子どもの成長や環境の変化とともに、家族の役割や親子のかかわり方も変わっていくもの。難病ALSの進行により、できることが大きく変わった2児の母・はらだまさこさんも、13歳の長男と5歳の長女との日常が変化してきました。そんなはらださんが見つけた、「今の私」だからできる子どものかかわり方とは。
「おかえり」に無言…長男が母と距離を置き
2児の母であるはらだまさこさんが、全肉の筋肉が徐々に動かなくなる難病・ALSと診断されたのは3年前のことです。現在、自分で動かせる部位はほとんどなく、日常生活の多くで、家族や介護スタッフなど、周囲の人の手を借りています。
はらださんがALSと診断された当時、長男のタカラさんは小学5年生でした。病気がわかった直後は親子関係に大きな変化は見られなかったものの、病状が進むに連れて次第に母親と距離を取るようになったそう。長男の帰宅後にはらださんが「おかえり」と声をかけても返事をせず、そのまま自分の部屋へ向かう時期もあったといいます。
タカラさんがなぜ母親と距離を置いていたのか、その理由はわかりません。ただ、はらださんも無理に理由を聞き出したり、以前のような関係に戻そうとしたりはしなかったそうです。
「親だからといって先回りするのではなく、子ども自身がどうしたいのかを尊重して、見守っていきたいと思っていました」
そう振り返るはらださんは、実際、タカラさんが帰宅後に無言で部屋に向かっても、「ただいまは?」などと返事を求めることはしませんでした。
「この味つけ、どうするの?」と息子が母に
そんな親子の距離に、最近、少し変化が見られるようになりました。最近のタカラさんは以前よりもはらださんのそばで過ごすことが増えました。料理をするようにもなり、はらださんに味付けを尋ねることもあるそうです。
もともと幼いころから料理が好きで、はらださんがキッチンに立っていたころには、「卵割るよ」「僕に炒めさせて」と一緒に料理をすることもあったタカラさん。この夏、はらださんのレシピを見ながら、鉄板ナポリタンを作ったそうです。はらださんはそれをゆっくりかみしめ、「おいしい」と伝えました。

「息子が私のレシピを作ってくれたことは、言葉に言い表せない、このうえない喜びでした」
そのときのタカラさんの様子は、笑っているようにも、泣いているようにも、照れているようにも見えて、ひと言では表せない表情だったそうです。
かつては母が作り、息子が食べていた料理。今は息子が作り、母が味を確かめるようになりました。親子の役割は変わっても、料理を通したふたりのやりとりは続いています。