「そのとき晋ちゃんが、俺ら離婚してよかったって言ったんです」。アルコール依存症の当事者の会で出会った夫から突然、離婚を切り出された神代ちよみさん。当時、夫からドナー提供された腎臓の状態が悪化し、透析を再開が必要でした。この状況で見捨てられるのかと受け入れられなかったそうですが、その後の夫の言葉を受けて本心を知ることになります。
夫との出会いで「初めて本当の愛を知った」

── 父親の虐待などを機に大学でひとり暮らしを始めたところ、お酒に溺れるようになった神代さん。心身を壊し、入退院を繰り返した末に30歳目前のとき、同居する祖母が年金を切り崩し、賞味期限切れの食材で飢えをしのいでいる状況を知って、お酒を辞めることを考えはじめます。それ以降、就職をして、アルコール依存症の当事者の会にも参加されたそうですね。
神代さん:私が精神科に入院しているときに、当事者の会のメンバーたちが何度か訪ねてきたんです。「退院したら来てね」と声をかけてくれて、そのなかに後に夫になった晋ちゃんもいて。当初は「そんな傷の舐め合いみたいな会に行くか!」と会について毛嫌いしていましたが、お酒を辞めて少し心細かったのかな。当事者の会を思い出したんです。
意をけっして当事者の会に行ってみたら晋ちゃんがいました。「お前、何しとったん。早く上がれ」と言われて、はじめから仲間扱いしてくれました。会ではみんなと話をしながら共感したり、私の話を聞いてもらったりして、徐々に癒されていきました。
── その後も継続的に通うように?
神代さん:はい。ただ気分のムラがあって、行くのが面倒な日もあったんです。そのたびに、晋ちゃんが熱心に声をかけてくれました。「ありがたいけど正直ちょっとうるさいな」と思う気持ちもあって、「どうしてそんなに私に構うのか」と聞いたことがあったんです。そうしたら「俺はお前のスポンサーだから」って言うんですよ。
「スポンサー」とは、アルコール依存症の回復プログラムにある言葉です。「スポンサー」が師匠で、「スポンシー」は弟子みたいなイメージですね。助言したり、相談することで回復の軌道に乗るように導いていくんです。
晋ちゃんは勝手に私のスポンサーだと名乗っていたのですが、でもなぜか不思議と納得したんですよね。晋ちゃんは私より18歳年上で当時47、8歳、私は30歳だったかな。彼は圧倒的な存在感があって、周りから慕われていました。
当時、私は摂食障害も患っていたし、将来的に透析の可能性もあると正直にすべて話すと「一緒に治そう」と言ってくれたんです。「この人なら安心できる」と、自然と交際も始まって、のちに結婚しました。それまで数多くの恋をしてきましたが、このとき初めて本当の愛を知った気がします。