2011年、60歳のときにNHK『あさイチ』で料理の「スーパー主婦」として出演、一躍時の人になった足立洋子さん。今年で74歳を迎えました。施設で暮らす98歳の母を近くで見守りながら、ひとり暮らしのわが家で自身の老いとも向き合っています。「気力も体力も60代に比べるとめっきり衰えた」と語る足立さんに、介護、老後、終活への率直な思いを聞きました。
最初から母と同居する選択肢はなかった
── 現在74歳でひとり暮らしの足立さん。今年98歳になるお母さんは、足立さんのお住まいからほど近い施設に入居されていると伺いました。
足立さん:はい。もともと母は遠方に住んでいたのですが、年を重ね、さすがに心配になった私が呼び寄せる形で今の施設に入ることになりました。設備がよく、ケアの行き届いた素晴らしい施設です。

── 施設入居を決断する前に、「家で自分が介護しなければ」といった自責の念が湧いたり、逆にお母さまが足立さんと同居を希望したり、といったことはなかったのでしょうか。
足立さん:私は「母と暮らすのは無理だ」って最初から思っていたんです。母自身も、元気な頃に、私と暮らすのは「絶対無理だ」と言っていましたしね(笑)。
でも、今でこそこんなふうにきっぱりと話している私も、最初はちょっと気持ちが揺らいだんですよ。というのも、あれだけ私と暮らすのは「無理だ」と言っていた母が、いざとなると「一緒に暮らしたい」って言い出して。もう、困ってしまいました。
そこで周囲の親しい人たちの話を聞いてみたんですが、自宅で介護をしながらお互い心地よく暮らしている方はほとんどいなかったんです。「最初はよくても、だんだん難しくなった…」とか。そんな話ばかり聞きました。
母にもよくよく話を聞いてみたところ、母が施設に対してひどく悪い印象を持っていたこともわかりました。ほかにも、引っ越しの作業や諸々、母なりに心配ごとが原因になっていたとわかったので、その不安をひとつずつ解決していったんです。それで母も安心したんのでしょう。今では見晴らしのいい施設の自分の部屋が、大のお気に入りです。
── 結果的に、お母さんにとってもいい選択になりましたね。
足立さん:母は98歳になりました。今でもとても元気なのですが、実はこの間、施設で転んで大腿骨を骨折したんです。その際は思わず、最悪のケースを想像しました。大ケガをして歩けなくなって、体力が落ちて、痩せて気力もなくなって…という。でも、2か月で退院してきて、まあ元気そのものだったんです。「リハビリ、大変じゃなかった?」って聞いたら、「それはもう、大変だった!でも、今ここで頑張ったら、またいいことがあるかもしれないって思ったのよ」って言うの。どこまでも前向きでしょう?
98歳でそう思えるのはすごいなと思いました。トイレに行く際は必ず見守りの方がついてくださるのですが、人を呼ばず勝手にひとりで行っちゃうらしくて。母を見ているとつくづく「元気なひとの介護も大変だ、私にはできない」と感じるんです。まして今や老々介護ですから。
数年前は「今この瞬間」が一番大事だったけれど
── お母さんの介護という話題のいっぽうで、ご自身の老後についてはどのように考えていますか。
足立さん:2~3年前までの私は「今この瞬間」を何より大事にしてきました。あと先のことよりも、今をどれだけ楽しく、面白く過ごせるかをね。でも、母の暮らしを見ていて、私が同じ年齢になったときに同じような老後は過ごせないなって実感するようになったんです。サービスの整った施設を長期で利用する経済的な負担もそうだし、母のような体力があるかどうか。だから、自分の老後をよりシビアに考えるようになりました。子どもに頼ろうなんて考えはありませんし。
── 具体的に何か始められたことがあるのでしょうか。
足立さん:健康についてより強く意識するようになりました。母を見て思うのは、やっぱり食事が大事ということ。自分の食べたものの記録をしてみたら、野菜や豆腐はけっこう食べているんだけれど、意外と動物性のタンパク質を摂っていないことがわかって。だから「たりていないな」と思ったら、意識的にお肉を、特に鉄分が豊富で免疫力アップに効果的と言われている牛肉を食べるようにしています。ステーキをどんと1枚焼いて食べたりしてね。

あとは「励み表」というのかな、自分で自分に課しているルールをまとめて、やることリストを作っていて。私、家にいるときは我ながらひどい格好なんです。お化粧もしなければ頭もボサボサでね。でも、そうすると用事ができたときに出かけるのがすごく億劫になってしまう。予定を先延ばしにしたり、ごく近所のスーパーにも車で行っちゃったり、どんどん堕落してしまうのね。
「どうでもいい」と思い始めると気力がどんどん下がっていく。その感じは、60代よりも70代のほうが早いと実感していて。だから予定があってもなくても、毎朝必ずお化粧をすることを日課にしました。お化粧で「オン」のスイッチを入れるんです。そうすると、毎日にハリが出て楽しく過ごせる気がします。出かけようって気持ちにもなるんですよね。
「励む」ことといえば、70代になって始めたインスタグラムの更新を、以前は3日に1回としていましたが、今は2日に1回に。自分に宿題を課しています。
「この暮らしがいつまで続けられるのか」の不安には
── 足立さんにいつお会いしてもお元気に見えるのには、そんな秘密があったのですね。とはいえ、今年74歳で、終活もそろそろ意識しますか?
足立さん:そうですね。以前は「終活も何もしない」なんて言っていたけど、それでは子どもたちに迷惑がかかると思うようになって。残された人たちが困ることがないように、最低限やれることはきちんとしようと強く思い始めました。まだ手はつけられていないのですが、どうにか整理する方法を考えているところです。
── ご自身の老いについての不安が湧き上がることはありませんか。
足立さん:この前、車でしか行けない山奥へハスカップをとりにいったんだけど、足の調子が悪いからといつも参加していたお友達が来られなかったの。それに、慕っていた87歳になる従姉妹が末期の大腸がんという知らせが最近入ったりもして。「この暮らしがいつまで続けられるのかな」という漠然とした不安はやっぱりあります。どうあがいてもその問いに対する回答がないからこそ、またフッとしたときに不安が湧き上がる。
でもね、さらに年を重ねていったら「仕方ないな」って思える日がくるのかなって気もするの。「自分はもう、できない体なんだ」と納得できて、いい意味で諦めがつく日がくるのかなって。21年前に夫が亡くなったときに、悲しみに打ちひしがれながらも、「いつか心に感謝だけが残る日が来るのかな」と思って、実際にそんな日が来たようにね。周りを見ているとそんなふうにも感じます。
そう考えると、やっぱり「今のこの瞬間」が大事なことに変わりありませんね。「励み表」で自分のスイッチをオンにしながら、「今」をより楽しもうと過ごすことが、私を奮い立たせてくれているのだろうと思います。
取材・文:遊馬里江 写真:足立洋子