもしれません。

「今の私」にできる形で、子どもたちとかかわっていく

はらださんが子どもたちにできることは、病気になる前と今とでは大きく変わりました。しかし、変化しているのははらださんだけではありません。13歳になったタカラさんは、自分の考えを言葉にするようになりました。そんな息子との会話から、はらださんが初めて知ることも。

 

料理が得意なはらださんは、以前、子どものお弁当にも工夫をこらしていました。ところが最近、当時のお弁当の写真を見たタカラさんから、「お母さんのお弁当は大人っぽいんだよ。普通でいいの、唐揚げとか」というひと言が。

 

当時は知ることのなかった息子の気持ちを、何年も経った今になって知る。そんな会話も、成長したタカラさんとの新しいかかわりのひとつなのかもしれません。だからこそ、はらださんは「今、体が動かない私に何ができるか、どう生きられるのかを子どもたちに見せたいと思っています」と話します。

 

できることが変われば、親子のかかわり方も変わっていく。その変化のなかで、「今の私」にできることを重ねていく。家族の役割や親子の関係は、ずっと同じではなく、そのときどきに合った形へ変えていけるのかもしれません。

 

取材・文:佐藤有香 写真:はらだまさこ 取材協力:田中 文